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異世界ものづくり商会記 〜趣味だった「YouTube真似してものづくり」の経験を活かして快適に暮らそうと思います〜  作者: 積と和〝


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新たな始動

王宮から戻ったエリックは、息をつく暇もなく店へと直行した。

今回の北の開拓地戦への対応で人手も物資も大きく割かれ、店の在庫はほとんど空に近い状態になっていた。


棚はスカスカ。

売れ筋だった商品も軒並み品切れ。


「これはまずいな……」


エリックは眉をひそめる。

まずやるべきは、生産体制の立て直し。

そして、それだけでは足りない。新しい目玉商品も必要だ。


シェリーが帳簿を見ながら言う。

「このままだと一週間も持たないよ」


リオが腕を組む。

「でも逆に言えば、今なら何出しても売れるタイミングでもある」


エリックは頷いた。

「……なら、やるか」



街の空気は不思議と穏やかだった。

今回の騒動の顛末は、すでに市民や貴族の間にも広まっている。


「例の商会、大変だったらしいな」

「北で戦ってたんだろ?」


そんな声があちこちで聞こえる。


そのおかげで、商品の不足について表立った不満はまだ出ていない。

だが、それはあくまで“今だけ”だ。


エリックは心の中で冷静に判断する。

(この猶予は長くない)


だからこそ――今、勝負をかける。



作業場。

エリックは新しい試作品に取りかかっていた。

「液体石鹸……いけるはずだ」


固形ではなく、液体。

手に取りやすく、泡立ちも調整しやすい。


さらに――


「香草も入れてみるか」


乾燥させた香草を細かく砕き、抽出液に混ぜる。

ほのかに立ち上る香り。


シェリーが鼻を近づける。

「……いい匂い」


リオも覗き込む。

「これ、絶対売れるやつ」


エリックは静かに頷いた。

「よし、これでいこう」



翌日。

店の一角に新商品が並べられた。


当初予定の木の容器ではなく、透明なガラスの容器。

中に入った淡い色の液体。

そしてほのかに漂う香り。


通りがかりの女性客が足を止める。

「……何これ?」


エリックがすぐに応じる。

「手洗い用の石鹸です。液体タイプになります」


「液体?」


女性は半信半疑で手に取る。

「試してみてもいいですか?」

「どうぞ」


店の外に用意された水桶で、女性は手を濡らし、液体を少し取る。

こする。


――泡が立つ。


「えっ」


さらに香りがふわっと広がる。


女性の目が見開かれる。

「なにこれ……すごい……!」


泡はきめ細かく、洗い上がりもさっぱりしている。

そして何より――


「いい匂い……!」


次の瞬間。


「これ欲しい!!」


声が店中に響いた。



そこからは早かった。


「何あれ?」

「新商品らしい」

「香り付きだって!」


口コミが一気に広がる。


女性客が次々と来店。

試す。

驚く。

買う。


爆売れ。


棚に並べても、すぐに消える。

補充しても追いつかない。


シェリーが叫ぶ。

「在庫足りない!」


リオが笑う。

「嬉しい悲鳴だな!」


エリックは黙々と作り続ける。

(これは……当たったな)



数日後。


王都中で噂になる。


「香りのする石鹸があるらしい」

「液体で使いやすいって」

「どこの商会だ?」


名前が広まるのに時間はかからなかった。



ある日。

店に一人の客が訪れた。


フードを深くかぶった女性。

顔はよく見えない。


だが、仕草はどこか上品だった。

「これを」


彼女は迷いなく液体石鹸を指さす。


エリックが差し出す。

「ありがとうございます」


女性は何も言わず、代金を置き、静かに店を出ていった。


リオが小声で言う。

「なんか只者じゃなかったな」


エリックも同意する。

「……ああ」


だが、その時は深く考えなかった。



翌日。


店の前に騎士が現れた。


甲冑の音。

周囲がざわつく。


「エリックという者はいるか」


店内が一瞬で静まり返る。


エリックが出ていく。

「……私ですが」


騎士が短く言う。

「王城へ来い」


その一言で、血の気が引いた。


(やらかした……?)


シェリーが青ざめる。

「な、何したの……?」


リオがぼそっと。

「終わったな」


「縁起でもないこと言うな!」



王城。


重厚な扉。

広い謁見の間。


エリックは緊張で固まっていた。


そして――


そこにいたのは。


昨日のフードの女性だった。


ゆっくりとフードが外される。


現れたのは、美しい顔立ちの少女。


騎士たちが一斉に跪く。


エリックの思考が止まる。


(……王族?)


シェリーも固まる。

リオも固まる。


女性が微笑む。

「あなたの石鹸、素晴らしいわ」

王女だった。


エリックの頭が真っ白になる。



王女が続ける。

「香り、使い心地、どれも見事でした」


「は、はあ……」


まともに返事ができない。


「そこで提案なのだけど」


一瞬の間。


「王家御用達にします」


空気が止まった。



城を出た後。


リオがぽつりと言う。

「終わった」


エリックが顔を向ける。

「何がだよ」


リオがにやりと笑う。


「勝ち確」


シェリーが深く頷く。

「うん、もう負けないやつ」


エリックはようやく実感する。


(……とんでもないことになったな)



一方。


ガルド商会。


重苦しい空気の中、幹部が机を叩きつけた。

「なんだあの商会は!!」


報告書が散らばる。


「石鹸」

「パン窯」

「ガラス」

「容器入りの液体石鹸――香り付き」


すべての項目に「売上増」の文字。


しかも。


「王家御用達……だと……?」


幹部の顔が歪む。


「ふざけるな……!」


部下が恐る恐る言う。

「対抗策ですが……」


「潰せ」


即答だった。


だが、部下は首を振る。

「もう無理です」


「なぜだ!」


「王家がついてます」


沈黙が落ちる。


誰も何も言えない。


圧倒的な後ろ盾。


手を出せば――終わるのは自分たちだ。


幹部は黙り込んだ。

…すでにこの時点で打つ手は尽きていた。

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