表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界ものづくり商会記 〜趣味だった「YouTube真似してものづくり」の経験を活かして快適に暮らそうと思います〜  作者: 積と和〝


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

帰路

夜明け前の王都。

吐く息は白く、冷たい空気が静かに街を包み込んでいた。

まだ人の気配は少なく、遠くでパンを焼く香りだけが微かに漂う。


エリック、リオ、シェリーは北の戦いを終え、馬車に揺られて戻る。

工房から運び込んだ道具は、いくつも傷つき、焼け焦げ、役目を終えたものもある。

だがその一つ一つが、確かに戦いを終わらせた証としてそこにあった。


シェリーが布に包まれた装置を軽く叩く。

「これ、もう動かないね」

リオが覗き込み、静かに言う。

「十分働いた。むしろ使い切ったって感じだ」

エリックは苦笑する。

「あとで全部見直さないとな……次は壊れないように」


馬車は城下へと入る。

見慣れた通り、見慣れた屋根。

だが、帰ってきたという実感はゆっくりと胸に広がる。


やがて王宮の正門が見えてくる。

衛兵たちが整列し、槍を揃えて立っていた。

馬車が止まると同時に、統率された動きで敬礼が向けられる。


城門が重々しく開く。

軋む音とともに、朝の光が差し込む。

その光は三人を包み込み、長い夜の終わりを告げていた。


エリックは目を細める。

「……帰ってきたな」

リオが短く答える。

「ああ」

シェリーは小さく伸びをした。

「とりあえず、お風呂入りたい」


王宮の広間。

高い天井、静まり返った空気。

国王が玉座に座り、その左右には文官や将軍たちが並ぶ。

重厚な空間の中で、誰もが三人の帰還を待っていた。


その目には、夜を越えた戦いの結果を見極めようとする緊張と期待が宿る。


三人が進み出る。

足音が広間に響く。


エリックは一歩前に出て、軽く頭を下げる。

そして、いつもの調子で口を開いた。


「北の開拓地は制圧済み。敵の指揮官アーセルも降伏しました。兵は撤退しましたが、被害は最小限です」


余計な装飾はない。

だが、その一言一言には確かな成果が込められている。


国王がゆっくりと頷く。

「よくやった。これで民の安全も確保できた」


文官が記録を取りながら口を挟む。

「報告通りであれば、人的被害は極めて軽微。これは異例の結果です」


将軍の一人が腕を組む。

「正面衝突を避けたのが効いたか」


リオが一歩前に出る。

「罠と装置だけで、敵の動きを完全に制御できました。直接の戦闘は避けられました」


別の将軍が感心したように言う。

「戦わずして勝つ、か」


シェリーが小さく笑う。

「まあ、ちょっとは爆発したけどね」


エリックが小声で止める。

「言わなくていい」


国王はそのやり取りを見ながら、深く息をついた。

張り詰めていた空気がわずかに緩む。


「戦を最小限に抑えられたのは、君たちのおかげだ」


その言葉には、王としての責任と安堵が混じっていた。


そして、国王は一呼吸置き、姿勢を正す。

広間の空気が再び引き締まる。


「エリック・ミズノ」


「は、はい」

思わず声が裏返る。


周囲の視線が一斉に集まる。


王は静かに続ける。

「此度の北の開拓地での功績は見事だった」


騎士たちも揃って頷く。

ざわめきがわずかに広がる。


エリックは困ったように笑う。

「どうも……」


王がさらに言葉を重ねる。

「よって褒賞を与える」


広間が静まり返る。

誰もが次の言葉を待つ。


シェリーが小声で言う。

「お金かな」


リオが即答する。

「土地だと思う」


エリックがぼそっと言う。

「道具代の補填がいいな……」


王が宣言した。


「エリック・ミズノを男爵に任命する」


沈黙。


一瞬、誰も動かない。

言葉の意味が空間に沈み、ゆっくりと浸透する。


エリックが固まる。


シェリーも固まる。


リオだけが小声で言った。

「社長」


「はい」


「貴族です」


エリックは瞬きを繰り返しながら、ゆっくり言った。

「マジ?」


将軍の一人が小さく笑いをこらえる。

文官は真顔で記録を書き続ける。


シェリーがエリックの袖を引く。

「すごいじゃん」


「いや、ちょっと待って」


「貴族だよ?」


「いや、待って」


リオが冷静に言う。

「領地経営が増えるな」


「仕事増やすな」


王はわずかに口元を緩めた。

「受け取れぬか?」


エリックは慌てて姿勢を正す。

「い、いえ! 謹んでお受けします!」


その声はやや大きく、広間に響いた。


再びざわめき。

新たな貴族の誕生が、静かに受け入れられる。


石畳を踏み、王宮を後にする三人。

朝の光はすっかり広がり、街に活気が戻り始めている。


冷たい風の中、工房の煙が空へと昇る。

いつもと変わらない景色。

だが、その中に確かな変化がある。


シェリーが横を歩きながら言う。

「で、男爵様?」


「やめろ」


リオが続ける。

「エリック男爵」

「やめろって」


エリックは頭をかく。

「……何も変わらないだろ」


リオが少しだけ笑う。

「たぶんな」


シェリーが明るく言う。

「でもちょっとだけ変わるよ」


エリックは空を見上げる。

白い煙がゆっくりと流れていく。


今日の知恵が、明日の守りとなる。

使い古された道具も、新しい発想の種になる。


戦いの痕跡は残る。

壊れた装置、焦げた地面、消耗した資材。


だが、道具と知恵を使う者たちの力が、国を守る。

それは剣とは違う、もう一つの戦い方。


静かな勝利の朝。

喧騒ではなく、確かな前進。


そして――


新しい日々が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ