蒸留酒革命
石鹸工場が動き始めた頃。
煙が安定して上がる。
人の出入りが増える。
荷車が行き交い、村が少し騒がしい。
エリックは工房の隅で新しい装置を作っていた。
銅の鍋。磨かれた表面。火に強い。
管は細く長い。ぐにゃりと曲がる。
これで冷却できる。
樽。木の匂い。
中は空でこれから満たしていく。
シェリーが覗き込む。
耳をぴくぴく動かす。興味津々だ。
「これ何?」
エリックは手を止めない。
調整しながら答える。
「酒」
シェリーは目を丸くする。
「普通の酒はあるよ?」
村にもある、薄い酒。日常の味。
エリックは首を振る。そして少し笑う。
「これはもっと強い」
自信ありげに言い切る。
後ろからリオが言った。
「蒸留」
シェリーが首をかしげる。左右に揺れる。
「じょうりゅう?」
聞き慣れない言葉。
エリックが手を動かしながら簡単に説明する。
「酒を温める」
シェリーがうなずく。
「うん」
エリックは続ける。
「出た蒸気を冷やす」
管を指さす。水桶も指す。
シェリーがまたうなずく。
「うん」
エリックは最後に言う。
「すると強い酒になる」
短く、そして核心部分をいう。
鼻を近づけすぐ離す。そしてシェリーが言った。
「危ない匂い」
眉をしかめる。少し後ずさる。
リオが小さく笑う。
「正解」
⸻
鍋に酒を入れる。
とぽとぽ注ぐ。
量を測る、無駄のないように。
薪に火をつけ燃やす。
ぱちぱちと炎が揺れる。
しばらく待つ。
静かな時間がすぎていく、誰もしゃべらない。
装置を見つめ耳を澄ます。
やがて…
ポタっと小さな音。
管の先から液体が落ちる。
一滴。また一滴。
規則的。透明。
樽に落ちる前に受ける。
エリックが匂いを嗅ぐ。
慎重に鼻を近づける。すぐ離す。
「よし」
短く判断。
成功。
杯に入れる、ほんの少量。透明な液体が揺れる。
シェリーに渡す。
「飲んでみ」
シェリーが一口。
恐る恐る舌に乗せる。
次の瞬間。
「ぶっ」
吹いた。
勢いよく咳き込む。
目が潤む。
「強い!!」
声が裏返る。
喉を押さえる。
リオも飲む。
表情は変わらない。
少しだけ目が細くなる。
「……アルコール濃度高い」
冷静に分析し、そしてすぐに理解する。
エリックが笑う。満足げだ。
腕を組んで
「蒸留酒」
と言葉にする。
価値を乗せる。
まだ咳き込みながらシェリーが聞く。
「売れる?」
半信半疑だが興味はある。
エリックは即答した。迷いなし。
「めちゃくちゃ」
そう断言した。
リオが横から付け足す。
「税金もめちゃくちゃ」
現実だが、重要なことだ。
シェリーは顔をしかめる。
「やっぱ危ない」
エリックは笑いながらいった。
「だから儲かる」
⸻
蒸留酒は王都に送られた。
樽に詰め封をする。
馬車に積む。護衛もつける。
揺られながら出発。
街道を進んで数日後に手紙が届く。
予想以上に早い。
リオが読む。
封を切り紙を広げる。目を走らせる。
「注文書です」
淡々と。だが声が少し上がる。
腕を組む。
「どれくらい?」
リオは一拍置く。
そして数字を確認。
「100樽」
シェリーが固まる。
耳が止まる。
「え?」
理解が追いつかない。
リオはさらに続ける。紙をめくる。
「追加注文300」
さらりと言う。
エリックも流石に少し驚く。
でもすぐに笑う。
「早いな」
予想以上だが嬉しい。
リオはうなずきながら言った。
「貴族が気に入ったらしい」
情報を補足、これが重要な点だ。
シェリーは目をぱちぱちさせる。
「お酒そんな人気?」
まだ信じられない。
リオ
冷静に答える。
「騎士が毎日飲んでる」
消費が早い。つまり需要がある。
エリックが笑った。はっきりと自信の笑い。
「量産するか」
次の段階をもう決断している。
リオはすぐ頷く。
「設備を増やします」
頭の中で計画。
シェリーはため息をつきながら、でも少し笑う。
「また忙しくなるね」
エリックは迷いなく即答する。
「儲かるぞ」
村の空気が変わる。
工場の音。人の声。
そして新しい匂い。酒の匂い。
村はさらに動き出す。




