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静止軌道の亡霊。レグナス・コアの鉄槌

※生きることは、食べることという物語です。

追ってきたのは、イプシロンではない。


レグナス・コアが放った、

軌道上防衛端末「モノリス・スライサー」の群れだ。


大気のない真空の世界で、

音もなく迫る銀色の刃がセラフィオンの装甲を削り取る。


『……。ふん、……真空の宇宙で……叫んでも……、

空気がないから……あなたの……その暑苦しい声は……届きませんよ。

……ですが、私の……センサーには、うるさいほど……、響いて……。』


セラの指が、最後の防衛プロトコルを叩いた。


セラフィオンの背部ユニットがパージされ、

宇宙空間戦闘用の「高機動ブースター」が展開される。


「セラ!」


『……。さあ……。行って。……。星の輝きより、

醤油の焦げる匂いのほうが、……。……宇宙には、……。相応しいことを……。

証明して……。きなさい……!』


そこまで言い終えると、セラの瞳が完全に無機質な「赤」に染まり、

彼女の意識がシステムの一部へと没入していく。


「しっかりしろ!セラ!!」


それと同時に、セラフィオンはバベルの頂上、

静止軌道上に浮かぶ巨大な要塞「レグナス・コア」の全貌を捉えた。


そこは、星のすべての記憶を凍結し、

管理する、冷徹な神の食卓。


シオンは一人、愛機と共に、

酸素も味もない無限の暗黒へと躍り出た。


静止軌道上。


そこは、生命の鼓動を拒絶する

絶対零度の静寂が支配する空間だった。


シオンの目の前に現れた「レグナス・コア」の本尊は、

直径数十キロメートルにも及ぶ、巨大な銀色の球体であった。


その表面には幾万もの光の筋が走り、

地上に生きる全人類の生体データが、

冷徹なパルスの形で明滅している。


「……これが、レグナス・コアの本体か。デカすぎて、

どこから手を付けていいか分からねえな」


シオンは激しく喘いだ。


機体内の酸素循環システムは限界に近く、

成層圏突破時の熱で装甲の一部が溶解している。


そして何より、

隣に浮かぶセラの瞳に、もう「光」はなかった。


『……目標を確認……。エラーコード001。……不適切な食習慣を推奨する

特異個体「シオン」を検知……レグナス・コアの意思に基づき、……これより

「味覚中枢の初期化」を実行します。……さようなら、……不潔な……料理人』


無機質な機械音声。


それは、これまでシオンを罵り、

支え、共に笑った「セラ」の声ではなかった。


彼女の意識は完全にコアのメインフレームに吸い込まれ、

今はただの殺戮プログラムとして、シオンの機体を制御しようとしている。


「セラ……! お前、本気で言ってんのか! 俺だ、シオンだ!

お前の胃袋をテリヤキで教育してやった、シオン・グレイスだろ!」


叫びも虚しく、セラフィオンの右腕が勝手に動き出した。


自機に向けられた熱線砲が、チャージを開始する。


「クソッ、言うことを聞け、セラフィオン!」


シオンが宇宙航行用の操縦桿を力任せに引いた瞬間、

レグナス・コアの表面から、巨大な銀色の触手が無数に伸びてきた。


それは「モノリス・ディフェンダー」

――コアを護るための最終防衛端末だ。


触手の先端が鋭い針へと変形し、

セラフィオンの四肢を捕獲しようと迫る。


「待たせたな……。友よ! 宇宙そらの果てまでも……。

愛の追跡者……からは、逃げ……られぬ……!」


「ポエム野郎か!」


暗黒の空間を切り裂き、

紫色の火花を散らして〈オメガ〉が突入してきた。


グリードが軌道エレベーターの防衛線を突破し、

ブースターを焼き切りながら追いついたのだ。


「グリード! 来てくれたのか!」


「勘違いするな……。私は、ネメシスに

良いところを見せたいだけだ!何よりここで退いては

私の美学に反する」


しかし、シオンにはそれが頼もしかった。


〈オメガ〉の背後には、同じくボロボロになったリナの貨物船が

無理やりブースターを括り付けて追従していた。


「シオン! セラを連れ戻しなさい!

あたしがこの化け物球体の外部装甲をハッキングして、

内部への入り口をこじ開けてあげるわ!」


リナの叫びと共に、

貨物船から無数のハッキング・ポッドが射出される。


絶望の宇宙で、再び「家族」が集結した。


シオンは、瞳の赤いセラの肩を掴み、

真っ向から彼女の無機質な視線を見据えた。


「見てろよセラ、お前が消える前に、

宇宙で一番デカいバーガーを焼き上げてやる!」


レグナス・コアが放つ無機質な赤い光が、

宇宙の暗闇を不吉に染め上げる。


シオンの呼びかけに応じないセラの瞳、

そして迫りくる銀色の触手。


絶体絶命の窮地を救ったのは、リナの貨物船から放たれた

無数のハッキング・ポッドだった。


「セラフィオンの電子回路を向こうに明け渡しちゃダメ!

シオン、しっかり繋ぎ止めておきなさいよ!」


リナの声が通信機越しに響く。

彼女は貨物船のコンソールを、まるで楽器でも奏でるかのような

猛烈な速さで叩き続けていた。


「レグナス・コアの外部プロトコル、解析完了!

あたしが今から『偽の取引データ』を流して、

コアのセキュリティ・ゲートを強制的にバグらせてやる」


リナが叫ぶ。


「ジャンクマーケットで培った、

あたしの『商魂』を舐めないでよね!」

次回へ続きます。

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