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筆頭公爵家第二夫人の楽しいオタク生活 2 〜ラスボス劇場爆誕!〜  作者: 三香


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11/11

10、オリヴィアの楽しい毎日

申し訳ありません。

短編の方に走ってしまって未完になりそうなので、ここで完結にしたいと思います。次の短編は「金のナマケモノ 銀のコアラ」の予定です。(たぶん)

またご縁がありましたらオリヴィアをよろしくお願いいたします。

お詫びをもう一つ。

今回は感想の返信ができませんでした。

後日にお返事をする予定でしたのですが、かなり時間がたってしまいましたので、ここで。

とろとろの水の温度、雲は綿飴のようにふんわりなおぼろ雲、花の蕾はふっくり可愛く膨らみ、咲いた花は美しく春を告げる季節となりました。天から細い水糸の滝のように垂れる優雅な枝垂れ桜。天を仰いて咲く気品ある大輪の白木蓮。蝶々の翅となって天に飛び立つみたいな花びらのスイートピー。春です。花爛漫です。皆様、花景色の春の季節に感想をありがとうございました。 

(←こんなことを書いているのに花粉で赤パンダになって必要外の外出をせず花見もしないのです。てへっ)三香より。

 オリヴィアは料理ができない。特に菓子作りは壊滅的である。

 レシピは覚えているのに[さしすせそ]を守れないからだ。

 レシピに。

 さ、逆らってはダメ。

 し、嗜好で変えてはダメ。

 す、スキップしてはダメ。

 せ、センスがあると思ってはダメ。

 そ、そのままレシピ通りに作ればいいのに、守れない。ひとつかみや少々をオリヴィアは「野生のカンが正解を知っている」とドバッと分量にしてしまう。火加減、水加減も同じく。燃えているかい? ファイヤー! な世界にしてしまうのである。

 オリヴィアにとって料理の適量とは、できる人の暗号に等しいのだ。


 オリヴィアは興味のないものへの温度差が激しい。

 調理も興味のないもの故に、自己都合による完成品となってしまうのである。

 だから、オリヴィアは前世から料理を作らない。

 自分の作った未知なる味覚領域(激マズ料理)を食べたくないからだ。

 そもそも興味がないので調理しようとも思わない。

 前世では美味しいお店も惣菜もたくさんあった。

 今世では、ローエングリム公爵家にはオリヴィア強火信者の料理長がいる。


 そんなオリヴィアが、ローエングリム公爵家の厨房に足を踏み入れようとした。

 爆弾投下である。

 被爆者は料理長であった。


「オ、オリヴィア様。おやつですか? すぐにお部屋にお持ちします」

 テーブルの上に置かれている食材に視線をロックオンするオリヴィアに、料理長が冷や汗を額に浮かべながら言った。

「……あのね、昨日ラスボス劇場のオープンが大成功したでしょう。だから今だったら、その成功の流れにのって苦手なこともできる気がするのよ」

 と、謎の自信に満ちたオリヴィアが返事をする。


 ビクーッと料理長が背筋を震わせた。

 オリヴィアには前科がある。

 以前ローエングリム公爵領でスタンピードが起こった時、オリヴィアの活躍で殲滅できたのだが。オリヴィアはトリモチ結界にかかった魔獣と、今ならば勝てるかもと猫パンチで戦ったのだ。結果は惨敗。その後は高熱を出して、料理長は神に祈るほどに心配をしたのだった。


 心臓から正確に送り出される血液のようにそれぞれの目的地で忙しく働いていた料理人たちも静止する。厨房の機能が停止した。皆、オリヴィアの前科を忘れていないので顔色を悪くして料理長を見つめる。


 子猫のように好奇心旺盛なオリヴィアの「今ならば」はとっても危険なのである。


 その記憶が蘇った料理長は、卓越した想像力で結末を瞬時に予想した。

 オリヴィアの料理である。

 どれほどクリーチャーな激マズであっても、ローエングリム公爵家に仕える者たちは歓喜して食べるだろう。古くから公爵家に忠誠を誓う使用人たちも、新しく公爵家に雇用された使用人たちも全員がオリヴィアを心から敬愛しているのだから。

 公爵一家も躊躇することはないだろう。

 しかし、おそらく。

 確実に。

 全員がベッドまたはトイレの同時多発の住人になる。そうなればオリヴィアは呵責に苛まれて苦しんでしまう。

 チーン、と未来を弾き出した料理長は厳かに言った。


「いけません」

「えぇ……」

「いけません、料理は我々料理人の仕事です。オリヴィア様、料理人から仕事をとってはいけません」

 大事なことであると料理長は「いけません」を3度も繰り返した。

「でも今ならできるかも……」

 上目遣いをするオリヴィア。猫目なので凄く可愛い。しかし料理長は揺るがなかった。

「いけません」

「ビッグウェーブが来ていると思うの」

「人間、挑戦することは大事ですがオリヴィア様のチャレンジ精神はモンスター並みなのでいけません」

 料理長は譲らない。巌のごとき大きな夏の雲のようにオリヴィアの前で聳え立つ。ゴゴゴゴゴゴッと世紀末な背景音まで聞こえてきそうである。


 そこへ、絶妙なタイミングで。

「「オリヴィア」」

 と、カイゼクスとカロリーヌが現れた。広いローエングリム公爵邸内をフラフラうろつくオリヴィアの回収係である。ちなみにGPS係はアンナで、連絡係はニャイケルであった。

「料理よりも物販店の方を手伝ってよ」

「もう倉庫が空っぽよ。店長がポスターを作って欲しいって」

 行こ行こ、とカイゼクスとカロリーヌがオリヴィアの背中を押す。

「でもビッグウェーブが」

「そんなウェーブは来ていないよ、幻だよ」

「ウェーブよりも先に、店長が品物がなくて走り回っているから助けてあげないと」

 カイゼクスもカロリーヌも料理長と同じく、料理をした結果、オリヴィアが落ちこんで泣くのは見たくないのだ。それほどに過去にローエングリム公爵家で披露した料理によって信頼性が最底辺なのである。


「さぁ、行こう」

「行きましょう」

「……ビッグウェーブ……」

「だから幻だって、オリヴィア」

「真昼の夢よ、オリヴィア。現実を見ましょうね」

「……ビッグウェーブ、だめ?……」

 趣味を共有して共感しあう毎日は楽しい。凄く凄く楽しいが、新しいことへの冒険も刺激的である。だがオリヴィアのチャレンジ精神は積極的すぎるのだ。

「できると思うことも、できないと思うこともどっちも正しいよ。でもね、オリヴィア。人には向き不向きというものがあるんだよ」

「オリヴィアは得意な分野で頑張った方が絶対にいいと思うわ」

 分析力と合理性で最適な結果を出すカイゼクスとカロリーヌに却下されて、しょんもりするオリヴィア。どちらが年上かわからない。が、オリヴィアは自分の実力も知っているので反論はできなかった。


 ほっとした表情で料理長が深々と頭を下げて3人を見送った。


 未練たらたらに厨房を振り返るオリヴィアの右手をカイゼクスが、左手をカロリーヌが引っばる。

 タッタッタッ、と軽快な足音が響く。

 窓から射し込む日差しが淡い初雪のように柔らかく長い廊下を照らしている。廊下の壁に等間隔で設置されている燭台の金具が鈍く光り、空気に溶けて床に咲いた光の花が、オリヴィアとカイゼクスとカロリーヌの影に乱されて揺蕩っていた。 


 似たような高さの身長の影が手を繋いで仲良く揺れる。


 窓の外の木に鳥の群れが花のかわりに鮮やかな色となって止まっていた。花が開くように翼を広げる。飛び立つ気配がした。


 突然グリン、と三つの影の輪郭が向きを変えた。

 オリヴィアが方向転換をしたのだ。

「オリヴィア?」

「どこへ行くの?」

「鳥がいたの、窓の外に。何か珍しい感じの鳥が」

 と、目をキラキラさせたオリヴィアがカイゼクスとカロリーヌの手を引いて勢いよく走り出そうとして、ポテッと平面の床で躓いだ。

 速力をあげようとして足がもつれたのである。

 すってんころりん、と転ぶ寸前のところをカイゼクスとカロリーヌが両側から支えた。いつものことなので、カイゼクスとカロリーヌのサポートは万全である。

「大丈夫、オリヴィア?」

「怪我はしていない、オリヴィア?」

「ありがとう、カイゼクス、カロリーヌ」

 

 鳥たちが木から花弁が散るように羽ばたく。彩り豊かな花吹雪のようであった。


「あ〜、飛んじゃった〜」

 残念そうにオリヴィアが呟いた。

 しかし庭に落ちている鳥の羽根を発見すると、行きたい、行ってもいい? という顔をしてカイゼクスとカロリーヌに振り返った。

 すでに興味は鳥に移り、爆心地になりかけた厨房のことなど頭から消えているオリヴィアであった。

 オリヴィアも第二夫人となった頃は余所行きのお澄まし顔で頑張っていたのだ。しかし2年間のゆるゆる生活で本来のポンコツ成分が表面に滲み出てしまっていた。


 カイゼクスとカロリーヌが苦笑して頷く。料理よりも千倍も安全である。

「庭に出ようか」

「テラスから行きましょう」


 近くにいた使用人が恭しくテラスに続く大きな窓を開けた。


 庭の土と緑の匂いを空気が持ち上げて、テラスから廊下に入り込んできた。風がかすかに吹く。オリヴィアの赤い髪が揺れて、風の見えない指先が髪をクルリと踊らせた。


 木の根元には、鮮明な色彩の鳥の羽根が数枚落ちていた。

 銀白色。

 朱色。

 桃色。

 青色。

 カイゼクスが青い羽根を拾って言った。

「オリヴィア、『青い鳥』の物語を覚えている?」

「幸せの青い鳥を兄妹で探しに行くお話ね。もちろんよ、私がカイゼクスとカロリーヌに話した物語ですもの」

「幸せは日常の側にあるっていうメッセージみたいな話だったから印象的でね」

 カイゼクスが青い羽根をオリヴィアに渡す。オリヴィアは青い羽根を日にかざした。

「素敵な羽根ね。日差しを受けて青さが増したように明るい青色になったわ。空みたい。『青い鳥』の鳥はハトだったけど、この羽根も綺麗ね。うふふ、幸せは身近にあるって私も思うわ。だって私、凄く幸せだもの」


「じゃあ、私からも」

「ありがとう、カロリーヌ」

 カイゼクスに続いてカロリーヌからも青い羽根をもらったオリヴィアは嬉しそうに笑う。オリヴィアもお返しをしようとキョロキョロと探すが、残念ながら青い羽根は落ちていなかった。


 だが、空を見上げたオリヴィアはとてもいいものを発見した。


「えいっ!」

 オリヴィアが両手を空に向けた。


 ローエングリム公爵家を覆っていたトリモチ結界が、一瞬で上に伸びる。

 ビョオオォォォォオオッッッ!!!!

 巨人の手のように遥か上空まで伸びたトリモチ結界は、運悪く王都の空を飛んでいた青い飛竜を掴まえた。スライムのように粘着する。ブレスを吐こうをした口を、引き裂こうとした鋭い爪を、自由自在に振り回す長い尾を、鎧のように頑丈な巨体を、生きた凶器のごとくグルグルグルっと包み込む。


「えいっ!」

 オリヴィアが両手を下ろした。


 包み、掴まれた飛竜は引き寄せられて。

 通常状態に戻ったトリモチ結界の上部に落下する。


 ドオオオオォーーーーンンッ!!!!

 

 響いた轟音が空気をビリビリと振動させた。

 

「ラッキー! 晩御飯にしましょう、竜のお肉ってめちゃくちゃ美味しいものね!」

 トリモチ結界にくっついて身動きができない飛竜がオリヴィアを殺意満載の眼でギラギラと睨むが、オリヴィアは大喜びである。ぴょんぴょん飛び跳ねている。


 しかし、カイゼクスとカロリーヌは頭をかかえたくなった。料理よりも万倍も厄介な結果となってしまった。

「ヤバいよ、飛竜なんて。王宮から騎士が飛んでくるよ。近隣諸国から使者が派遣されるレベルだよ」

「王都だって大騒ぎになるわ」

 スタンピートの時のように狂化に近い状態の竜ならば討伐は許可されているし、襲われた場合も屠ることが許されていた。が、それ以外の時の竜は色々と面倒事が多いのである。

「でも、まぁ、いいか。オリヴィアが喜んでいるし。ローエングリム公爵家の権力で黙らせよう」

「そうね。権力は使ってこそ価値があるものね」

「で、方法なんだけど…………」

「手段としては…………」

 ヒソヒソとカイゼクスとカロリーヌがどす黒く笑って相談する。スッと後方にいたアンナと護衛たちと使用人たちが無言で加わった。全員オリヴィア至上主義なので狂気を感じる目の据わり方である。


 その横で飛竜と視線をあわせてキャッキャッと喜ぶオリヴィアは、

「竜とのガン飛ばしなんて滅多にない経験〜」

 と暢気にご機嫌だった。ある意味オリヴィアは目的のためならば素晴らしく図太いのだ。


 そこへニャイケルが小釜ちゃんのお酒の瓶を咥えてやって来た。

「ニャー」

「え? お酒を竜に飲ませるの?」

「ニャー」

「はーい」

 素直にオリヴィアが金豚雲に乗って、飛竜の口の隙間にお酒の瓶を突っ込む。


 カッ、と飛竜の双眸が見開かれた。涙腺が崩壊して、感動の涙が溢れ出す。


 その後アレやコレやあったが、飛竜は晩御飯にならなかった。結論を言うとオリヴィアの下僕となってラスボス劇場の裏庭を寝床とするようになったのである。


 これにより一気にサヴァラーム王国は飛竜を従える唯一の国として周辺諸国から敬意を集めることとなり、王太子はウハウハで隣国と強気で交渉を進めることとなった。


 そんなオリヴィアは今日もローエングリム公爵家でぬくぬくと護られて快適に暮らすのであった。

 明日も。

 明後日も。

 花が咲くように笑って。

 のんびりと楽しく。

 15歳のカイゼクスにプロポーズをされて怒涛の展開となるまで、あと3年。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
つ 続きを… 続きをお願いします… 飛竜のエピソードも読みたいです。
電子書籍化待ってます!
もっと読みた〜い! ぜひともカイゼクスとオリヴィアの恋模様も見たいでーす。あと、下僕の竜がどういう経緯でカイゼクスの騎竜になるのかも。 信じて待ってます(お目目うるうる)←かわいくないおばさんがやって…
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