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テリヤキ収穫祭! 薔薇の香水を撒くロリコン親父

※生き残るために、食べる。

「……。……。降ってきた……。

……雨だ。……雨だぁぁぁ!!」


空は一瞬にして

重厚な雨雲に覆われた。


レグナスの歴史上、

初めての「人々の願いによって降らされた雨」が、

大地を。麦を。


そして狂喜乱舞する人々を激しく打ち据えた。


雨の中で、シオンはびしょ濡れに

なりながら笑っていた。


隣では、セラが不思議そうに掌を空に向け、

落ちてくる水の感触を確かめている。


「……。マスター。私の計算式には、

『祈り』という変数は存在しませんでした」


手のひらが雨で濡れる。


「ですが、……。……この雨の冷たさは、……。

……どの論理回路よりも、……私のシステムを

……温めてくれています……」


「ああ……。言ったろ、セラ。

……理屈じゃねえんだよ」


アイオロスのホログラムは、

雨に煙る景色の中で、

満足げに微笑んで消えていった。

 

黄金の麦畑は、再びその命を繋いだ。

収穫まで、あとわずか。


レグナスの人々は、

初めて自分たちの意志で「天」を動かした。


その誇りが、

麦よりも力強く、

彼らの心に根を張ったのである。


◇◇◇


レグナスに降った奇跡の雨から数日。


大地はたっぷりと水分を吸い込み、

セラフィオンが放つ成長促進パルスを受けて、

麦畑は一気にその色を変えた。


見渡す限りの銀世界だった荒野は、

今や風にそよぐ「黄金の海」へと

変貌を遂げていた。


「――よし、野郎ども!収穫だッ!

一粒も残さず刈り取れ!」


シオンが叫ぶ。


「今夜は人類三〇〇年ぶりの、

本物のテリヤキ・フェスティバルだ!」


シオンの号令とともに、

エラータウンの住人たちが

一斉に畑へと飛び出した。


セラフィオンは、

その巨大な指先を繊細なコンバイン・ユニットへと変え、

撫でるように麦を刈り取っていく。


グリードのオメガもまた、騎士の槍を

「超高速回転脱穀機」へと換装し、凄まじい勢いで

麦の束を黄金の粒へと変えていた。


「……マスター。収穫率、九八%……。成分解析完了。……。

三〇〇年前の記録にある「特級小麦」を

凌駕するグルテン含有量を確認しました」


セラの報告。


「……おめでとうございます。……。

これで……世界を救うバンズが焼けます」


セラの声も、心なしか弾んでいる。


だが、


その歓喜の絶頂に、冷や水を浴びせるような

「高貴な香り」が漂ってきた。


「――おのれ、不潔な泥棒猫どもめ。

……。その麦、……。

……タナトスのティータイムのために、

私がすべて没収させてもらう!」


空を切り裂き、深紅の閃光が飛来した。


天使装甲イプシロン。


その背中のバインダーからは、

攻撃用のビットではなく、

「超高濃度・薔薇の香り発生ポッド」が射出され、

戦場をピンク色の煙で包み込んでいく。


「出やがったな、ロリコン親父!」


「シオン君、

その呼び方は語弊があるな!……。

私は、タナトスの願いを叶える

一人の父親として……!」


カイザーが叫ぶ。


「もとい!

……処刑人として……その汚らわしい、

『テリヤキのむぎ』を、

浄化しに来たのだ!」


イプシロンの手には、

巨大な「氷のデスサイズ」が

握られていた。


『……お姉様。……。

その泥だらけの姿、

……見ていて虫唾が走ります』


タナトスはそう言うと。


『今すぐその麦を差し出しなさい。

そうすれば、私の「薔薇の香りの消臭弾」で、

あなたのその不潔な記憶ごと、

……消毒してあげますわ!』


ミイラのように除菌ラップを巻いた

タナトスのホログラムが、

イプシロンの肩でヒステリックに叫ぶ。


「『……。……薔薇の香りは、……終焉の合図……だが、

……我らの胃袋を、香水ごときで騙せると思うな!』」


グリードが〈オメガ〉を駆り、

イプシロンへと突撃した。

 

収穫祭の真っ只中で始まった、

史上空前の「姉妹喧嘩」が再開された。


シオンはセラフィオンのコクピットで、

不敵に笑った。


「セラ!

テラフォーミング・モードのまま戦うぞ!

武器なんていらねえ。

収穫したての麦の力を、

あいつらに叩き込んでやれ!」


「了解、マスター。

出力全開。タナトス。

お姉様が、本当の「大地の豊穣」というものを、

物理的に教えてあげますッ!」


白銀の女神と深紅の死神が、

黄金の海の上で激突した。

 

テリヤキ・インパクトすら超える、

人類の「食」への執念が、今、極光の下で爆発する。


「――薔薇の香りで世界を包め!

不浄なるテリヤキの粒子を、

一分子残らず凍結排除せよ!」


カイザーの叫びとともに、

イプシロンから放たれたピンク色の霧が、

黄金の麦畑を侵食していく。


その霧はただの香水ではない。


ナノマシンを含んだ「超低温凍結媒介」であり、

触れるものすべてを

美しい氷の結晶へと変えてしまう、

死の芳香だ。


「おい、このロリコン親父!

自分のタナトスにいい格好したいからって、

人の畑に芳香剤ぶち撒けてんじゃねえよ!

営業妨害だぞ!」


シオンはシートを激しく叩き、

セラフィオンを加速させる。


「ロ、ロリコンだと……!?

無礼な!これは聖なる父性愛だ!」


カイザーが怒鳴る。


「そしてシオン・グレイス、

貴様は大きな勘違いをしている」


イプシロンが迫る。


「……私が真に欲しているのは、

そんな雑草むぎではない!」


イプシロンの氷の鎌が、

大気を引き裂きながら

セラフィオンの首元を狙う。


シオンはテラフォーミング・ユニットの

排熱スラスターを全開にし、

その熱量で鎌を弾き返した。

次回へ続きます。

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