下水道の整備
雨が降ったあとの村は、水たまりができ、地面はぬかるむ。
歩くたびに足を取られる。
漂ってくるのはひどい悪臭だ。
生活排水や雨水が混ざり、行き場を失って滞留している。
村の中心で、村長は腕を組みながら深くため息をついた。
「これでは、とても街とは呼べん……」
「人が安心して暮らせる場所じゃない」
周囲にいた村人たちも同じ思いだ。
エリックは、しばらく無言で地面を観察していた。
「……下水道を作ろう」
突然の提案に、村人たちは顔を見合わせる。
「???」
何を言っているのか分からない。
シェリーが半ば呆れたように肩をすくめる。
「また新しい発明?」
リオは顎に手を当て、少し考え込むように言った。
「下水道……都市インフラの一種か」
エリックは小さくうなずいた。
「そうだ。水の流れ道を作れば、臭いも減るはずだ」
作業はすぐに始まった。
木をくり抜いた管や石を組み合わせ、水が通る水路を作る。
エリックは村全体から外へと水が流れるよう設計する。
各家の裏には小さな排水口を設け、生活で出た水もそこへ流す仕組みにした。
そして数日後――再び雨が降った。
村人たちは固唾をのんで様子を見守る。
水はゆっくり確実に水路へと流れ込み、そのまま村の外へと排出される。
しばらくして、誰かが声を上げた。
「……臭くない!」
その一言をきっかけに、あちこちで同じ声が上がる。
「本当だ!」「全然違う!」
村の空気は明らかに変わっていた。
あの不快な悪臭はほとんど感じられない。
地面も以前ほどぬかるんでおらず、歩きやすくなった。
シェリーは満面の笑みでエリックの方を振り返った。
「エリック、やっぱり天才!」
エリックは額の汗をぬぐいながら、少し照れくさそうに笑う。
「ただの前世の知識だ。珍しいだけで、特別なことじゃない」
その「当たり前」は、この村にとっては大きな一歩だ。
単なる思いつきではなく、人が快適に暮らすための仕組み
――その価値を、村人たちは初めて実感した。




