首都以外全道府県独立宣言
きっかけは地方都市を襲った大地震だった……。
「臨時ニュースです!〇✕県を震源地にした地震が発生しました!推定震度は7!避難してください!命を守る行動を!繰り返します……」
「ニュースです。〇✕県で発生しました地震の影響で、震源地付近の原子力発電所にて放射能漏れの可能性が報告されました。現地は立ち入り禁止となっており調査が続いております。」
ここは似本国。
ある日、似本国の地方都市を襲った大地震。
その被害は甚大で、未だに全容が掴めていない。
その最中に衝撃的な情報が入った。
絶対の安全を約束していた原子力発電所で、放射能漏れの可能性が指摘されてしまったのだ。
官邸では早急に対策本部が設立され、対応に追われていた。
「首相!準備ができました!」
テレビカメラの前に立つ他界地首相。
「本日、〇✕県を震源地とした震度7の地震が発生しました。国として急ぎ自営隊を派遣し救命救助を行います。また災害対策本部を現地と首都の党狂都に設置しました。この本部を中心に復旧に向け全力で対応いたします。」
現地の対策本部は、寝る間も惜しみ働いた。
避難場所の手配、安全な食事と飲料水の確保、そして行方不明者の捜索と遺体の回収……
人の発見のたびに起こる歓喜と絶望。
県を跨いで周辺地域の人々は役所関係者も医師も自営隊員もボランティアの方々も協力し合って懸命に動いたが、いかにせよ人手が全く足りていない。
「県知事!とても人手が足りていません!党狂都の本部に、急ぎ救援要請をお願いします!」
「私も現地を見てきて、人手以外にも必要な物資を先んじて党狂本部にメールしておいた。早速オンライン会議を依頼しよう。」
そうして現地の現状を報告し、被災地と党狂都でオンライン会議が始まった。
「……以上のように現地はとても酷い状況です。至急要員の確保と物資調達を依頼します。」
県知事をはじめ、現地の対策本部職員は必死に党狂本部に訴えた。
しかし、党狂本部の思惑は違うところにあった……
「物資等は追加し自営隊に向かわせるようにしよう。それよりも原子力発電所はどうなのだ?再稼働の見通しは立っているのか?」
「はぁ?」
エネルギー大臣の発言に、現地の対策本部の面々は呆気にとられた。
放射能漏れの可能性から、未だ近づく事さえ出来ない現状を知っているだろうに。
「そこで止まっている原子力発電所の電力は党狂都のおよそ3割を担っている。早急に発電を開始してもらわないと困る。」
「……何を言われているんですか?放射能漏れの危険をはらんでいる原子力発電所を再稼働できる訳がないじゃないですか。」
怒りをあらわにして県知事は反論した。
しかしエネルギー大臣も語気を強めて言い返す。
「地方の県知事ごときが何を言ってる!首都の産業や機能が止まる方が一大事だ!都民の生活もかかっている。首都の機能が停滞したら各諸国にも面子が立たん。技術者を送るから対策本部で原子力発電所まで案内するように。自営隊員もそちらの作業を優先させろ。これは国からの命令だ。」
それだけ言うと、党狂本部側から一方的に通信を切断された。
「……総理は何を考えているんだ……」
「ニュースをお送りします。本日は臨時に他界地総理にお越しいただいています。」
「こんばんは。他界地です。」
「大地震の発生から1週間が経ちました。現在の様子について教えてください。」
「はい。現地では住民が少しずつ日常を取り戻しつつあります。地方対策本部と党狂本部との連携が成功した現れでしょう。また原子力発電所も不具合は無く無事が確認された為、再稼働を始めました。党狂都民の皆様には節電をお願いしていましたが、それも今日までです。さあ!皆で協力して被災地の復興に邁進しましょう!」
未だ電気も水道も回復していない被災地では、焚き火を囲みラジオでこのニュースを聞いていた。
「何が日常を取り戻している…だ!そんな訳がないだろ!」
「ふざけるな!総理!」
現地の住人が怒り心頭なのは当然だ。
党狂本部から派遣された技術者や自営隊員は、原子力発電所の復旧のみに尽力している。
また原子力発電所のみ、電気も水道も最優先で復旧させている状況なのだ。
そして発電所の復旧作業のみが党狂都のテレビで放映されているそうだ。
実際の現状は、とても日常を取り戻したなどと言えるものではないのだ。
家は倒壊し、電気も水道も使えず、毎日を学校や集会場などで肩身を寄せ合い生活している状態。
それでも被災地に近い自営隊基地からは自営隊員としてではなく、ボランティアとして志願し休暇を取って助けに来てくれている。
その話を聞いた他県の自営隊員や技術者も、遠近問わず応援に駆けつけてくれた。
ありがたいことだ。
県知事は涙を流しながら感謝した。
そして『党狂都を除く』、その他の道府県知事とオンライン会議を行って、協力に対する感謝のお礼をした。
「この度は私共の県の災害に対し、多大なる御支援をいただき感謝の念に堪えません。誠にありがとうございます。」
県知事は深々と頭を下げた。
「何を言いますか!困った時はお互い様です。しかし……党狂都と内閣の対応には我慢できません!」
「全くです。と言うか、やはり今回も……と言ったところでしょうか。」
「そうですね。私の県でも集中豪雨の災害の時に内閣が心配していたのは、党狂都への流通についてだけでしたからね。」
「私の県での地震の時もそうだ。まず心配していたのは原子力発電所の送電だけだ。なぜ我々が党狂都の為にリスクを請け負ってまで原子力発電所を用意しなくてはならないのだ!」
「それは決まっているじゃないですか。原子力発電所を都内に造るなんて言い出せば政治生命が終わってしまうからでしょう。原子力発電所は安全だから大丈夫と言っておきながら自分の生活圏には作ってほしくない。そう思う人は多いでしょう。多くの人口を抱える党狂都の住民から不評を買えば選挙で勝てませんからね。」
「すると我々は党狂都に搾取されるだけの存在なのか……いや!断じて違う!」
「そうだ!そうだ!」
「これを機に全道府県一丸となって行動を起こそうではないか!」
「賛成!」
「賛成!」
この日、党狂都以外の全ての道府県が結託した。
それから10年後。
首都の国会議員は相変わらず地方を見下し、自分達こそが選ばれた指導者と信じて疑わなかった。
毎晩行われる政界や財界の有力者を集めたパーティー。
「最近は地方の議員共が静かだな。」
「彼らもようやく自分達の立場が分かったのでしょう。」
「田舎者の分際で国政や党狂都に意見するなど身分をわきまえてほしいものですな。」
「ははは!まったくだ。」
「ささ、先生方、お酒も料理も美しい女性も用意いたしました。今宵は是非楽しんでいってくださいね。」
「おお、これは党狂電力の社長殿。いつも世話になるな。」
「滅相もない。それはこちらの台詞です。地方に原子力発電所を建設する後押しをしていただき助かっていますよ。」
「それはそうだ。党狂都の電力が不足しては都民も満足に生活できないからな。地方には発電だけやらせておけばいい。どうせなら核のゴミもその場所に埋めてしまえばよいのだ。なのに中々首を縦に振らん。金ならやるぞ…と言っているのにな。どうせ人口は少ないんだ。何が問題なんだか。」
「ははは!まったくです!」
「私共も同意見です。」
「これは似本鉄道の社長殿。高速リニア新幹線の建設は順調かな?」
「おかげさまで。通過するだけの地方が騒いでいましたが、最近はやっと静かになりましたよ。」
「大体、田舎に駅など作っても仕方ないだろ。とにかく世界一速い鉄道と言う肩書が欲しいだけだからな。いちいち停車などさせられるか。大都市間だけ運行すれば良いのだ。通過するだけの地域は黙って土地だけ差し出せば良いのだ。」
「まったくその通りです。」
「地方議員も静かですが、近年は他国も随分と静かですな。」
「これは都与太の社長殿ではないか。そうなのだ。あれほど圧力をかけてきた飴里香国や注国が随分と大人しくなったものだ。」
「今の似本国に怖気付いたのではないか?ワッハッハ!」
「先生方、また御冗談を。ただ何か見えない所で動いているような怪しさもありまして。都与太の社内でも注視しているのですが……うちの支社等は何も気にならないようでして。奴等も所詮、地方の田舎者と言ったところでしょうか。」
「まぁ問題なかろう。似本国はこの場にいる国会議員の面々と、あなた達のような国を代表する会社の社長殿が牛耳っていれば世界が相手でも恐れる事は何もない。この党狂都が万全なら全く問題ない。」
「まったくです。ワッハッハ!」
それは突然だった。
「臨時ニュースです!たった今、似本国の各道府県が突然独立宣言をしました!」
そのニュースは有力者のパーティー会場にも伝わった。
「何を馬鹿な事を。この平和な似本国でそんな事があるわけ無かろう。何の冗談だ?笑えんぞ。」
「議員先生様方、各社長様方、とにかくテレビを用意しますのでニュースをご覧になってください。」
そう言うと、議員の秘書は店のスタッフに、会場にいる全員に映像が見えるように大型スクリーンの設置を指示し、ニュースの映像を流した。
「臨時ニュースです。先程発表された各道府県の代表者の声明演説の映像をお送りします。」
「10年前の地震による大災害を皆さんは覚えているでしょうか。あの時、まだ安全確認できていない原子力発電所を、似本国は党狂都の電力安定の為に地方の住民の生命を無視して稼働させました。この時ばかりではありません。過去の災害時でも国の中枢部は地方の安全を無視して、党狂都の為だけに行動してきました。私達は我慢の限界を超えました。よって私達は、今、ここに似本国からの独立を宣言します。」
「な、何を言っているのだ!?コイツは?」
騒然とするパーティー会場。
しかしニュースはまだ続いた。
「ただいま地方の各電力会社から声明が発表されました。今後、発電所からの電力は地元だけに送電するとの事です。また既に独自に同盟を結んでいる県には、これまで通りの供給を約束しているとのことです。」
その報道の直後、党狂都の街から灯りが消えた……
翌日、各省庁ではパニックになっていた。
エネルギー省では各電力会社の責任者を呼び出していた。
「いったいどうなっているのだ!?」
「それが各地方の電力会社が全て、党狂都とは契約が成立していないから送電を打ち切ったとの一点張りです。」
「そんな契約など聞いていないぞ!」
「どうやら各道府県は、10年前から充分に準備して今回の独立を行ったようです。」
「そんな事が認められるか!警察はどうした!?」
警察庁では各県警に連絡を取っていた。
「本庁からの命令だ。即座に県議を調査し、今回の騒動を鎮圧するように。」
「何を言っているのですか?こちらは独立した県の県警ですよ。他国のあなた達の命令を受ける筋合いはありません。」
「何をバカな!?」
「我々県警も10年前から準備していたんですよ。」
国防省では各基地と意見が粉砕していた。
「国の命令は絶対だ!地方の騒動を鎮圧しろ!実力行使も構わん!」
「我々各地方の自営隊基地も、地元に従うことにしました。よってあなた達の指示には従いません。」
「なんだと!ならこっちも容赦しないぞ!」
「どうぞご自由に。そちらが開戦をするのならこちらも容赦はいたしません。既に党狂都を総攻撃出来るように部隊を配置してあります。」
「な!?いつの間に!?」
「地方は10年前から戦闘配備をしていたんですよ。既に銃口は党狂都に照準を合わせています。」
地方はこの日の為に、徹底的に準備をしていた。
高速道路等の主要道路をはじめ、国道や県道等、あらゆる道路が党狂都との境で封鎖された。
鉄道に至っては党狂都内の鉄道にも送電を停止し、こちらも党狂都との県境で折り返し運転に切り替えた。
空路もこの日に併せて国内便はおろか国際便まで都内の空港からの離発着が止まった。
これにより党狂都外からのいっさいの物流が停止。
他県からの農畜産物の流通も無くなった。
水道も他県からの供給はストップ。
これにより党狂都は、完全に自給自足状態に陥ったのだ。
過去最長期間、首相の座を守ってきた他界地総理は、苦虫を噛む思いで他国に援助を求めた。
しかしそれも……それすら全ては遅かったのだ。
地方は入念な準備を行ってきていた。
それは似本国内だけに留まらない。
西似本は、注国と協力関係を築いていた。
奇しくも総理を批判する対応で利害が一致したのだ。
東似本は、飴里香国基地の協力を得て、独自にジョーカー大統領と会議を交わしていた。
そして北似本は、炉使阿国と領土問題を独自に解決し、和平を結んでいたのだ。
その結果、党狂都と内閣の知らないところでこの三大国は、王坂府を舞台に握手を交わしていたのだった。
近年、世界における紛争が減りつつあるのは、実はこの握手が大きく影響していたのだ。
どの国も自国の市民が似本国のように活動されては困る。
まずは他国への軍事介入よりも、自国に目を向けることを優先する方針を取った結果であった。
だが本音を言うと、今回の件は三大国にとっても好都合だったのだ。
なんだかんだ言っても無駄に大金がかかる戦争など早く終わらせたかったのである。
ただ戦争を終結するにしても、自国の面子を保つ理由とキッカケが欲しかったのだ。
ここまで事実が明らかになって、やっと内閣は手遅れな状況にまで自分達が追い込まれていることに気が付いた。
「まさか注国、飴里香、炉使阿がバックについていようとは……」
「とにかく、各県と話し合いで解決しよう。奴らとて無駄な争いはしたくないはずだ。」
そして党狂都と各県との会議が行われた。
「……というわけで、これからはお互い対等の立場で新しい国家を作り上げましょう。国民もそれを望んでいます。」
他界地総理は笑顔で演説した。
内閣の各大臣達もとても笑顔だ。
しかし各県知事は冷めた顔のままだった。
「何を話すかと思えば……何が対等の立場ですか。馬鹿にするのもいい加減にしてください。」
「な、なに?」
「今まで散々見下してきて、やっと今対等の立場になったところですよ。」
「どこが対等な立場だ!電気も食料も渡さずに!」
「当たり前じゃないですか。電気も食料も私達の大切な商品です。お取引には応じますよ。まさかタダでよこせ!などとは言わないですよね?」
「まるで話にならん!」
「そうですね。お話になりません。交渉決裂です。」
「い、いや、ちょっと待て!」
「……もう話し合う余地など無いと申し上げているのですよ。」
「せめて私達国会議員だけでも助けてくれ!」
「都民を見捨てるのですか?正気の沙汰とは思えませんね。ところで国会議員の方々も、既に相応の人数を受け入れていますよ。それに党狂都の大手企業本社で勤めていた一部の方々も。その方々は、あなた達から地方など相手にするな!……と怒鳴りつけられながらも私達を手助けしてくれた恩人です。彼らも10年前から今回の独立の事前準備をしていてくれていました。偉い議員様方はお気付きにならなかったようですが、あなた達の側近だった者もいます。と言う訳で、こちらで必要な人材は既に来ていただいています。あなた方は党狂都を良い国にして下さいね。」
「良い国になどなるものか!大体が党狂都に住んでいる者は自分の事しか考えておらん。私は党狂都に何の未練もない。頼む!助けてくれ!」
「なるほど……ちなみに今日のこの会議の様子はテレビ放送で生中継されていました。いわゆる国会中継ですね。おそらく多くの都民も見ていたことでしょう。お話は都民への説明や対応が終わってからにいたしましょうか。」
「な!?なんだと!?待ってくれ!助けてくれ!」
その後のニュースで、多数の議員が残る国会議事堂に火が放たれ、逃げ出てきた議員は詰めかけた多くの都民達に嬲り殺されたという……
こうして食料も電気も途絶えた党狂都は住民が暴徒化、警察にも自営隊にもそれを抑える力は既に無く、多くの犠牲者を出し沈黙したのであった……
独立宣言から十数年後……
かつて首都であり、物と人で溢れていた煌びやかな都会。
しかし、今は建造物もすっかり草木に飲まれてしまい、緑多き自然豊かな土地へと変貌していた。
多くの人がこの地で亡くなり、鎮魂と教訓の為に現在は立入禁止となっているのだ。
その影響であろうか。
かつてこの地は、夏になれば気温は40℃となり、発達した積乱雲が日々発生しては豪雨の被害をもたらしていたが、今は時が戻ったかのように、かつての夏の風景をもたらしていた。
似本国では穏やかに温暖化現象が収まりつつあった。
また党狂都の壊滅により人口は大きく減少。
かつて争いの元になった電力も、今では風力、水力、太陽光等の自然エネルギーで充分に賄えるようになった。
こうして国際的にも似本国は環境先進国の仲間入りをしたのであった。
何が好結果をもたらすか……分からないものである。
今回は、たまたま運が良かっただけなのかもしれない。
しかし、苦労の末に得たこの幸せが長く続く事を、人々は祈るのであった………
十年程前までは党狂都だった廃墟群……
今は立入禁止となり、誰も居ないはずのその地に残された元アウトドアショップ。
そこでランタンの灯を囲む集団。
虚ろな目で非常食を食べながら、ひとりが呟く。
「仕返ししてやる……待ってろ……似本……」
雲が切れ、月明かりが党狂都だった場所を怪しく照らす。
1人……また1人とアウトドアショップを目指す、かつての動乱を生き残った人々の目は皆、狂気に満ちていた………
おわり
この物語はフィクションです。
実在する国名、地名、社名、人物等とは一切関係ありません。




