テリヤキ・マヨネーズ聖戦/後編
※生きることは、食べることという物語です。
巨大なフライパンが
火花を散らす神殿の中央で、
シオンとゼノンの調理が同時に開始された。
「セラ、出力全開だ!
収穫したての黄金の麦を挽き、
バンズを焼け!」
続けて。
「肉は最高出力のプラズマ熱で、
一気に旨味を閉じ込めるんだ!」
「イエス!マスター!!」
シオンの咆哮に応え、
セラフィオンの指先が目にも止まらぬ
速さで動き出す。
バインダーから放たれる熱線が、
正確な温度管理でパティを焼き上げていく。
その香ばしい醤油の焦げる匂いが、
聖地『ハバラ・アーキ』の空気清浄機をバグらせ、
街中に拡散し始めた。
「フン、力任せな調理だな。
……だが、マヨネーズは『調和』の芸術だ。
……見よ、これが管理社会を
バグらせる魔法の呪文だ!」
ゼノンは神速の速さで
巨大なオムライスを包み上げると、
その上にケチャップで複雑な「萌え」の
術式を描き込んだ。
それは単なるデコレーションではない。
お袋の
論理回路を一時的に麻痺させるほどの
情動エネルギーを秘めた
「エラー・コードの祈り」である。
「おい、あのマヨネーズ野郎!
食べ物に何を書き込んでやがる!」
「これは浄化の儀式だ!
仕上げに、我がエーテル・マヨネーズを……
萌え萌え、キュンッ!」
ゼノンが巨体に似合わぬ
可愛らしいポーズと共に、
特製マヨネーズをオムライスに
デコレーションした。
その瞬間、神殿中にピンク色の
エーテル・パルスが広がった。
観衆たちは「萌え」の
過剰摂取により次々と失神していった。
「『……お、……恐ろしい……。……あのマヨネーズの乳化度、
……私の……騎士道精神が、……マヨの海に……溶けていく……!』」
鼻血を拭ったばかりのグリードが、
再び膝を突き、その場に崩れ落ちる。
「マスター、ゼノンのマヨネーズから、
高密度の情動データが検出されました」
セラが焦りの声を出す。
メイド服を翻し、
ネメシスが緊迫した声を上げる。
「……。このままでは、……。テリヤキの香りが『萌え』に
塗りつぶされてしまいます!」
「塗りつぶされるだと? 笑わせんな!
香りってのは、戦いなんだよ!」
シオンが吠える。
「 セラ、熱量をさらに上げろ!
ソースを煮詰め、この『萌え』を
全部テリヤキのコクに変えてやる!」
シオンは鉄板に
ソースを叩きつけるように注いだ。
ジュワッ!という轟音と共に、
ハバラ・アーキのネオンさえも霞むほどの芳醇な煙が、
ゼノンの「萌えパルス」を真っ向から迎え撃った。
「萌え」の呪文を纏ったゼノンのオムライスと、
プラズマの熱で焼き上げられたシオンのテリヤキパティが、
激しく火花を散らす。
神殿内は、もはやどちらが優勢とも言えない
異常な「旨味の重力圏」と化していた。
「馬鹿な……。我がエーテル・マヨネーズの乳化結界が、
あのテリヤキの匂いに食い破られるだと!?」
ゼノンが驚愕に目を見開く。
シオンがセラフィオンの指先
で弾いたテリヤキ・ソースの雫は、
空中で霧散しながらも、
ゼノンが描き上げたケチャップの術式を
「コク」として取り込んでいく。
「これが、俺とセラの『生きてる味』だ!
ゼノン、お前のマヨネーズは最高に情熱的だが、
一つ足りねえものがある」
一拍。
「それは、……肉との抱擁だッ!」
「『……聞こえる、……漆黒のパティが、
……。白いマヨの海を……。
求めて叫んでいる! これこそが、
エラー・コードに刻まれた、……。
禁断の福音……!』」
再び意識を取り戻したグリードが、
狂ったように詩を紡ぐ。
その時、シオンが焼き上げたパティを、
ゼノンのオムライスの中心へと叩き込んだ。
――ジュワッ!!
テリヤキの甘辛いソースと、
国家機密であるエーテル・マヨネーズが接触した瞬間、
神殿に「味覚の特異点」が発生した。
ネメシスがメイド服の裾を翻しながら絶叫する。
「……。シオン。……。計測不能……。
テリヤキのアミノ酸とマヨネーズの脂質が、
……。核融合に近いエネルギーを放出しています……」
そして。
「ハバラ・アーキの住人たちの情動が
……。限界値を突破しました!」
ハバラ・アーキ中に設置された、エーテル・ラインを盗む
ネオンサインが一斉に明滅し、
「萌え」と「旨味」が混ざり合った強力なパルスが発生。
お袋の
管理回路を一時的に完全に沈黙させた。
「……負けた。……。
……私の負けだ、テリヤキの少年よ」
ゼノンは、自らのマヨネーズを包み込んだ
テリヤキの豊潤な香りに、
うっとりと目を閉じた。
「私のマヨネーズは『浄化』だった。
だが、お前のテリヤキは『征服』だ。
……この融合こそが、……ハバラ・アーキが三〇〇年待ち望んだ
……真の『情熱の潤滑剤』だったのだな 」
神殿の静寂を破ったのは、
ハバラ・アーキの住人たちの地鳴りのような歓声だった。
シオンのテリヤキとゼノンのマヨネーズが融合した
「テリマヨ・オムバーガー」の香りは、
管理社会の味気ない配給食に
慣らされた人々の魂を、文字通り
「浄化」し「征服」したのである。
「約束だ。宝物庫の鍵を受け取るがいい。
……そして、これを持って行け。
三〇〇年前の『剥き出しの情熱』の結晶だ」
ゼノンは、埃を被った小さな瓶と
一冊の古びた本を差し出した。
伝説のスパイス: 宝物庫の最深部、
ジャンク・マーケットの奥に眠っていた、
原子レベルで保存された「黒胡椒」の代替種子。
聖典の断片: 『同人誌』の中でも特に、
過去の人間たちが追い求めた「究極の味」の
工夫を記した禁書目録。
「……。シオン。……ついに揃いました。
このスパイスがあれば、アイオロスのデータにある
『真・テリヤキソース』が完成します」
ネメシスは、メイド服姿のまま、
神聖な面持ちでスパイスの瓶を掲げた。
「へっ、ありがとな、マヨネーズ野郎!
お前のマヨネーズも……。
まあ、テリヤキの引き立て役としちゃ
悪くなかったぜ!」
シオンが不敵に笑うと、ゼノンもまた、
誇らしげに自らの巨体を揺らして笑い返した。
ふと横を見ると、
グリードが「萌え」と「マヨネーズ」の
過剰摂取により、天を仰いで恍惚の表情で固まっていた。
「『……さらば、……。ネオンの城……。我が愛は……今、
白い海に……溶けて……消える……』」
「……シオン、もう放っておきましょう。
除菌するのも面倒ですよ」
ネメシスが冷ややかに言い放ち、
〈オメガ〉のコクピットへと戻っていく。
ハバラ・アーキのネオンサインを背に、
シオンたちは再び地上へと歩き出した。
その手には、世界を再び「味」で満たすための
最後のピースが握られている。
「よし、セラ! スパイスを組み込め!
世界中をテリヤキの匂いで包んでやるまで、
俺たちの旅は終わらねえぞ!」
『肯定、マスター。
次なる 標的は、……砂漠の果て。
カレーの香りが漂う……新たな戦場ですね』
黄金の麦畑と、ネオンの聖域を経て、
少年と天使の物語はさらなる熱量を帯びて加速する。
※明日へ続きます。




