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砂漠の街「カリー・ハーン」

※生きることは、食べることという物語です。

黄金の機体、スプーン騎士との激闘は、

砂漠の熱気とカレーの香りが混ざり合う、

極めて不条理な決着を迎えようとしていた。


「『……。黄金の……輝きが、

……今、騎士の網膜を……灼き焦がす

……レアカードの……ホログラムに……我が魂も

……転売コレクトされたい……!』」


グリードがリナの放った

ホログラム弾の輝きに陶酔する中。


シオンはセラフィオンの指先で

黒胡椒ブラックペッパーの種子を弾き飛ばした。


「喰らえ! ハバラ・アーキ特製、

テリヤキ・ペッパー・ショットだ!」


「マスター、計算通りです。

黒胡椒の揮発成分が、敵機の吸気口に詰まったターメリックと反応し、

分子レベルの「激辛ガス」へと変質しました」


「効いたか?」


「知性の欠片もない黄金の騎士には、

少々刺激が強すぎたようですね」


セラの冷徹な分析通り、

黒胡椒の鋭い刺激がスプーン騎士のコクピットを直撃した。


「ゴ、ゴフッ!? な、なんだこの鋭い刺激は……!?

ウコンのまろやかさが、……黒い悪魔に侵食される……!

ゲホッ、ゲホゲホッ!!」


黄金の機体は、

まるで激しくむせ込む人間のように機体を震わせ、

担いでいた巨大なスプーンを砂漠に落とした。


「おのれ……! この屈辱、忘さぬぞ……。

『砂漠の王』の食卓を汚した罪、カリー・ハーンの門を潜った時に、

胃が焼け付くほどの後悔と共に思い出させてやる!」


黄金の機体は背面の推進剤から、

まるでカレーの蒸気のような黄色い煙を噴き上げ、

高速で砂丘の向こう側へと去っていった。


「……逃げ足だけは一級品ですね。

……名乗る勇気もないあたり、中身はきっと、……。

スパイスの配合に失敗した見習いコックか何かなのでしょう。

追いかける価値もありません」


「……へっ、正体隠して逃げやがったか。

ま、いい。リナ! 助かったぜ!」


「気にしないでよ! それよりシオン、

今のうちにカリー・ハーンへ急ごう!」


「おう!」


「ニナやタクが持ってるこの『三〇〇年前のおまけシール』

……砂漠の王の側近たちが、

血眼になって探してるっていう噂だからね 」


リナの不敵な笑みと共に、

シオンたちは再び移動を開始した。


その視線の先には、陽炎の中に聳え立つ、

スパイスと狂気が支配するオアシス都市「カリー・ハーン」の

巨大な門が、黄金色に輝いて見えていた。


「おいシオン、

熱波で脳みそまでテリヤキソースに浸かってるわけ?

シャキッとしなさいよ」


多脚貨物船の操舵席で、

リナ・アスカールは呆れたように毒づいた。


彼女がこの危険な砂漠を越え、

シオンたちに同行しているのは単なる義理ではない。


ハバラ・アーキで掘り出した遺物が、

この先の「カリー・ハーン」でどれほどの価値を持つか。


その損得勘定が彼女を動かすガソリンだった。


「リナ、お前さ、

たまには純粋に俺たちの冒険を応援できないのかよ」


「純粋? 冗談。

あんたのセラフィオンを維持する

ナノマシンのメンテナンス代、

誰が工面してると思ってるの?」


「うっ……」


「冒険なんてのは、

堅実な商売の上に成り立つ贅沢品なのよ」


リナは計器を叩きながら、

砂丘の向こうに聳え立つ黄金の門を指差した。


「セラ、あそこがカリー・ハーンね。

あそこの連中はスパイスの刺激で前頭葉が焼かれてるから、

論理なんて通じないわよ」


続けて。


「あんたの毒舌でなんとかできる相手じゃないわ」


「……リナ。あなたのその、世界を「利益」と「損失」だけで切り分ける

浅ましい感性には感服します」


「浅ましいって何よ!」


「ですが、私の毒舌は非効率な

存在を排除するための機能」


そして。


「カリー・ハーンの門番たちが、

マスターのような「歩くバグ」以下の知性なら、

私の出番すらありませんね」


セラの実体化した姿は、

暑さで少し揺らいでいた。


彼女にとって、

この砂漠の熱気は論理演算を阻害する最大のノイズだ。


「よし、タク、ニナ。準備はいい?

あんたたちがジャンクマーケットで見つけた

『三〇〇年前のおまけシール』。

これがあたしたちの通行手形になるんだから」


「ばっちりだよ!お姉ちゃん!!」


タクが元気いっぱいに答える。

ニナもその隣でうなずく。


貨物船が巨大な門の前に停まると、

ターバンを巻いた門番たちが、

銃ではなく巨大な「お玉」のような

武器を構えて近づいてきた。


「止まれ! この先は、砂漠の王が三〇〇年

煮込み続ける至高の香気で満たされている」


「三〇〇年だと!?」


「入城を望むなら、王の舌を満足させるスパイスか、

失われた時代の遺物を差し出せ!」


リナはシオンを制し、

不敵な笑みを浮かべてタラップを降りた。


「スパイスなんて、

どうせあんたたちの王様が全部独占してるんでしょ?

あたしたちが持ってきたのは、こっちよ」


リナがニナとタクに合図を送る。


二人が掲げたのは、

色褪せた、しかしキラキラと輝く「三〇〇年前のおまけシール」と、

プラスチック製の「レアカード」だった。


「これは……! 伝説の『銀河戦士シール』のホログラム版か!?

それにこのカード……この質感、

三〇〇年前の空気抵抗を計算した空力設計ではないか!」


門番の目が血走る。

スパイスによって闘争本能を刺激されている彼らにとって、

旧時代の「無駄な情熱の結晶」は、どんな宝石よりも脳を焼く。


「どう? カリー・ハーンには、

こういう『遊び』が足りないんじゃない?」


「まだ、あるのか!?」


「興味があるなら、通して。王様にもこれ、

いくつかお裾分けしてもいいわよ」


リナの交渉術は、相手の「渇き」を正確に突く。


門番たちは互いに顔を見合わせると、

震える手でお玉を下げ、巨大な門のレバーを引いた。


「通れ! 遺物を持つ旅人よ。

だが、王の謁見の間に行く前に、

まずは街のスパイス水で喉を焼くことだな!」


リナはシオンを振り返り、

ウィンクしてみせた。


「さあ、シオン。ここからはあんたの番。

この街の『胃もたれするような熱狂』を、

あんたのテリヤキでどう料理するのか、

じっくり見せてもらうわよ」

次回へ続きます。

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