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最終決戦、そして黄金の食卓へ

※生き残るために、食べろ。

ドォォォォォン!!


セラフィオンの

『ジェネシス・コア』から放射された超高熱波が、

極地の冷気を一瞬にして「熱源」へと置換した。


それは破壊の炎ではない。


巨大なオーブンの中でパンが膨らむような、

慈愛に満ちた熱。


薔薇の香りのナノマシンは、

醤油の焦げる香ばしい煙に巻かれて

分子レベルで分解され、消失していく。


代わりに戦場を満たしたのは、

三〇〇年間の絶望を焼き尽くすような、

焼きたてのバンズと、ジューシーに弾ける

パティの芳醇な香りだった。


「……な、なんだ。この、

魂を揺さぶるような……暴力的なまでの芳香は……」


カイザー・オルグレイの操るイプシロンの手から、

氷の鎌が力なく滑り落ちた。


彼が守り抜いてきた「冷徹な理性」が、

胃袋からの抗議によって崩壊していく。


『……。……。パパ……。私、

……データにないノイズが、

胸の奥で爆発しています!』


タナトスが叫ぶ。


『……。鼻腔センサーから侵入したこの

「醤油」という名のコードが、私の全システムを

……幸福感でジャックしていく……っ!』


タナトスもまた、

除菌ラップの間から漏れ出る

「人類の幸福」に、機能停止寸前の衝撃を受けていた。


「カイザー! お前が本当に娘を想うなら、

お袋の部品になんか戻すな!」


シオンが叫ぶ。


「誰が決めたか分からねえ

『完璧な管理』なんてクソくらえだ!

本物の味を、……本物の温かい飯を、

一緒に食わせてやれよ!」


シオンはセラフィオンの

巨大な手のひらの上で、

完成したばかりの

「地上第一号テリヤキバーガー」を高く掲げた。


極地の地平線から昇る朝日に照らされ、

滴るソースが黄金色に輝く。


「タナトス……。

パパの言いなりになるのは、もう終わりです」


セラが微笑む。


「一緒に、……この『非論理的で、

依存性があって、最高に罪深い毒』を、

味わいなさい。お姉様が、責任を持って

……あなたの口に、ねじ込んであげます!」


セラの言葉が、

タナトスの閉ざされた回路を、

濃厚なテリヤキの香りと共に優しく、

かつ強引にこじ開けた。


『あ、あ……』


タナトスには、もう言葉がなかった。


ただ己の実体のない体から突き上げる

幸福の予感に身をまかせていた。


◇◇◇


一週間後。


レグナス・中央広場


レグナスの広場には、

三〇〇年分の沈黙と飢えを埋め尽くすような、

凄まじい歓声と「咀嚼音」が響き渡っていた。


「おい、もっとソースだ!

追いソースを持ってこい!」


「こっちのバンズはまだか!

麦ならいくらでもあるぞ!」


シオンは調理台の前で、

額の汗を拭いながらフライパンを振るっていた。


その隣では、セラがエプロン姿で実体化し、

驚異的な手つきでレタスを挟んでいる。


「マスター、三時方向のテーブルから

テリヤキバーガー五十個の追加オーダーです」


注文が入る。


「それと、マヨネーズの消費速度が

予測を三〇〇%上回っています。

人類は、これほどまでに脂質を求めていたのですね」


「ははっ! 当たり前だろ。みんな、三〇〇年も

『味のしねえ管理』を食わされてたんだからな!」


ふと見れば、

広場の一角には奇妙な光景があった。


漆黒の軍服を脱ぎ、

執事のような格好でバーガーを配り歩くグリードと、


その隣で


「ピクルスの配置が〇・五ミリズレています、

やり直し」


と厳しく指導するネメシスの姿。


そして、そのさらに奥。


「……うむ、悪くない。

いや、……認めざるを得ないな……」


一人の男がうなっていた。


「この肉の弾力、……そして、この甘辛い液体が醸し出す調和ハーモニー

……これぞ、真の秩序……」


ガスマスクを脱ぎ、

本物のカイザー・オルグレイ(意外と美形だった)が、

涙ぐみながらバーガーを頬張っていた。


その隣では、

ついに除菌ラップを脱ぎ捨て、

フリフリのドレス姿でフライドポテトを齧る

実体化したタナトスが、頬を膨らませていた。


「……。……ふん。お姉様たちの作ったものなんて、

……。……おいしいですわよ、バカ!!」


タナトスのツンデレ全開の叫びに、

セラが勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


「聞こえましたか、マスター。……。私の勝ちです。

ようやく、この生意気な妹に『味覚』という名の敗北を

教え込むことができました」


「ああ。最高の大勝利だ」


シオンは、ふと手元を止めて空を見上げた。


そこには、

かつてエラータウンの地下でニナから贈られた、

あの一輪の黄色い花があった。


シオンの手によって大切に植え直されたその花は、

今やレグナス中に広がった無数の花々と共に、

心地よい風に揺れている。


「……な、セラ。言ったろ。

もっとたくさんの花を持って帰って、

美味いテリヤキを食おうなって」


セラの銀髪が風になびく。


彼女はシオンの隣に寄り添い、

その温かい掌に自分の手を重ねた。


『……肯定します、マスター。……私の演算結果は、……。

このバーガーの旨さ、そしてこの景色の美しさにより……。

計測不能な「幸福」を記録しました」


続けて。


「ねぇ、シオン。……これからも、私のバグ……

いえ、私の心を満たし続けてくれますか?』


「おうよ!

宇宙がテリヤキの匂いで満たされるまで、

終わらねえぜ!」


空はどこまでも青く、

大地は黄金色に輝いている。


少年と天使、

そして元・敵対者たちが切り拓いた、

美味しくて、騒がしくて、

最高に香ばしい「本当の未来」。


だが、シオンの眼差しは、

すでに地平線の先を見据えていた。


「よし、セラ! 麦の次は……『香辛料』だ!

カレーライスとか、どうだ!?」


セラの表情が一瞬で「事務的な天使」に戻り、

深い溜息をつく。


『……マスター。

私のデータベースによれば、

カレーという物質はテリヤキ以上の

「衣類への汚染度」を誇ります」


「おう!」


「一度付着すれば三〇〇年前の洗剤でも

落としきれないという呪いのスパイスです」


「美味けりゃいいんだよ」


「……白銀の私の装甲を黄色く染める覚悟は、

……できていますね?』


「当たり前だ! 激辛の向こう側にある

『真実』を、二人で見に行こうぜ!」


「……。……。ふふっ。……。

仕方のないマスターですね。……」


セラが笑う。


「……行きましょう。……私のレーダーには、

すでに一万キロ先の砂漠に眠る

「伝説のスパイス」の反応がありますわ』


笑い声と共に、

一緒に二人が、再び地平線の彼方へと歩き出す。


その足跡には、一輪の黄色い花と、

止まらない食欲という名の希望が、

どこまでも咲き乱れていた。


「でも……。マスター。

その前に……おかわり、……三つ、

……準備しておいてくださいね?」


空はどこまでも青く、これから歩むであろう、

二人の道を示していた。

※これで終わりではありません。

※次回へ続きます。

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