1.何十年ぶりの
【登場人物】
おじ様 ……主人公
フランメ ……愛馬♀
懐かしいニオイだ。
南の大陸のほとんどは荒れ果てた荒野だが、俺の故郷は恵まれている。
西の大陸の『水の神殿』からわずかな影響を受けてるおかげで、草木や森、境界を挟んだ湖まであるもんな。
まぁ、田舎である事にゃ変わりないが。
「どうしたフランメ?疲れたか?」
「ヒィン……」
10日の長旅、ゆっくり来たつもりなんだがな……さすがに、十分な水分も食事も取ることは難しかったのがいけなかったか。
「もう少し辛抱できるか?確かこの辺りに小川があったはず……村も近くだが、少し休憩しよう」
「ブルルルッ!」
『元素神馬』として共にゆくのは、愛馬フランメ。
赤く美しいたてがみも、輝くはずの白毛も、砂埃で汚れてしまっている。村の皆にお披露目することも考えると……おめかしとまではいかないが、整えるのも悪くない。
森に入り、しばらく歩くとせせらぎが聞こえ始める。目的の小川に到着だ。
「よーしよし……」
冷たい水で喉も潤せたし、フランメの美しさも戻った……。
「はぁ〜〜〜!お前はキレイだなぁ〜〜」
「フッガッ!」
「ってぇ……馬のくせに表情豊かなのも……おい、そんな嫌そうな顔するなよ、おじさん泣いちゃうぞ」
いつの頃からか、人の言葉がわかっているような態度を取るようになったんだよな……ま、絆が深まっていると言うことにして……精神を保っている。
気を取り直して村に向かって出発……と、言いたいところなのだが……そうは行かないらしい。
"……――っ!"
フランメも、その気配に気付いたしな。
「行くぞ」
背に乗り走り向かうのは、わずかに聞こえた音と……声の場所。
「いたっ!」
真っ先に目に入って来たのはオオイノシシ。
おいおい……いくら食料に困らないくらい、豊かな森っていっても、育ち過ぎだろ。
あぁ、クソ、忘れてた。
「もうすぐ、祭りだった……なっ!」
懐かしいと言えば、懐かしい。だが、嫌な思い出ではある。俺の時はなんだったかなぁ?たしか、オオツノジカ……ケツにめり込んだ角の感触が蘇る。
「頭下げろ!!」
「ひゃぁぁ!!」
有難いことに、フランメは、俺の動きを分かってくれる。飛び降りるタイミングに合わせて急停止、慣性を使って勢いを重ねてくれた……こういう絆は、あっていい!
「よぉ!デカく育ってくれたみたいでありがたいなオオイノシシ!……ここで焼かれて、メインディッシュになりなっ!【炎宿す熱き紅球】!!」
熱の粒子が体内を走るのを感じる。誘導し、形成し、放出する……火の元素を操る人間が使う基礎的な攻撃方法。
年食ってるとはいえ、俺は守護騎士だ……威力と正確性には自信がある。
火の元素を凝縮させた玉を打ち出す。興奮し、警戒心を持たない獣……偉そううにしてはみたが、オオイノシシだもんな、簡単に着弾はするか。
「ブ、ブモォォォォォ!!」
「さすがにデカくてもイノシシ……猪突猛進は変わりゃしないか。美味しく焼けてくれよ〜?」
炎に包まれ、しばらく暴れたあと大きな音を立てて横に倒れたオオイノシシ。あとは中までじっくり焼けるのを待つだけだ。
さて、と。
「大丈夫か?」
「こ、怖かった……」
12歳かそこらくらいか?
まったく、火の元素持ちの人間はあいかわらず血気盛んで困るな。
にしても……やけに可愛らしいな?決まりじゃ女の子ひとりじゃさせないはずなんだが……。
「ありがとうございます、おじ様」
「お、おじ様……は、はは……ところで、コンビを組んでるはずじゃないのか?」
「え?なんでですか?」
「え?だって、女の子だろ?」
見つめ合い、お互いに首を傾げる。
「僕、男です」
「ホワッツ!?」
「だから、僕は男なので……しきたり通り、祭りのための獲物の狩猟、ひとりでやってたんです」
うそだといって欲しい、顎が外れた、空いた口が戻らん。こんな、まんまるくりくりお目々のかわいい子が……男の子だってのか?
俺の村でなにが起きてるんだ?誰の子なんだ?こんな遺伝子持つようなやつ、いたか?
「あ、焼き上がったみたいです、おじ様……おじ様?」
俺は固まって、なにも言えない。
「ブルル、ヒィン」
「わ、きれいなお馬さん!お手伝いしてくれるの?ありがとう!」
おい、フランメ……初対面の態度が、俺と大違いじゃないか。
【豆知識①】
元素使いは魔法使いとは違います。
なので『元素をもとに火魔法を使う』、とはなりません。
元素を体内に宿して生まれた人間が、それを練って体外に放出する、ゆえに『元素を使って攻撃をする方法』という形で『攻撃法』としています。
元素の持つ性質から、『治癒法』『防護法』等も存在します。いずれ出てくるかな!
元素神馬
その名の通り、神の祝福で生まれた、元素で生まれたお馬さんです。動物には基本的に元素は宿りません。
元素神にいちばん近い守護騎士にだけに与えられる、移動手段だけではない特別な存在です。




