転生したら素寒貧でした
「……あれ?」
服を見る。
粗末なシャツ。
粗末なズボン。
異世界転生?
「いや」
俺の人生経験上、異世界転生はラノベであって現実ではない。
しかし、
鏡はないが、手を見る限り若い。
「……え?」
記憶が流れ込んできた。
名前。
エリック
年齢。
20歳
職業。
無職
資産。
ゼロ
「……人生やり直しなのにハードモードすぎない?」
空を仰いだ。
魔法は?
使えない。
ステータスは?
見えない。
スキルは?
特にない。
「……俺、何で生きればいいの?」
その時だった。
道端に何かが倒れていた。
「ん?」
近づく。
女性だった。
しかも――
耳があった。
猫耳。
「え、猫耳?」
頭に耳で不思議なのだが触って見たい程度には可愛い。
「いやいや」
俺の人生経験上、猫耳美少女は道に落ちていない。
さらに後ろを見る。
尻尾もある。
「え、獣人!?マジで!?」
女性はぐったりしていた。
痩せている。
美人というより可愛い系、まあ猫だし。
これはどう見ても――
行き倒れ
「いやいやいや」
俺の人生経験上…まあそれはいい。
エリックは頭を抱えた。
「俺、今自分の生活すら危ういんだけど」
しかし。
前世の日本人としての倫理が言う。
放置はダメ。
「……はぁ」
エリックは肩をすくめた。
「水だけでも探すか」
近くの小川へ走る。
手で水をすくう。
戻る。
口に流す。
猫耳がぴくっと動いた。
「……ん」
目が開いた。
金色の瞳だった。
「ここは……」
「道端」
「あなたは?」
「俺も通りすがりの無一文」
「……え?」
猫耳の女性は困惑した。
エリックも困惑していた。
二人とも。
金がない。
沈黙。
風が吹いた。
そして猫耳が言った。
「私……シェリー」
「エリック」
「……お腹空いた」
「俺も」
そして同時に言った。
「どうしよう」
また沈黙。
しばらくしてシェリーが言った。
「あなた……何ができる?」
エリックは考えた。
戦闘。
無理。
魔法。
無理。
農業。
やったことない。
鍛冶。
無理。
だが。
一つだけあった。
「……ものづくり?」
「?」
「料理とか石鹸とか家具とか」
シェリーは首をかしげた。
「石鹸?」
「体洗うやつ」
「そんな贅沢品作れるの?」
エリックは固まった。
「……え?」
「石鹸って貴族しか使えないよ?」
「え?」
「え?」
二人は見つめ合った。
そしてエリックは思った。
これ……いけるのでは?
前世で作ったものを思い出す。
・石鹸
・燻製肉
・チーズ
・ジャム
・椅子
・棚
・パン
全部。
YouTubeの真似。
だが。
この世界には。
YouTubeがない。
エリックは言った。
「……シェリー」
「?」
「商売しない?」
「お金ない」
「材料集めればいい」
「売れる?」
エリックはニヤッと笑った。
「たぶんめちゃくちゃ売れる」
「根拠は?」
「俺が前世で作ってたから」
「意味わからない」
シェリーは真顔だった。
だがエリックは空を見上げて言った。
「よし」
「まず石鹸作ろう」
「え?」
「あと燻製肉」
「え?」
「あとパン窯」
「え?」
「あと家」
「え?」
シェリーは思った。
この人たぶん変人。
だが。
その変人が。
後に――
王国最大級の商会を作ることになるとは
まだ誰も知らなかった。
もちろん。
本人すらも。




