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ショートショート■角砂糖の味

■角砂糖の味


 エドはくすんくすんとしゃくりあげながら子供部屋のカーテンの後ろで膝を抱えていた。三人の兄はもうとっくに違う遊びを始めている。

 どうして僕はいつも勝てないんだろう、とエドはまたじわりと湧いてきた涙をズボンの膝に吸い込ませながら思った。

 兄弟で何かゲームをすると、かならずエドが負ける。

 廊下を走るのも。

 ボールを投げるのも。

 カードで遊ぶのも。

 ゲームで対戦するのも。

 今日こそは勝てそうだと思ったのに、やっぱり今日も負けてしまった。

 兄弟に負けた自分の姿を見られたくなくて、情けなくて、切なくてエドはここに隠れて自分の感情を押し殺そうとしていた。


 ふわり、とカーテンが揺れた。

「エド、大丈夫?」

 エドが大好きな従姉のベスの声だった。顔を見られたくなくて、エドは額を膝にいっそう押し付けた。

「なんでも……ない」

「泣いてるの?」

「泣いてない」

 エドの耳の横に、なにか柔らかい布が押し付けられた。

「ハンカチ貸してあげる」

 エドは顔を上げずに、膝と額の間に提供された布をはさみこんだ。

 自分や兄弟のハンカチとは違う、いい匂いがした。


「エドはまだちいちゃいんだもの、仕方ないわ」

「でもっ……チップはっ……僕の次にちっちゃいけど勝つううっ……」

 エドの言葉は嗚咽で終わった。その肩に慰めるように従姉の手がかけられる。

「エドだって勝てようになるわよ。泣かないで」

「泣いてっ……ないっ」

 すすり泣きの声が大きくなった。


 ベスに泣いているところを見られるのは恥ずかしかった。

 でもベスに背中を優しくさすってもらって、エドは角砂糖を食べた時みたいに幸せになった。


 前にチップが「誰にも言うなよ」とポケットから出した角砂糖をエドの口に入れた。

 本当はそんな行儀の悪い真似をしてはいけないのだとエドは薄々知っていたが、角砂糖は罪悪感とともに口の中で甘く崩れて溶けた。

 それから角砂糖を見るたびにまた口に入れてみたいと思うが、周囲の大人の目を盗んで角砂糖を手に入れるなんて真似は怖くてエドにはできなかった。


 早く大人になりたい。

 大人になったら、角砂糖を買って好きなだけ食べるんだ。

 そんなことを考えはじめたエドの心は、さっき負けた勝負からもう離れていた。


 カーテンを勢いよく開いて、兄のチップが現れた。

「エド、庭で昆虫採集をしようって」

「行かない」

「虫が怖いんだろう」

「怖くない!」

 からかわれたエドはむきになって答えたが、チップはもう誘いをベスに向けていた。

「ベスも一緒に行こう」

「行かない」

 ベスはすげなく断った。が、チップは引き下がらなかった。

「一人でいてもつまらないだろう。ほら」

 チップがベスの手を引いた。ベスが渋々立ち上がるのを見て、エドもつられて立ち上がった。

「厨房で砂糖をもらって水に溶かして木に塗るんだ、ってベンが」

「砂糖?」

「角砂糖がもらえるといいな」

 にやりと笑いかける兄に、エドはやましい気持ちで頷いた。


 エドはベスから借りたハンカチを自分のポケットにしまい、前を歩くチップとベスの後を急いで追いかけた。

 ベスが振り返り、エドに手を差し伸べる。

 エドはその優しい手の中に、自分の手を滑り込ませる──


 まだ角砂糖以上の幸せと罪を知らなかった頃の、エドのお話。


end(2015/02/10)

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