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第五色 彼らの現実逃避と最後の休息

 俺が意識を公園のど真ん中で取り戻した時には既に太陽が真上近くまで昇っていて、周りはそこら中を走り回っている子供とその親御さんでごった返していた。

 そんな中、明らかにこの光景に馴染んでいない高校生が一人。


「……やっと起きたかの?」


 その直ぐ横で俺より更にここには不釣り合いの金髪少女が体育座りで大人しくしていた。


「んあ……。いつから?」


 やっと痛みに慣れてきて砂を払って立ち上がると全身汗だくな事にやっと気付いた。

 それと一緒に夏らしい白を基調としたワンピースを少し冷たい風がヒラリと浮かせて彼女を立ち上がらせる。


「暑いの……ぅ」

 

 真っ直ぐに伸ばしたとてつもなく似合っている金髪を鬱陶しそうに払って俺と目を合わせる。そこには金の髪と相反する真っ黒な瞳が覗いていた。


「…………」


 なぜこんな真夏日に児童公園で寝ているのか、昨晩の記憶を辿っていけば原因は明らかで別に異世界に突然放り込まれた訳でもあるまいし、そこまで驚く事でもない。

 しかし、なぜ俺の部屋の布団で寝ている筈の異国の少女が俺の隣に座っているのか、なぜ周りの子供達は俺達の存在を無視しているのかこればかりは分からない。


わらわが貴方様の住処を出る時に卯三つ刻じゃった」


 としゃがんで年相応に地面の砂を集めて砂山を作り始めた。


「なんでここに来た?」


 暫くの沈黙の後に彼女はやっと口を開いた。


「なぜ、じゃと…?」


 そのまま顔を地面に向けて続けた。


「何か嫌な予感がしての。それも杞憂だったようじゃが」

 

 俺が友達に殴られたのがその予感ではないのか、とツッコミを入れたいところだが完全に少女は機嫌が悪かった。


「安心せい、貴方様。どうやらその友達やらも手加減してくれたようじゃぞ?」


 ふと体を見渡して金澤につけられたと思われる痛みの元を探したが俺の体には傷一つついていなかった。


「さて」


 少女は重い腰をゆっくりと上げて折角作った砂の山を自分の足で踏みつけた。途端に塵となって風に舞っていった。


「どうするかの? 今日は学校とやらに行かなくてよいのか?」


 砂まみれのジャージポケットからまだ二つ折りの携帯を取り出して時刻を確認する。

 8時52分、一時限目始まりから12分経過している。


「そうだな……」


 改めてジャージの砂を叩いて少女の顔を覗く。長い間直射日光を浴びたためか昨日より少し焼けている様にも見える。


「まだ若干、吸血鬼の特性が残っているからの。太陽光線の影響を受けやすいのじゃ」

 

 俺と目を合わせたまま微動だにしない。その吸い込まれそうな瞳にあの時の俺は何を感じたのか。


「休むか。適当な言い訳付きで」


 別に講習に行くのが面倒臭くなった訳ではない。学校に行くのも苦痛ではない。でも昨日の出来事が何と無く俺を学校に向かわせないのだった。


「……そうかの、取り敢えず朝飯じゃ!」


 声高らかに俺のジャージの裾を引っ張りだした。


「一ついいか?」


 やっぱり見た目に似合わない馬鹿力で俺を着々と帰路に着かせようとする少女の後ろ姿に話し掛けた。


「……何じゃ?」


 すると意外にも裾から手を放してその場に立ち止まった。周りを無邪気な笑顔で幼児達が走り回る。


「なぜ子供達は俺達に気付いていない?」


 暫く黙ってから少女はその背中に金髪を靡かせながら振り向いて言った。


「影が薄いのかも?」


 そう一言口にすると今度は袖を引っ張る。金色こんじきの髪が太陽の光に弱っている様に見えたのは初めてではなかった。




 学校には本当に適当な言い訳を言って講習を初めてサボった。

 と言っても別にやる事が有るわけでもなくアリスの機嫌取りのためにいつもより豪華な朝飯を食わせて昼のワイドショーを惰性で見ていた。


「うー……暇だよー。どっか行こうよー」


 リビングのソファでテレビを聞き流しているとこれまたダラダラと少し焼けた肌をさらけ出して床に寝転ぶ金髪少女。


「お前は休日の子供か」


 いい加減飽きたテレビの電源を切ってリモコンをどこかに放り投げて天井を見つめる。茶色くなった何の染みなのかいつから有るのか分からない謎の汚れが俺を見下げる。


「そうだもん……厳密には違うけど」


 アリスは項垂うなだれてそこら中を埃と共に転がる。


「確かに暇だな……。でもどこか行くのもダルい」


 そして勉強する気にもならない。

 すると突然、俺の視界にアリスの顔が現れた。頬を可愛らしく膨らませて子供の様に怒りを露にしている。いや、見た目はまさにそれなんだが。


「ねぇーどっか行こうよー、ねぇー」


 またバカ力で服を引っ張る。


「わかーった、分かったから服を引っ張るな」


 この暑さの中、俺達は庭の物置から暫く使われていなかった二人乗りの出来る自転車を取り出してピクニックに行くことになった。



 色々と寄り道をしてしまったせいで時間も金も使ってしまったが午前中はそれなりに有意義な時間を過ごしていた。すれ違う人がその度に後ろの少女を凝視する様子は見ているだけで楽しかった。

 都市開発が進んでいるとは言えまだここらは田舎の域を抜けておらず、異国人なんて天然記念物並みに珍しいのだ。

 

 アリスは終始俺の野球帽を深く被って何とかその目立つ金髪を隠そうとしていたが原因はその服装にもあると思う。


「風、強いのぉ」


 少し湿っぽい風が頬を擦って行く。この上なく快晴だけど、遠く向こうに濁った白色の入道雲が見える。


「雨、降るかもな」


 青草の上に敷いたブルーシートに腰を下ろして泣けなしの食費で買った昼食に手を出す。気付いた時には既に二、三個のおにぎりが無くなっていた。


「なぜ、そう思うのじゃ?」


 頬に白い御飯粒を付けて笑いかけるアリス。

 ……良かった、機嫌は直ったみたいだ。


「そりゃあ、あそこに入道雲が見えるからさ。あの風も何と無く湿っぽいしな」

 

 一つ山の向こうに見える夏の風物詩とも言える入道雲は綺麗にその大きさを拡大させている。

 ここら辺はまだ開発が進んでおらず、いつの間にか県有数の都市に成長したこの街に残された数少ない名残だ。蝉の鳴き声の大合唱も今となっては心地よいものだ。


「……なるほどの」


 あまり興味なさそうに返事をする少女の食べる手は一向に止まらない。その内俺の分まで食べられそうなので急いで包装を外して食べ始めた。


「ところで、何で昨晩はあのような場所で寝ていたのじゃ?」


 ついに自分の分を食べ尽くして俺が手にするおにぎりを物欲しそうに見上げた。


「…………」


 そんなの金澤に殴られて気絶してしまったのだ。考えれば直ぐに分かる。


「それは、どうかのぉ?」


 意味深な笑みを浮かべる草原の少女。その内街を眺めることの出来るこの丘も開拓されてしまう。別にこの場所に思い入れが有るわけでは無かったが、最近まで引き込もってロクに街を見てこなかった少女にここからの景色を見て貰いたかったのだ。


「どう言う意味だよ?」


 ふっ、と小馬鹿にした様に鼻で笑う。


「真実とは、いかに人類を裏切ってきたのか。実に面白いの!」


 突然立ち上がって丘からの景色を見下ろし始めた。


「この街も随分、変わってしまった……。最後に妾が外に出た時まだ人は皆一様に脇差しをしておったぞ」


 少し儚げに街を見下ろす彼女の目には何が映っていたのかこの時の俺は何も分かっちゃいなかった。


「随分と引き込もっておった様じゃ。あの頃は良かった、妾も家に籠る必要がなかったしの」


 小さな溜め息が聞こえた様な気がした。


「今のこの街はどうだ? 気に入って貰えたか?」

「まぁ、及第点じゃな!」


 そう言ってそのまま停まっている錆びた自転車の後ろに座った。


「そろそろ帰ろう。一雨来そうじゃ」


 彼女が空を見上げるのを見てつられて空を見る。やっぱり夏の空だったけどあの入道雲が予想以上に早く街の青空に広がっていた。



 街に戻ってきた頃にはいつの間にか6時を回っていた。まだ経っても4時くらいだと感じていたので携帯を見た時には椎名アランからのメールの数と一緒に驚愕した。

 (アランからのメールだけで30件近くが受信されていたのだ)

 

 空も既に快晴とは呼べず、今にでも大雨が降りそうな不安定な雲行きをしていた。

 しかもそれに重なって運悪く帰路の途中で自転車がパンクして押して帰る羽目になった。こまめに点検はしないと駄目だな。


「やっと家かの、足がボウじゃ……。」

「運動不足を痛感させられるな」

 

 ふらふらの少女を横目にやっと見馴れた景色が辺りに見えるようになってきた。家の前の角を曲がるとうちの玄関の前に女性が立っていた。

 見た目は異国風の女でアリスに似た金髪でこちらは見事なショートボブ。ずっと家の二階部分を見つめて動かない。

 

 俺はそれを見てなぜか、本当になぜか生命の危機を感じずにはいられなかった。別にどこかで会った訳でも無かったが言うなれば本能が、俺に危機を伝えていた。

 

 俺と少女が家の10メートル程手前で立ち止まっているとその異国人はこちらに気づいて振り向いた。その顔は正に美女で、滅多に会うことのないレベルのオーラを放っていた。

 それでもその顔に見覚えはない。でもやっぱりどことなくアリスに似ていた。

 俺とその裸眼なのかカラーコンタクトなのか真っ赤な瞳を合わせると気味が悪いほど落ち着いた笑顔を見せた。


「久しぶりね、司鷹さん」


 ぴとり、と鼻に落ちた雫がやけに冷たかった。

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