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テリヤキを、義兄(仮)に食わせろ!

※生きることは、食べることという物語です。

「ここが……シードボルトか。思ってたのと、だいぶ違うな」


シオンはセラフィオンのモニターを見上げ、思わず溜息を漏らした。

極地の氷壁の合間に姿を現したのは、平和な『種子貯蔵庫』などという

呼び名からは程遠い、威圧的な黒鉄の巨塔。


それは地底深くへと根を張る、巨大な逆さ城——

人類の最後の希望(物理)という名の、殺意の塊。


「当然です、マスター。

ここは三〇〇年前、人類が地上の再生を託した最後の箱」


続けて。


「不適格者が触れれば世界を汚染しかねない禁忌の書庫。

……内部スキャン完了。

笑えないどころか、乾いた笑いしか出ない結果が出ました」


実体化したセラが、コンソールを叩きながら顔を青ざめさせる。


「この先、幾重にも重なる『試練』がプログラムされています。

物理トラップ、電子攪乱、


そして……。マスター、私の演算能力を焼き切るつもりの

セキュリティ・迷宮が、地下最深部まで続いています!」


二機の天使装甲がゲートを潜り抜けると、

そこは「数の暴力」が支配する殺戮の回廊だった。


「うわっ、なんだこれ! 天井から針!? 床が抜けるぞ!

ディストピアに『古き良き罠』とか求めてねぇんだよ!」


「マスター、叫んでも穴は埋まりません! 三時方向から熱線! 回避!

さもなくば、マスターごとレアで焼き上がりますよ!」


次々と襲いかかる自律型防衛ドローン――『シードボルト・ガーディアン』。

それはかつての「お袋」の兵器よりもさらに旧式で、

それゆえに容赦がない。


洗練された連携などではない。ただひたすらに、

侵入者を圧殺するためだけの「質量のド根性」。


「くそっ、機体の温度が……上がりすぎだ!」


シオンの叫びと共に、

セラフィオンのコクピットが警報の赤一色に染まる。


通路の四方八方から、三〇〇年前の旧世代型マイクロミサイルが、

蜂の群れのような羽音を立てて殺到していた。


「マスター! 左腕の同期率が……四〇%まで低下!

このままでは義手がオーバーヒートで自爆します!」


セラの悲鳴に近い警告。プラズマ・カッターの刃が、

敵の分厚い装甲を斬るたびに火花を散らし、

シオンの視界を白く焼き切る。


一歩踏み出すごとに、床が重力操作によって

数倍の負荷をかけてくる。


シードボルトそのものが、一つの巨大な「胃袋」となって

侵入者を消化しようとしているかのようだった。


「クソッ、斬っても斬ってもキリがねえ!

どんだけ種を守りたいんだよ!」


セラフィオンのプラズマ・カッターが火花を散らすが、

残骸を乗り越えてさらに数百機のドローンが暗闇から湧き出してくる。


「マスター……エネルギー残量が二〇%を切りました。

私の解析速度も、この物量によるノイズで……飽和状態オーバーフローです……。

ごめんなさい、マスター。……ここまで、のようです」


セラの瞳から、光が消えかかる。


「おい! セラ、あきらめるんじゃねえ!!

俺たちの帰りをリナたちは待っているんだぞ!!」


叫ぶシオン。


だが、その声も数千のドローンが放つ駆動音に掻き消される。

グリードの〈オメガ〉も盾を構えて防戦一方だ。装甲板が剥がれ落ち、

内部のフレームが剥き出しになっている。


「クソ!こ の数では、ポエムも浮かばん!! ……死出の旅路の、

……ガイドブックは、……どこにも、売って……いない……!」


グリードの悲鳴が聞こえる。


「成功率三十二%、いやな演算通りになりそうです」


ネメシスも必死だ。


数千のドローンがトドメの一斉射撃を放とうとした。


その時だった。


『――テスト、テスト。

あー、聞こえるかな? 三〇〇年ぶりの侵入者さんたち』


ダンジョン全体の照明がパッと切り替わり、空間の中央に、

一人の男のホログラムが浮かび上がった。

白衣をラフに着崩し、片手にリンゴを持った、

どこか飄々とした青年。


「……!? 個体識別不能。あなたは、誰ですか?」


『俺? この場所の管理人。

まぁ、三〇〇年前にいなくなったオリジナルが残した、

ただの『暇つぶし用AI』だよ。君たちさ、そんなボロボロになってまで、

何を取りに来たの? 武器? 世界を変える力? それとも不老不死?』


シオンは、荒い息を吐きながらモニター越しに叫んだ。


「……違うよ! 俺たちが欲しいのは……

最高のテリヤキバーガーを作るための、『本物の麦』だ!!」


一瞬の沈黙。


ホログラムの青年は、目を丸くした後、腹を抱えて爆笑した。


『はははは! 麦!? 最高だね! 三〇〇年待って、

最初の客が『腹ペコの料理人』とは!』


青年が指をパチンと鳴らす。

すると、襲いかかろうとしていた数千のドローンが

一斉に機能を停止し、整列した。


『気に入った。……君たちの「味」、試させてもらうよ。

試練の第ニ段階、オープンだ!』


◇◇◇


「よし、決まりだ。試練の第ニ段階――題して

『お義兄様(仮)を唸らせろ!

極限のバーガークッキングバトル!』を開催するよ!」


青年AIが指を鳴らすと、殺風景な回廊が瞬時に変貌した。

床からはステンレスの調理台がせり出し、

天井からは最新式の換気扇とスポットライト。


ガーディアン・ドローンたちは、殺戮兵器から給仕ロボット

へと「転職」し、一斉に電子音を鳴らした。


『イエス・シェフ!』


「……何よ、このふざけた展開は。

私の演算領域が『拒否』を叫んでいます」


セラが頬をひきつらせる。


『ははっ、いいじゃないか! 俺はアイオロス。

君のベースとなった少女、セラフィナの兄の脳波を

コピーした存在さ。……って』


間。


『ちょっと待てよ。近寄ってよく見せてくれ。』


アイオロスは、じろじろとセラの顔を覗き込んだ。


『……おいおい。マジかよ。

妹のコピーが、テリヤキ中毒の野良犬と仲良くやってるのか?

これは……「お兄ちゃん」としては、黙ってられないなぁ!』


セラの顔が、羞恥と怒りで真っ赤に染まる。


「一体、何なのよ!このふざけた展開はっ!!」


セラは叫んだ。

明日へ続きます。

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