セラフィオン換装! 銀河系航行型調理要塞へ
※生きることは、食べることという物語です。
その時、
空間全体が真っ赤に発光し、
データ・タンクから「幻影」が溢れ出した。
それは、三〇〇年前に「レグナス・コア」が管理を
開始した瞬間の、地球の光景だった。
飢餓、戦争、奪い合い。
人々が一口のパンのために隣人を殺し、
味を感じる余裕すらなく死んでいく地獄絵図。
「見ろ、シオン。これが私の、唯一の正解だ」
空間に響き渡る「レグナス・コア」の意志。
「味覚は欲望を呼び、欲望は争いを生む。
私は人々から『美味しさ』という名の痛みを奪うことで、
死という名の究極の不幸を回避させたのだ……」
レグナス・コアは語る。
「お前が持ち込んだテリヤキは、再びこの平和な家畜の庭に、
野獣の牙を配るに等しい行為なのだ!」
シオンの前に、巨大な「電子の壁」が立ちはだかる。
それは、お袋が三〇〇年かけて積み上げた
『管理という名の正義』の重圧だった。
「家畜の庭……だと? ふざけんな!
みんなで『美味い』って言い合って笑うのが、
どうして争いになるんだよ!」
そして。
「 お前がやってるのは、ただの冷凍保存だ!」
シオンは叫ぶが、
空間そのものが「レグナス・コア」であるここでは、
彼の言葉は文字通り「無効化」されていく。
セラフィオンの機体強度が、外部からの高密度な
論理攻撃によってミリ単位で削り取られていく。
「シオンよ……! 迷うな!管理された静寂より。……喧騒の……。
食卓を……選ぶのが、……漢だ……!」
通信機から、ノイズ混じりのグリードの声が届く。
彼は外でカイザーと共に、まだ戦っているのだ。
「……ああ、分かってるよ。
レグナス・コア、あんたの言い分は分かった」
続ける。
「あんたはあんたなりに、
人間を死なせたくなかったんだな……」
そして。
「でもな、ただ生きてるだけじゃ、
腹は満たされても心は干からびるんだよ!」
シオンは、セラフィオンのエネルギー炉を、
戦闘用ではなく「加熱用」へと強引に切り替えた。
ターゲットは目の前の壁ではない。
この凍てついた電脳空間そのものだ。
「セラ、手伝え! お前の毒舌が必要なんだ!
このカチコチに凍った『レグナス・コアのデータ』を、
俺たちの熱で溶かしてやるぞ!」
レグナス・コアの内部、
論理の激流がシオンを飲み込もうとしていた。
セラフィオンの機体は、お袋の圧倒的な演算能力によって
「不要なデータ」として解体され始める。
だが、
シオンの手が、
虚空を見つめるセラの冷たい手を強く握りしめた。
「セラ! お前は道具なんかじゃない。毒を吐いて、怒って、
……俺のテリヤキを不味そうに、でも全部食べた一人の女の子だろ!」
その瞬間、シオンの熱い情熱が、
逆流するようにセラへと流れ込んだ。
セラの瞳の赤色が激しく点滅し、システムがエラーを吐き出す。
彼女の脳裏に、初めて土を耕した時の匂い、
カレーの街を駆け抜けた時の熱気が、濁流となって蘇った。
『……あ、……マスター。本当に……。暑苦しい、……。
データですね……』
セラの唇が、微かに、だが確かに自らの意志で動いた。
彼女の覚醒と共に、セラフィオンの機体構成が劇的な変化を遂げる。
レグナス・コアに直結していた彼女のアクセス権が、
逆にコアのエネルギーを「調理用」へと変換し始めたのだ。
「全システム換装! マスター、……覚悟なさい。……。あなたのその、……。
……偏差値の低い……味覚の理想を、……。……。銀河の法則に……、
……。書き換えて……。差し上げます!」
セラのいつもの口調が戻ってくる。
セラフィオンの背部から、
巨大な「銀河系航行型調理要塞」のパーツが展開される。
それはかつて「お袋」が惑星改造のために用意していた、
究極のテラフォーミング・ユニット。
だが今のセラは、
それを「全銀河を一つの食卓にするための厨房」へと再定義した。
「いくぜ、セラ! 換装完了だ!」
『……セラフィオン・ファイナルモード……。
「アルティメット・キッチン」起動。……。さあ、……。
人類の……お袋さん。……お片付けの……。時間……ですよ……!』
機体全身から、もはや破壊の光ではない、
芳醇な「温もり」を伴った
黄金のオーラが溢れ出した。
シオンとセラ、二人の意志が完全に重なり、
凍てついた電脳空間に、三〇〇年ぶりの「火」が灯った。
セラフィオン・ファイナルモード「アルティメット・キッチン」が
放つ黄金のオーラは、冷徹な電脳空間を劇的に塗り替えていく。
機体各部から展開された超高周波振動ブレードは、
もはや敵を切り裂く刃ではなく、
巨大な食材を均一にスライスする究極の調理器具と化していた。
「セラ、出力はどうだ! この空間ごと焼き上げるぞ!」
「マスター、不満を言っている暇はありません」
セラの口調が戻る。
「現在、レグナス・コアの防衛システムが、私の演算領域を
『巨大なオーブン』として強制上書きしています」
そして。
「あなたの脳内にあるテリヤキのイメージを、
ダイレクトに全銀河のネットワークへ射出しなさい!」
シオンは操縦桿を握りしめ、
かつてハバラ・アーキで手に入れた
「伝説のレシピ」を脳裏に描いた。
それは、甘美なテリヤキソースをベースに、
カリー・ハーンの情熱的なスパイス。
そして、
ゼノンからもたらされたエーテル・マヨネーズを融合させた、
次元を超える究極の調和だ。
次回へ続きます。




