皇子リュクシス1
「こんにちは・・・ラージュ・ルーサ殿。」
試合が終わり、
カルと共に姉の元に戻ろうとしていたルナは、
ふいに声をかけられた。
遠くでは、次の試合を始める司会の声が響き、
自らの試合に赴く選手達がルナの傍らを通り抜けてゆく。
「やはり、東のモルドルの方々が多いですね。
あそこの国の方々は、本当に幼い頃から戦闘能力が
高いですから・・・」
「・・・こんにち・・」
何だろう・・顔に巻いた布をシャラリと音させ
いぶかしがりながらもルナは、ペコリと会釈した。
あいさつを返そうとしたルナの言葉を、カルが、
一歩ルナの前に出て後ろに庇う事で、遮る。
「何か?」
注意深く、声を掛けてきた少年の周りを
見回しながら、
ルナの代わりにカルは、返事を返す。
その姿は、いつもと違っていて妙にかっこよかった。
声を掛けた少年は、
困ったように手を顎に当て慌てて言葉を発する。
「すみません・・・そんなに警戒しないで下さい・・
この人達は、私を守って下さっている
だけですから・・・何もしません。」
ルナは、カルの後ろで改めて少年の方を見た。
・・・何だか顔が良い一行だな・・・・
少年は、隙をまったく見せない
結構顔が良い2人の若騎士を両脇に従え
こちらを穏やかに見返している。
年齢は、ルナより2,3歳上だろうか
真っ直ぐに肩まで伸びる金の髪
知性を感じさせる澄んだマリンブルーの瞳
少年は、ルナが見ているのに気付き
カルに向けていた瞳をルナに戻しにっこりと微笑んだ。
そこでルナは、覆面をしてカルに庇われている
今の自分の姿にハッと気が付き
「・・カル!!いいよ、わた・・オレを庇わなくて・・
下がって・・・!!
・・・あの・・顔隠したままですみません・・ちょっと訳が
有りまして・・・。」
カルの服をムンズと掴むと後ろに下がらせようとする。
が、カルは、イヤイヤと踏ん張る。
じれて後ろからしがみ付いて下がらせようとするが、
カルは、少年と2人の騎士見つめたまま
なかなか動こうとしなっかった。
・・やっぱり同じ位の体格の相手を
動かそうとしてもちょっと無理?
金の髪の少年は、真っ直ぐな髪を揺らしながら
クルリと騎士達の方に振り向くと
「すみませんが、少し席を外していて下さいませんか?」
と申し訳なさそうに言う。
言葉に合わせてサラリと髪が
音を立てている様に動いていた。
「しかし・・・我々は、兄君に・・・」
騎士達は、慌ててそう答えるが、
少年の重ねてお願いしますという言葉と
下から眉根を寄せて見上げるその瞳に
渋々従った。
「カル・・・君も・・・」
「かまいません。」
礼儀としてルナの方でもカルに
席を外してもらおうとするが、
少年の制止の声が掛かる。
「でも・・皇子であるあなたが
そこまでして下さっているのだから・・・。」
ルナには、少年の正体が分かってきた・・確か・・
「分かっていらしたのですか。
初めまして、お会いできて光栄です。
私の名は、リュクシス・エトル=メルロース・エーテイル。
もっとも、兄上の好意で
名乗らせて頂いているだけの存在なのですが・・・。」
そう言うと剣の天才と名高い
商業大国エーテイルの皇子リュクシスは、
優雅に一礼をした。