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『美味い』は禁止です。――それでも俺は、テリヤキを焼く  作者: 野村英之
第三章:テリヤキ・エクスプロージョン編
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孤高の騎士と、遺された愛

※生きることは、食べることという物語です。

リナが放ったのは、カリー・ハーンで収集した

「おまけシール」や「レアカード」の複雑なデジタル・パターンを

模したウイルスだった。


管理AI「レグナス・コア」にとって、

非効率で論理的な価値のない「遊び」のデータは、

処理の優先順位を狂わせる致命的なノイズとなる。


『……。コア・システムに、

……未知の、非論理的パケットを検出……。

照合不能。……。排除、……不能。……処理能力が、

……〇〇〇.二%……低下……』


セラの無機質な声に、一瞬だけ揺らぎが生じた。


「今だ、グリード! 道を作りなさい!」


「『……承知した……、商売の女神……リナよ! この、漆黒の……。

槍で、……。鋼鉄の……。門を……抉じ開けてやる!』」


グリードの〈オメガ〉が、

機体の全エネルギーを右腕のランスに集中させた。


ネメシスのナビによる援護射撃で触手をなぎ払い、

最短距離の射線を確保する。


「おのれ、不浄な者共めが……!」


後方から追いついたカイザーのイプシロンが、

深紅の光を放ってグリードを狙う。


だが、


リナのハッキングによって

バグを起こしたコアの防衛システムが、

あろうことか味方であるはずの

カイザーを「異物」と誤認し、迎撃を開始した。


「何だと!? レグナス・コア、私を攻撃するというのか!」


「あはは! ザマあないわね!

欲にまみれたデータに翻弄されなさい!」


リナの商魂が、完璧な神の計算にヒビを入れた。


レグナス・コアの表面に、

直径百メートルほどのメンテナンス・ハッチが口を開く。


「シオン、今よ!

セラを引きずってでも中に突っ込みなさい!」


「応よ! 行くぜ、セラ! 俺たちの本拠地キッチンはあの中だ!」


シオンは意識を失ったように垂れ下がるセラの肩を抱きかかえ、

光り輝くコアの深淵へと、弾丸のように突入した。


レグナス・コアのハッチへと突入する直前、

シオンはバックモニター越しに、カイザーのイプシロンが

コアの防衛システムから容赦ない攻撃を

受けている光景を目にした。


「カイザー! お前、何で防衛システムに撃たれてるんだよ!

味方じゃなかったのか!」


通信ウィンドウに映し出されたカイザーの顔は、以前の精悍さを失い、

無機質な回路図のような文様が肌を侵食していた。


彼はシステムに魂を売り、

自らの肉体をレグナス・コアの

「外部演算ユニット」として差し出したのだ。


「……シオン。私はこの星の『静寂』を維持する歯車となった。

感情も、味覚も、……娘さえも切り捨ててな」


カイザーの傍らには、

いつも影のように寄り添っていた少女、タナトスの姿はなかった。


彼は自分がもはや人間として戻れない場所へ行くことを悟り、

愛娘同然の彼女をあらかじめ地上へと逃がしていたのだ。


「だが、どうやらシステムにとって、

私は使い捨ての駒だったようだ」


「タナトスはどこへやった! あいつをおいて、

一人で死ぬつもりか!」


「彼女には……、地上の『汚れ』の中で生きる道を与えた」


カイザーは語る。


「私のような、冷徹なことわりに従う機械の傍に置くわけにはいかん。

……行け、シオン! 私を憐れむ暇があるなら、

そのテリヤキの執念を見せてみろ!」


カイザーは叫びながら、

深紅の長槍を振るってコアの触手をなぎ払った。


システムから「異物」として排除されながらも、

彼はシオンが内部へ侵入するための

「盾」として、その身を挺し始めたのだ。


『……マスター……。カイザーの生体反応が、……急速に減衰しています。

彼は……。最初から……。……こうなることを……分かって……。

……バカな……男です……』


セラの瞳に、一瞬だけ青い光が戻った。


システムに飲み込まれながらも、

カイザーの「親としての覚悟」が、彼女の論理回路に

強いノイズを与えたのだ。


「カイザー、死ぬんじゃねえぞ!

お前を美味い飯で黙らせるまで、勝手に終わらせるもんか!」


シオンは奥歯を噛み締め、

セラフィオンのスロットルを限界まで踏み込んだ。


カイザーが命を懸けて抉じ開けたハッチの向こう側。


そこは、三〇〇年分の「お袋」の記憶が煮えたぎる、

電脳の胃袋だった。


ハッチを抜けた先、

そこは物理法則がゲシュタルト崩壊を起こしたような、

異様な空間だった。


無数の光ファイバーが血管のようにのたうち回り、

巨大なデータ・タンクが「レグナス・コア」の胃袋のように

脈動している。


周囲に浮遊しているのは、三〇〇年間にわたって収集された

「人類の幸福に関する統計」という名の、

膨大で無味乾燥な電子の残骸だった。


「……なんだよ、ここは。真っ暗で、冷たくて

……ちっとも美味そうな匂いがしないじゃないか」


シオンはセラフィオンを慎重に進めた。


コクピットの隣に座るセラは、相変わらず虚空を見つめたまま、

その手足はシステムに操られる操り人形のように

不自然な挙動を繰り返している。


『警告。……。不法侵入者を確認。……。ここは、純粋なる管理の領域。……。

……「味」という名の不確定要素を、……。これより、論理演算によって

解体・消去デリートします。……』


セラの唇から漏れるのは、かつての彼女を微塵も感じさせない、

機械的な断罪の言葉だった。

次回へ続きます。

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