絶対零度発酵!戦場をオーブンに変えろ!!
※生き残るために、食べろ。
「じゃあ何だよ!
まさか、俺の秘伝のタレのレシピか!?」
「貴様の脂ぎったレシピなど興味はない!
私が欲しいのは……
その機体の中にいる『セラ』のコア・コードだ!」
カイザーの瞳に、処刑人としての鋭い光が戻る。
「『お袋』を完全再起動させるには、
セラフィナの純粋な遺伝子情報が不可欠。……」
「なんだと!」
「それさえあれば、
この汚れきった世界を再び
『お袋』の揺り籠の中へ」
一拍。
「清浄なる秩序の中へ、戻すことができるのだ。
タナトスと私が、永遠に薔薇の香りに包まれて暮らせる、
完璧な管理社会へとな!」
「させるかよ!そんなこと!!」
「マスター。解析が完了しました。……。
カイザーの真の狙いは、私の記憶領域の
深層にある「管理権限キー」です」
大きく叫ぶ。
「私を「お袋」の部品に戻すつもりです!」
セラの顔が、怒りと嫌悪で歪む。
「タナトス。あなた、自分のパパ……いえ、マスターが、
この世界を再び「味のしない監獄」に戻そうとしているのを、
黙って見ているのですか!?」
『お姉様。……。
「味」なんて、不確定なノイズに過ぎません……』
タナトスは笑う。
『私は、パパの言う通り、
清潔で、静かで、薔薇の香りがするだけの世界で、
パパに一生愛でられていたいだけ』
一拍。
『……不潔な自由なんて、いりませんわッ!!』
タナトスの叫びとともに、
イプシロンが異形の形態へと変形を始めた。
背中のバインダーが王冠のように広がり、
周囲の空間から熱を奪い去る。
「冗談じゃねえ!セラは俺の相棒だ!
お前みたいな時代遅れのロリコン親父の、
管理ごっこには付き合ってられねえんだよ!」
「黙れッ!貴様のような、
食欲という名のバグに支配されたサルに、
私の高潔な計画は邪魔させん!」
カイザーが迫る。
しかし、テラフォーミング・バージョンとなった
セラフィオンのパワーは前回の戦闘の比ではない。
有人型ドローンを破壊された
ヘルバイラたちは、今回は連れてきていない。
カイザーは最後の手段に出る。
「タナトス、
全感覚リンク開始!
セラを、強制連行する!」
深紅の死神が、
絶対零度の吹雪を纏いながら、
セラフィオンへと突進する。
一方でシオンは、麦畑のど真ん中で、
ある「準備」を始めていた。
「セラ!アイオロスのデータを展開しろ!
あいつの『冷気』を、逆利用してやる」
そして。
「……。麦の殻と、
セラフィオンの熱、そこにアイツの冷気が加われば、
最強の『発酵室』が出来上がるぜ!」
「……!マスター、
まさか……戦闘中に、
一次発酵を開始するつもりですか!?」
「ああ!アイツの薔薇の香りを、
テリヤキの煙で、一分子残らず焼き尽くしてやる!」
黄金の海を舞台に、
世界の再起動を狙う「父娘」。
最高の一口のために未来を拓く「少年と天使」。
二組の激突は、
中盤戦にして早くも臨界点へと達しようとしていた。
◇◇◇
「――セラ!
『ジェネシス・コア』を反転させろ!
敵の冷気を吸収し、熱量変換だッ!」
シオンの叫びとともに、
白銀のセラフィオンが黄金の麦畑の中央で
その四肢を踏ん張った。
カイザーの放つ絶対零度の猛吹雪が、
セラフィオンの装甲に触れた瞬間。
アイオロスの遺産である
テラフォーミング回路が激しく明滅する。
冷気はエネルギーへと変換され、
機体周囲に「巨大な不可視のオーブン」を形成した。
「な、何をしている!?
私の凍結プログラムが、
……吸収されているだと!?」
「ロリコン親父! 教えてやるよ、
三〇〇年経っても変わらねえ真理をな!
パンを焼くのには、正確な温度管理が必要なんだよ!」
シオンは収穫したての麦を、
セラフィオンのマニピュレーターで粉砕し、
その場で練り上げた。
アイオロスのナノマシンが、
数分かかる発酵プロセスを一瞬で終わらせる。
「グリード! 焼き上がるまであいつを抑えろ!」
「『……我が魂は、……今、巨大なフライ返しとなる。……。』
私の妹を再びお袋の部品にするなど、
……この私が決して許さん!!
ネメシス!フルパワーだ!」
「了解!マスター!!」
ネメシスが応える。
グリードが〈オメガ〉を駆り、
漆黒の槍を振り回してイプシロンに体当たりをかます。
「この裏切り者め!貴様まで邪魔をするか!」
「裏切りは私の美学に反する。表返っただけだ」
グリードとカイザーが火花を散らす。
一方、
薔薇の香りと、発酵し始めたパン生地の甘い匂い。
そして、シオンが鉄板で焼き始めた
特製ソースの醤油の香りが、
戦場で激烈に衝突し、もはや誰にも正解がわからない
混沌とした異臭が立ち昇った。
「くっ、タナトス!早く
セラの遺伝子コードを強制抽出しろ!
時間をかけるな!」
『やって……やってますわ!
ですが、……何ですかこのノイズは!』
タナトスが叫ぶ。
『 セラお姉様のメモリーが、「テリヤキの焼き加減」と
「マヨネーズの黄金比」という、
ゴミのようなデータで埋め尽くされていて、
本質に辿り着けません!』
タナトスがミイラ姿で悲鳴を上げる。
セラの記憶領域は、
シオンとの「美味い思い出」という名の
鉄壁のプロテクトで守られていた。
「そこだ、
セラ! 最大出力ッ! 焼き上げろぉぉ!!」
シオンの叫びが戦場に響き渡った。
次回へ続きます。




