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異世界ものづくり商会記 〜趣味だった「YouTube真似してものづくり」の経験を活かして快適に暮らそうと思います〜  作者: 積と和〝


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出発準備

工房では煙がゆっくりと立ち上る。

重く、鈍い鉄の匂い。

乾いた木の香りがそれに混ざる。

熱と静けさが同時に満ちている。


リオが待っていた。

腕を組み、壁にもたれながら。

目だけが鋭く動く。

「状況は?」


エリックは一歩踏み出す。

無駄を削ぎ落とした声。


短く説明する。

…北の開拓地で武装した民。

しかし統率が取れている。

背後に誰かがいる、ただの暴動じゃない。

期限は三日以内。

それまでに手を打つ必要がある。


沈黙が落ちる。

炉の火がぱちりと弾ける。


リオはゆっくりとうなずく。

眉がぴくりと動く。

状況を飲み込み、即座に判断する。

「大丈夫だ。やれる」


その言葉は短い。だが重い。


エリックはすぐに動く。

工具を手に取る。

金属の冷たさを確かめるように握る。

「量と質、両方必要だ」


机の上には設計図。

未完成の装置。

分解された部品。


シェリーが周囲を見渡す。

視線は忙しく動く。

猫人族たちが既に動き出している。

誰も指示を待っていない。

「ガラスは確保済み」


エリックが頷く。

一瞬だけ表情が緩む。

「よし、まずトラップからだ」


すぐに音が増える。


金属板が叩かれる音。

一定のリズム。

刃物が研がれる音。

甲高く、鋭い。

鋳型に溶けた金属が流れる。

どろりとした輝き。

熱気が空気を歪ませる。


リオが声を上げる。

「発射装置、チェック!」


猫人族の一人が応える。

「歯車、問題なし!」

別の者が叫ぶ。

「バネ圧、調整中!」


小さな機械が組み立てられていく。

一つひとつの部品がはまる。

歯車が噛み合う。

わずかなズレも許されない。

弾が装填される。

カチリ、と乾いた音。


シェリーが材料を運ぶ。

細い腕に見合わぬ量。息を整えながら言う。

「追加でガラスも加工する」


ガラスを切る、細く、正確に。

研磨する、それは光を反射するまで丁寧に。

薄く、透き通る。


エリックはそれを横目で見る。

「望遠用か…」

独り言のように呟く。

指で角度を測る。

「位置を確認するだけじゃない」


シェリーが小さく頷く。

「遠くからでも、動きが読めるように」


猫人族たちの手際も素早い。

釘を打つ。迷いがない。

鎖を結ぶ。強度を確かめながら。

装置を調整する。何度も試す。


誰一人として無駄な動きをしない。

時間がないことを、全員が理解している。


時間が迫る、刻一刻と削られていく。


リオがふと立ち止まる。

動きを止めたのは一瞬だけ。

「敵の人数、正確にわかってる?」


空気が少しだけ重くなる。


エリックは首を振る。

迷いはない。

「いや。だからこそ罠が必要だ」


数で劣る前提。

だから準備で覆す。


リオは短く息を吐く。

「…いい判断だ」


その時、扉が勢いよく開く。


兵士が入ってくる。

息を切らしている。汗が額を伝う。

「進軍準備完了。護衛も整った」


空気が切り替わる。現場の時間だ。


エリックが手を止める。

工具を静かに置く。

「よし、現地で確認する」


シェリーが不安げに言う。

手がわずかに震えている。

「危ない…」


エリックは振り返る。

その表情は穏やかだ。

軽く笑う。

「安全じゃなくても、やらなきゃ」


その言葉は柔らかい。

だが揺るがない。


リオも頷く。

「わかった。準備万端にしておけ」

猫人族たちに視線を送る。

「残りは任せたぞ」


一斉に返事が返る。


そして三人は工房を出る。背中に熱が残る。


猫人族たちは見送る。

だが手は止めない、誰も振り返らない。

作業は続く、終わるまでは止まらない。


外にでると空気が一変する。

風が冷たい。肌を刺すようだ。


石畳に乾いた音が響く。

馬車が待っている。

木製の車輪が軋む。


護衛兵たちの足音。

鎧が擦れる音。

緊張が漂う。


エリックが地図を見る。

折り目だらけの紙。

指でルートをなぞる。

「北へ」


リオが背中を押すように言う。

「敵を見極めて、全力で罠を仕掛ける」

声に力がある。

迷いを断ち切るように。


シェリーが小さくつぶやく。

風にかき消されそうな声。

「三日…間に合うかな」


返事はない。


エリックは答えない。

ただ前を向く。

視線は遠く、その先にしかない。


馬車が動き出す。

軋む音。

ゆっくりと進む。

やがて速度を上げる。


空は灰色。雲が低く垂れ込める。

光は弱い。影が濃い。


北の開拓地。

まだ見えない場所、だが確実に近づいている。


人の影。武装の影。

見えない意志。潜む思惑。

ただの戦いでは終わらない。


新しい戦いの幕開け。

準備された罠。

試される判断。

削られる時間。


そして、

エリックたちの三日間の戦いが始まる。

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