石鹸は貴族のもの?
街に着いた。
「人多いな」
「王国の地方都市だから」
シェリーが説明する。
エリックはきょろきょろしていた。
石造りの家。
木の看板。
行き交う馬車。
完全に。
中世ヨーロッパ風異世界。
「魔法ないの?」
「ない」
「魔物は?」
「いない」
「でも猫耳はいる」
「いる」
「不思議な世界だな」
「あなたが一番不思議」
シェリーは真顔だった。
⸻
とりあえず市場に来た。
肉屋。
野菜屋。
パン屋。
どれも美味しそうだ。
しかし。
「高いな」
「お金ない」
「だよね」
二人は空腹だった。
そこでエリックは言った。
「まず材料探そう」
「石鹸?」
「そう」
シェリーは疑問顔。
「でも石鹸って高級品だよ?」
「知ってる」
「材料高い」
「いや、そうでもない」
「?」
エリックは指を立てた。
「石鹸の材料は3つ」
「3つ?」
「油」
「うん」
「灰」
「灰?」
「水」
「それだけ?」
「それだけ」
シェリーは黙った。
そして言った。
「それで石鹸できるなら誰でも作る」
エリックは笑った。
「作り方がわからないから高いんだよ」
前世で見た、石鹸DIY動画。
まさか。
異世界で役に立つとは思わなかった。
⸻
まず灰を手に入れる。
パン屋の裏。
「灰ください」
「なんだ兄ちゃん」
「ちょっと実験」
「好きに持ってけ」
無料だった。
次。
油。
これは問題。
「油高い」
「だよな」
そこでエリックは肉屋に行った。
「すいません」
「なんだ」
「その脂」
「これ?」
肉の切れ端の脂。
普通は捨てる部分。
「それください」
「タダでいいぞ」
「ありがとうございます!」
シェリーは驚いていた。
「材料ほぼタダ」
「そう」
「すごい」
「俺も今気づいた」
⸻
街外れ。
空き地。
鍋を借りて火を起こす。
「何するの?」
「まず灰を水に入れる」
「うん」
「灰汁を作る」
「へえ」
次。
油を温める。
「料理みたい」
「まあ似てる」
そこに灰汁を少しずつ入れる。
ぐるぐる混ぜる。
ぐるぐる。
ぐるぐる。
シェリーが言う。
「これ意味ある?」
「ある」
「何分?」
「……」
「何分?」
「動画だと『いい感じになるまで』」
「雑!」
⸻
30分後。
ドロッとした物体ができた。
「これが?」
「石鹸のもと」
シェリーが匂いを嗅ぐ。
「くさい」
「まあね」
型に流す。
「固まるまで待つ」
「どのくらい?」
「数日」
「長い」
⸻
三日後。
固まった。
エリックは切った。
「できた!」
シェリーは恐る恐る触る。
「これが石鹸?」
「そう」
「ほんとに?」
エリックは川へ行く。
手を洗う。
泡が立つ。
「おおおお」
泡立った。
成功。
シェリーが叫んだ。
「すごい!!」
そして顔を洗う。
少しして。
驚いた。
「肌すべすべ」
「でしょ」
「これ売れる」
「売れる」
二人は顔を見合わせた。
そして言った。
「商売だ!」
⸻
市場。
雑貨屋の前。
店主が怪訝そうな顔。
「石鹸?」
「はい」
「いくら」
エリックは考えた。
貴族の石鹸は高い。
でもこれは手作り。
「銀貨1枚」
店主は目を見開いた。
「安すぎない?」
「え?」
「これなら全部買う」
「え?」
シェリーも固まった。
店主は言った。
「30個くれ」
「え?」
「すぐ売れる」
エリックは思った。
やばい
商売になる。
その夜。
二人は初めて。
パンとスープを食べた。
シェリーは言った。
「エリック」
「ん?」
「あなた変人だけど」
「ありがとう」
「たぶん大金持ちになる」
エリックは笑った。
「いやいや」
しかし、この時点ですでに。
王国最大級の商会の第一歩が始まっていた。
夜にもう1話投稿します。




