みどりいろの木
ちがう。こういうふうに書きたいわけじゃない。
そう思っても、ほかにどうしたらいいのかわからない。
もっと、もっと。
素直に。
自分のなかにあるものを、表に出したいのに。
どうしてそれが、うまく、できないのだろう。
放っておいても、勝手に育っていく庭の木は、知らぬまに実をつけていた。
まだ青くて、かたくて、酸っぱいにちがいない。
しかし、確実に、生きている。
わたしはなにも、してやらないのに。
大切にしていても、雑にあつかっても、生きるものは生きる。
その土に、つるを垂らして。
それは祈りのようにも思える。
「これ、梯子かなにか、置いたほうがいいと思うよ」
夫がそう言って、木に近寄る。
わたしは苦笑した。
「実をつけたら、急にかわいくなったの?ずっと放っておいたくせに」
「そうだけど。気づいてしまったら、そのままにしておけないよ」
そうつぶやく夫に、まあね、と相づちをうつ。
「梯子をおいて、つるを巻きつけるの?」
「そう」
わたしは、そんなにうまくいくかなぁ、とその様子を浮かべてみる。
けっこう、無謀な気がするけれど。
「植物って、そんなに素直なものかな」
これどうぞ、って何やら怪しげな物を置かれて、そこに向かって疑いもなくすべてを捧げるなんて。
「素直だよ。人間より、よっぽど」
夫は穏やかな目をして、言いきった。
同時に、梯子をとりに玄関に向かおうと背を向ける。
それから、顔だけをこちらに向けて、言い置く。
「人間はいろんなこと、考えすぎ。生きたいと思うのは本能だからね」
夫の声は、そのときにさっと吹いた、草いきれの匂いをふくませた風に、一瞬の重さをのせていった。
わたしは髪をおさえることもせず、風が吹くままに、身をまかせる。
そうだね。ただ夢中に、生きることに没頭できたら、いいのに。
考えることは、ただ、この瞬間を生きぬくこと。
ただ、それだけで。