王様の要望
門が重い音を立てながら閉まる。
外の喧騒が消える。
ここは別の空気がながれる。
静か、だが張りつめている。
兵士が先導する長い廊下。
赤い絨毯。足音だけが響く。
エリックは周囲を見る。
護衛が増えている。いつもより多いな。
やはり異常事態なのだ。
大きな扉の前で止まる。
王家の紋が彫刻されている。
兵士が告げる。
「到着しました」
中から低い声。
「入れ」
扉が開く。
広間。光が差している。
高い天井。
そして玉座に国王。
その隣に数人。将軍。文官。
全員がこちらを見る。
エリックは歩く。
止まらない、中央へ進んだ。
膝はつかない。
代わりに軽く頭を下げる。
国王が言う。
「来たか」
短い。
エリックも短く返す。
「呼ばれたので」
ざわめき。無礼、だが咎める者はいない。
今は余裕がない。
国王は本題に入る。
「北で衝突が起きた」
やはりそうか。
将軍が一歩出て机の上に地図を広げる。
境界線を指が示す。そのさらに奥。
「ここだ」
開拓地。ここはまだ新しい。
将軍が続ける。
「敵は正規軍ではない」
エリックが聞く。
「じゃあ何だ」
一拍。
「武装した民だ」
民。
だが武装し統率されている。
ただの反乱ではない。
文官が口を挟む。
「背後に誰かいる可能性が高い」
国王が頷く。
「時間がない」
視線がエリックに向く。
「お前の道具が必要だ」
実に単刀直入だ。
エリックは腕を組む。
「数は?」
将軍が即答する。
「可能な限り」
無茶な言いようだが。
エリックは少しだけ笑う。
「だろうな」
そしてさらに聞く。
「いつまでに」
国王が一瞬の沈黙。
「三日だ」
これは短すぎる。
広間に緊張が走る。
エリックは目を閉じる。
計算する。材料、人手、工程。
…足りないな。
だが、目を開ける。
「やる」
ただそれだけをいう。
将軍が息を吐く。
安堵か。
国王が言う。
「報酬は弾む」
エリックは首を振る。
「後でいい」
今はそこじゃない。
そして一歩前に出る。
「条件がある」
空気が変わる。
将軍が眉をひそめる。
だが国王は手で制す。
「言え」
エリックは
「現地を見せろ」
ざわめきが起こる。
危険な最前線だ、文官が反対する。
「無茶です!」
将軍も言う。
「職人を前に出すなど——」
エリックは遮る。
「見なきゃ作れない」
静か、だが意思の強さが伝わる。
「敵が人ならなおさらだ」
罠。配置。心理。
机上では足りない。
国王が考える。
長くはない。
そして。
「許す」
素早い決断。
将軍が息をのむ。
「陛下…!」
国王は視線を動かさない。
「代わりに護衛を付ける」
当然か。
エリックは頷く。
「十分だ」
これで話は決まった。
国王が最後に言う。
「戦を終わらせろ」
重い言葉。
命令。そして願い。
どちらもだろう。
エリックは背を向ける。
もう用は済んだ。
扉へ向かう、ゆっくり開く。
外の冷たい空気。だが頭は熱い。
三日。
前線。
新しい道具。
時間はない。
廊下を歩きながら呟く。
「間に合うかじゃない」
小さく笑う。
「間に合わせる」
工房へと足が速くなる。
戦の準備が始まる。




