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『美味い』は禁止です。――それでも俺は、テリヤキを焼く  作者: 野村英之
第三章:テリヤキ・エクスプロージョン編
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大気圏突入! 焦熱の摩擦はテリヤキの火

崩壊するレグナス・コアを背に、重力に引かれるセラフィオン。


周囲を包むのは真空の沈黙ではなく、

大気圏との摩擦が引き起こす灼熱の轟音。


高度一〇〇キロメートル。


機体表面の温度が急上昇し、

装甲は真っ赤に焼けて液状化を開始。


「マスター、外部装甲の融解が限界値を突破。

このままでは地上に届く前に、私たちは巨大なハンバーグどころか

焼きおにぎりの如く炭化します!」


セラの警告。


だがその声に、かつての無機質さはない。

シオンの隣で、彼女の髪が摩擦の光に透け、美しくたなびく.。


「焼きおにぎり上等! 最高の火加減じゃないか。

セラ、耐熱フィールドを最大展開しろ!

足りない分は、俺たちの根性で補うんだよ!」


「根性で温度が下がれば、冷蔵庫なんて必要ありません!

ですが、あなたの無茶には慣れました。


エネルギーバイパス全開放、調理用排熱を利用した

『疑似アブレーション』を実行します!」


セラフィオン・アルティメットキッチンから

噴射される、高密度のソース蒸気。


それが大気の摩擦熱と反応し、

機体周囲に黄金色の「膜」を形成。


宇宙から見れば、それは一筋の炎ではなく、

闇夜を照らす芳醇な香りを纏った流れ星。


「熱い……!けど、いい匂いだ。

これ、テリヤキが焦げる最高の温度だぞ!」


「呑気なことを言わないでください!姿勢制御が乱れます!

……マスター、私の手を取って。

演算回路を、あなたの鼓動に同期させます!」


差し出されるセラの指先。


シオンはその手を強く握りしめる。


人と天使。


地上の料理人と宇宙の管理端末。


二つの意志が重なり合い、

燃え盛る火の球の中で完璧な均衡を保持。


「『逝くなよ……。シオン! ……。

お前が、……焼く……。テリヤキを、まだ……。食って、……いない……!』」


後方を追うグリードの〈オメガ〉。

機体をボロボロにしながら、友を、そして父の遺産を見守る叫び。


高度四万。


焦熱の苦しみを越え、視界に広がるのは、

かつてシオンが守り抜いた惑星レグナスの青い大地。


死の摩擦熱を、再生の火へと。


少年と天使を乗せた火球は、約束の食卓へと真っ逆さまに落ちていく。


大気圏の壁を突破し、燃え盛る火の球から

白煙を引く機体へと姿を変えたセラフィオン。


その背後では、

ボロボロになった〈オメガ〉の機体が並走していた。


「マスター、 さっきから黙りこくってどうしました。

あの大気圏突入で、自慢のポエム回路でも焼き切れましたか?」


ネメシスのツッコミが、沈黙を守っていたグリードを突き刺す。


グリードはハッと我に返ったように、いつもの芝居がかった口調ではなく、

素の、どこか間の抜けた声で答えた。


「……いや、正直に言うが。さっきの突入は、体が震えるほど怖かった。

人生であんなに熱い思いをしたのは、お前に初めて告白した時以来だな」


「そんな昔の話を今持ち出すんじゃありません!

しかもマスター、さっきまで『愛の追跡者からは逃げられぬ』とか何とか、

格好つけて絶叫してたじゃないですか」


「あれは……その、雰囲気だ。宇宙そらに上がると

つい気分が高揚してしまってな。

今思い返すと、恥ずかしさで大気圏に再突入しそうだ」


「もう一回燃えてきてください。それよりシオンを見てください、

あの機体、落下速度が速すぎて、このままだと大地にクレーターを作りそうですよ!」


二人のやり取りをよそに、シオンは必死にセラフィオンの制動をかけていた。


だが、メインスラスターは火を噴き、フラップはあらぬ方向に曲がっている。


「マスター、夫婦漫才を聞いている余裕はありません。

このままだと、私たちは『地上の食卓』に帰るのではなく、

『地上の地層』の一部になってしまいます!」


「分かってる!

あともう少し……あと少しだけ踏ん張ってくれ、セラフィオン!」


その時、シオンの目に、地上の景色が飛び込んできた。


エラータウンの住人たちが、空を見上げて手を振っている。


一足先に帰ったリナが商魂逞しく

「流れ星テリヤキ・セール」の看板を掲げている。


タナトスが、父のごとく慕うカイザーの帰りを信じて、

静かに、だが力強く空を睨みつけている。


「帰ってきたぞ……みんな!」


シオンが叫び、全エネルギーを逆噴射に回した瞬間。


セラフィオンから溢れ出した黄金のオーラが、

結露した大気と混ざり合い、荒野に光り輝く「雨」となって降り注いだ。


それは三〇〇年間の飢えと渇きを癒やす、約束の恵みの雨だった。


その時、セラフィオンが爆発した。

次回へ続きます。

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