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強制快楽のドーナツ VS 明日を生きるためのテリヤキ

エラータウンの旅が続きます。

リンの作る料理には、

一切の感情が乗っていない。


だからこそ、

感情が暴走しがちなこの街の住人にとって、

彼女の料理は唯一の「リセットボタン」なのだ。


「……ふん。お袋の残党が。

……だが、この米の炊き加減……。

計算され尽くした『無』だな」


バルドも毒気を抜かれたように、

おにぎりを黙々と食べ始めた。


「……でも、リンさん……。

これじゃあ、何の刺激もないですよぉ……。

人生はドラマじゃないんですかぁ……」


「……ドラマなんて必要ない。

必要なのは、明日の朝、

また胃が動くことだけ」


リンの冷徹な言葉に、

エラータウンの朝は

一瞬の静寂を取り戻した。


だが、シオンのニヤリとした

笑みは消えていなかった。


「……決めたぜ。

この街の『泣き』と『怒り』と『無』……。

全部混ぜ合わせて、世界で一番カオスな

サンドイッチを作ってやる!」


リンの「静寂のおにぎり」によって

一時的な平穏が訪れたエラータウン。


しかし、


その静寂を切り裂くように、

街中に甘ったるい香料の匂いと、

大音量のアップテンポな音楽が鳴り響いた。


「ハロー、愛すべき欠陥品バグ共!

今日も元気に人生、バグってるー!?」


ド派手なピンク色の装甲バイクに跨り、

大量の箱を抱えて現れたのは、

街一番の「快楽」のバグ保持者・サブリナだった。


彼女のバグは、

脳内のドーパミンが常に過剰分泌されていること。


彼女にとって、

悲しみや怒りは「人生の解像度が低いだけ」の

些細な問題に過ぎない。


「サブリナ……!

また来たな、この歩く麻薬菓子め!」


バルドが怒鳴るが、サブリナはそれを


「元気な挨拶ね!」


と脳内変換して、

色鮮やかなドーナツを

彼の口に突っ込んだ。


そのドーナツは、

虹色のグレーズが滴り、

中には脳を直接揺さぶるような

濃厚なカスタードが詰まっていた。


「……ッッハハハハハ!!

怒るのが馬鹿馬鹿しくなってきたぜぇぇ!

地球は丸い! 俺の頭も丸い!

全部最高だぁぁぁ!!」


さっきまで

血管を浮き上がらせていたバルドが、

地面を転げ回りながら爆笑し始めた。


「ひっ、ひぐっ

……あは、あはははは! 悲しいのに、

顔が笑っちゃうぅぅ!

神様、なんて残酷で素敵なジョークなのぉぉ!」


ジャックも涙を流しながら、

腹を抱えて笑い転げる。


これがサブリナの「スイーツ・テロ」だ。


彼女の作る菓子は、

食べた者の感情を強制的に

「多幸感」へ上書きする。


エラータウンの住人たちは、

次々とドーナツを求めてゾンビのように群がり、

街は不気味なほどの笑い声に包まれた。


「……おいおい、地獄絵図だな」


シオンは、笑いながら踊り狂う住人たちを見て、

顔を引き攣らせた。


サブリナがシオンにもドーナツを差し出す。


「ほら、シオン・グレイス!

世界をテリヤキで救ったヒーローも、

この『ハッピー・オーバーロード・ドーナツ』で、

本物の天国に行っちゃいなよ!」


シオンは受け取った

ドーナツをじっと見つめ、

鼻を鳴らした。


「……悪いな。俺は『食わされて笑う』より、

『食って唸る』方が好きなんだ。

……セラ、これのスキャン結果はどうだ?」


傍らで実体化していたセラが、

冷徹な瞳でドーナツを分析する。


『……成分の八割が砂糖と、

脳内物質を刺激する合成香料です。

これは「味」ではありません。

ただの「神経への電気ショック」と同義です、マスター』


「……へぇ、厳しいわね、AIちゃん」


サブリナの瞳が、一瞬だけ鋭く光った。


「でも、エラータウンのみんなは、

この街で生きるのが辛いのよ。

怒って、泣いて、疲れて……」


そして。


「一瞬でも笑えるなら、

それが偽物だって構わないじゃない。

……アンタのテリヤキだって、

結局はそういうもんでしょ?」


シオンは笑みを消し、

自分の義手を強く握った。


「……違うな。

俺のテリヤキは、食った後に

『明日も生きて、また食いてぇ』と

思わせるためにある。

……笑って全てを忘れるためのもんじゃねぇんだ」


シオンはキッチンカーから、

じっくりと熟成させた「特製タレ」を取り出した。


「サブリナ。

お前のドーナツに足りないのは、『苦味』だ。

人生がクソだって分かってる奴が、

それでも笑うための、本当の快楽を教えてやるよ」


シオンはドーナツを半分に割り、

その断面に、あえて焦がした醤油とスパイスを効かせた

「テリヤキ・カラメル」をたっぷりと塗りたくった。


「ほら、食ってみな。

これが……エラータウンの夜を抜けるための、

『不純な快楽』だ」


サブリナとシオンが「快楽の味」を

巡って睨み合っていたその時。


エラータウンの入り口に、

不釣り合いなほど白く輝く装甲車が止まった。


降りてきたのは、

旧時代の「美食検閲官」の制服を纏った男、


ガストル。


彼は鼻を絹のハンカチで覆い、

ゴミ捨て場のような街の光景を嫌悪感

たっぷりに眺めた。


「……野蛮だ。あまりに野蛮だ。

怒り、悲しみ、快楽……」


一拍。


「そんな不純な情動を皿に乗せて喜ぶとは、

やはりバグの集積場は消毒せねばならん」

次回、美食検閲官ガストルとのバトルへ続きます。

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