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異世界召喚は宇宙気分

 その日も俺はいつものように目覚ましの鳴る五分前に目を覚ました。


 いつものように身支度をして自転車へ跨ると駅まで向かう。そしていつものように駐輪場へとめて駅構内へ。ホームへ上がると電車の来るのを待ち、そして乗り込んだ。


 しかし当然朝のラッシュなので座席が確保出来る訳もなく仕方がないので車両の隅っこの方に一人ぽつんと立ちながら耳にイヤホンを挿入し外界から意識を遮断した。


「――漢よーーー!」


 その時。誰かが僕の手首を掴んだ。見ると俺の前に立っていた女がなぜか僕の手首を掴んで涙目になっている。


「…………なんですか?」


 訳が分からず困惑顔の俺。女はイヤホンを奪い取ると大声で叫んだ。


「あんた今私のお尻触ったでしょ。痴漢よ!」


「えっ」


 触っていない。というかこれあれか? もしかして痴漢冤罪的な?


「逃がさないからね。次の駅で一緒に降りて」


「う、うるさい! 俺は女には興味ないんじゃ! カ○ル君みたいな子がいいんじゃ!」


「えっ」


「だいたいね、今俺インドの音楽聴いてダンスの妄想していたんです。お尻触ってる余裕ありません」


 嘘である。インドの音楽なんて聞いた事ないし、さっき聴いていたのはアニソンだ。今年で17歳になった俺のマイエンジェル。しかしこの状況はまずい。高校生にして痴漢で捕まるとか人生詰むだろ。マジでなんでこんな女が電車に乗っているんだよ。クルマで通勤しろボケが。


 と、その時幸運なことに電車がカーブに差し掛かり車内が少し揺れた。俺はその瞬間女の手を払いのけるとサッと人ごみに紛れ込んだ。


 よしよし。あと少しで次の駅である。本当はここで降りるんじゃないけど仕方ない。あの女から逃げるためだ。痴漢冤罪はダッシュで逃げろとよく言うし。


 そうして電車は徐々に減速し、停車。ドアがプシューを音を鳴らしながら開いた。


「とう!」


 中学生の頃意味もなく練習していたローリングで車内から退避する。まさかこんな形で役に立つとは思いもしなかった。


「あ、あの人です! 私の○○○に○○したの!」


「!?」


 振り返ると後ろに先ほどの女が。さらに女の脇には駅員×2である。ふざけやがって、男の人生潰して楽しいか!?


「こっちくんなハゲー!!」


「禿げとらんわアホー!!」


 駅員の怒号を背に受けダッと駆け出す俺。やばい、泣きそう。なんでこんなことになっているんだ。電車乗ってただけなのに。


「……お」


 チャンス。ちょうど俺の目の前のエレベーターが閉まりかかろうとしている。俺はギリギリで間に合うだろうが女は間に合わないだろう。


「失礼します!」


 連日の面接練習で磨かれたキレのいい入室の挨拶をする俺。ノックが出来なかったことが心残りだがこの際致し方ない。先ほどのローリングの上を行く速度でエレベーター内に転がり込む俺。中には初老の男性が乗り込んでいたが小さく悲鳴を上げ出て行ってしまった。直後、ドアが閉まり一安心する俺。


「おじさんには……悪いことしちまったなあ」


 しかし恨むのならあの女を恨んで欲しい。俺はなんにもしていないのだから。しかしほんと、今日は厄日だ。もしかしてこのままエレベーターが落下して死亡とか。


「まさかね!」


「逃がさないわよ」


 閉まっていたドアがガコンと開かれ外側から指が現れた。次いで化物みたいな形相の女。


「ひっ」


 こいつの執念はなんなのだ。まるで男を駆逐するために生まれたような女。とその時エレベーター内に閃光が。


「なっ」


 まさか最近の駅員はM84スタングレネードでも装備しているのだろうか!? 痴漢の鎮圧用にこんな装備まで配備されてい、……しかしそれにしてはただ眩しいだけで爆音みたいなのはしない。


「んなっ、なんだよ!」


 突如俺の全身を急激な浮遊感が襲う。確かにエレベーターとかで降りるときに少しだけ宇宙飛行士気分になるが、あんなものとは比べ物にならない。下手すればこの場でゲロりそうな勢いである。


「オエエエエエエエエエ」


 ダメだ、吐いてしまった。すっぱいものが逆流して口から溢れである。もう嫌だ、お母さんに会いたい……。


「きゃああ」


 一瞬で浮遊感がさらに強くなる。思わず女の子みたいな声が出た。しかし浮遊の際に身体がふわりと浮き上がった俺は天井に頭を強打する。


「――えぶ」


 浮遊感と頭部の衝撃でなんだか気持ちよくなってきた俺。そのまま俺は意識を消失した。






     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆     ◆






「――――ん……」


 頭が痛い。瞼も重い。お玉も痛い……。しかしなんだろう、鼻腔を抜ける空気にはほんのりと爽やかな香りが混じっている。草原の香りっぽい感じ。


「お、目が覚めたようじゃの」


「あ、おじいちゃん?」





 あの頃――、そう今から8年前の夏。小学生だった俺は突然先生に呼び出された。わけがわからないまま帰りの支度をさせられ、そして校門を出るとそこには両親がクルマで待っていた。


〝おじいちゃんが危ないの〟


 クルマに乗り込んだ俺に向かって母さんは言いづらそうにそう口にした。そのまま病院へ向かう俺。しかし病室についたときおじいちゃんはもう死ぬ直前だった。


「じいちゃん!!」


 両目から涙を流して横になるおじいちゃんに抱きつく俺。もはや目を開ける気力もないようでおじいちゃんはただただ小さく息をしているだけだった。


「プリンが食べたい」


 俺の耳におじいちゃんの声が聞こえた。それは確かにおじいちゃんの声だった。


「プリン! プリンだな!? 今売店で買ってくるから待ってろ!」


 そうだ。おじいちゃんはプリンのカラメルソースが大好きなのだ。あれを食べれば元気になるかも……。淡い期待を抱いて速攻でプリンを買うと病室へと戻る。そしてプリンのカップとスプーンを両手に握らせてあげた。


「じいちゃん! じいちゃんの大好きなプリンだ!」


 その時。奇跡が起こった。それまでただただ眠り続けるだけだったおじいちゃんが目を開けたのだ。そして上半身を起こし震える手でスプーンを動かすとプリンをすくい上げ一口頬張った。


「……プリン、おおプ、」


 しかしそれが最後の気力だったのだろう。じいちゃんはスプーンを咥えたまま息を引き取った。


「じいちゃああああああああああああん!!」


 プリンは…………カラメルまで届いていなかった。





「…………じいちゃん」


 思い出してしまった。もう決別したと思っていたのに、また。大切な人の死というのはいつまでも消えることなく残された者の心に傷跡を残していくのだ……。


「くそおおおおおおおおおおお!!」


「あ、あの」


「じいちゃん!?」


「いや、違い、」


「くそおおおおおおおおおおお!!」


 というか横に座っている老人は誰? ここはどこだ? 老人ホームだろうか? ということは俺は知らないあいだに介護福祉士の仕事に……。しかし建物がかわっている。やけに開放的で天井が高いし壁には随分おしゃれな装飾が。床には何やら様々な模様が刻まれなんだかゲームに出てくる祭壇みたいな雰囲気だなあ。最近の介護施設はこうなっているのか。


「あの、他の入居者の方は?」


 ここが老人ホームというのであれば入居者がこの糞ジジイ一人ということはあるまい。他にも誰かいると思うのだが。


「? 入居者? 他の者は下がらせておりますが。それより勇、」


「あー、なるほど」


 ここはこのジジイの部屋というわけだ。それで俺はこのジジイの担当。だから他のジジババがいないのだ。


「あ、あの。よろしいですかな?」


「あ、なんですか? おしっこ?」


「いや……。実は近々この先の山に魔お、」


 ん? でも一体いつ俺は介護福祉士の資格を取ったのだろう。というかそれ以前に高校はいつ卒業したのだ? まったく記憶がない。健忘症とかだろうか。


「……あの」


 うるさいな、さっきから隣でなんなのだ。もう老人は昼寝でもしていろ。


「お昼寝しますか?」


「いや、だから! 魔王を倒してもらいたいのですよ」


「……」


 ? 魔王って、ん? 魔王? 自分の遺産を狙っている親戚のことか? そんなもの業務には入っていない。


「お断りだ。業務外。説得して欲しいなら金を出すんだな。あと交通費も」


「分かりました」


 そう言うと老人は右手にもっていた木の棒を上へと上げる。すると。


「――んなっ、なんだと!?」


 突然空から光の柱が降り注ぎ俺の目の前で爆発。見てみればたくさんの金色のメダルと初期装備みたいな服が置かれていた。


「あ、あのひとついいですか?」


 俺は恐る恐る老人訊く。


「ここ、どこ?」

 


超能力が使いたいです。

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