3、ローエングリム公爵家の願い
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後日、返信をしたいと思っております。
遅くなってしまいますが、どうぞよろしくお願いいたします。
パリのオペラ座、ウィーンのウィーン国立歌劇場、ミラノのスカラ座、前世での有名な劇場をオリヴィアは覚えていた。
しかし建築方法は知らない。
料理と同じである。料理もレシピは覚えていてもオリヴィアは作ることはできない。なのでオリヴィアは料理を料理長に丸投げしたように、『ラスボス劇場』も前世の有名劇場の外観の絵を渡して建築家に丸投げしたのであった。
かわいそうに、料理長が千辛万苦の七転び八起きで苦労に苦労を重ねて見たことも聞いたこともないオリヴィアのレシピを完成させたように、建築家も血のにじむような労苦の果に『ラスボス劇場』を完成させたのだった。内部も豪華絢爛であるが、小劇場も大劇場も前世の高額チケットの映画館を彷彿とさせる高級仕様となっており座席はゆったりとしていた。
前世の建築物の丸パクリであるので、はっきり言って王国で一番美しい外観をしており、内部も極上に快適である。おそらく今後は『ラスボス劇場』を模した建築物が王国で流行することになるだろう。
むふふ、と『ラスボス劇場』を見回してオリヴィアが微笑む。満足である。全方位で『ラスボス劇場』は美しい。
座席も埋まり、満員御礼である。
誰もが映画への期待で、舞い上がるみたいな高揚感を全身で表して目をキラキラさせていた。
なお、中央の最もスクリーンが見やすい場所には国王一家が座っている。国王と王妃と王太子は穏やかに談笑しているが、第二王子は肩をしょんぼりと落としていた。ヴァイオレットたんのグッズを他者に一瞬で商品棚からかっさわれてしまい購入することができなかったのである。落胆は深かった。魂を燃やして走ったのに。無念であった。
「アンナ、私はお客様にご挨拶をしなくてもいいのよね?」
オリヴィアが確認をする。
「はい。映画の上映だけで大丈夫です」
アンナの返答に、オリヴィアは怪訝そうに尋ねた。
「それだったら、こんなにも着飾る必要はなかったんじゃない?」
「オリヴィア様はローエングリム公爵家の第二夫人です。多数の招待客がいるのです。直接の挨拶はなくとも、誰に目撃されてしまうかわかりません」
「そうだった。こんな私でも第二夫人だものね。ローエングリム公爵家の恥となるようなドレスは着てはダメよね」
頷くアンナに、オリヴィアはうずらの卵ほどもある大きなエメラルドを嵌め込んだネックレスに触れて言った。
「でも、やっぱり重いわ。宝石って石なのだとつくづく実感してしまう重さだわ」
パタパタパタ、とスタッフ用通路に足音が響いた。
「「オリヴィア!」」
双子のカイゼクスとカロリーヌであった。
「手伝いにきたよ」
「映画の終わりにお土産として、紙のコースターを招待客の手元までふんわりと飛ばすのでしょう? 妖精とか人魚とか騎士とか色々の」
ぎゅむ、と右からカイゼクスが左からカロリーヌがオリヴィアに抱きつく。12歳になった双子は身長が急速に伸びてオリヴィアとほぼ等しくなっていた。
「風魔法で飛ばすよ」
「コントロールはバッチリよ」
超絶美形の双子に至近距離からのドアップにオリヴィアは少しドキドキしてしまう。小さな頃は弟や妹の感覚であったが、身長が等しくなるにつれてこのままでいいのかと悩むようになっていた。けれども双子の無邪気な様子に、純粋に慕ってくれての行動だから避けるのも、と拒否をできずにいるオリヴィアであった。
そんなオリヴィアの葛藤を知らずに(本当は知っていて)、双子は子どもの無垢を装ってスリスリと甘える。利用できるものは何でも利用して、独占欲を全開にする双子は腹黒い。オリヴィアが双子の本質を知らないだけである。
誕生した瞬間から人々に傅かれているカイゼクスとカロリーヌなのである。蝶よ花よと育てられて危機管理の意識が低い者もいるが、貴族社会は幻想と安逸のみで生きていけるほど優しくない。カイゼクスとカロリーヌが、奸計に長ける悪辣な高位貴族らしい高位貴族に成長したのも当然のことであった。
ましてやカロリーヌはオリヴィアに執着しているし、カイゼクスはオリヴィアに恋をしている。
財力と権力を駆使して、安楽と安全の巨大な鳥籠でオリヴィアを保護して、カイゼクスもカロリーヌも公爵夫妻も使用人たちもオリヴィアを心から支え守っているのだ。オリヴィアはオリヴィアのままでいて欲しい、と願って。
ぽけっと心地よく暮らしているオリヴィアが気づかないだけである。
狙われていることは知っていても、どれほど深刻な危険度であるのか。
どれほど自分の評価が高いのか。
オリヴィアは知らない。
公爵家での生活が楽しいと、オタク活動はお金がかかるけれども資金が潤沢で嬉しいと、公爵家の皆々が優しいと、オリヴィアはこの2年間のびのびと暮らしてきたのだ。
だが、それでいい。
それでいいのである。
オリヴィアの幸福がローエングリム公爵家の皆々の願いなのだから。
「オリヴィア、コースターなのだけど」
情報通のカロリーヌが複数のコースターを取り出した。
「国王陛下には狼の、王妃殿下には『花と歌の歌劇団』の男装女優の、王太子殿下には天使の、第二王子殿下には」
すでにカロリーヌの元には物販店での第二王子の不首尾の情報が届いていた。
「ヴァイオレットたんの5種コンプリートコースターセット、でどうかしら?」
「兵長の5種コンプリートコースターセットもあげようよ」
ぽん、とカイゼクスがヴァイオレットたんコースターの上に兵長のコースターを重ねた。
哀れな従兄弟にカロリーヌとカイゼクスは同情していたのだ。こっそりとヴァイオレットたん抱き枕も確保してある。
右手と左手にヴァイオレットたんと兵長のコースターが落ちてきて、第二王子が狂喜乱舞するまで後少し。
読んでいただき、ありがとうございました。




