表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/83

生存率十八%の氷の地獄へ

【重要なお知らせ】いつも読んでいただき、ありがとうございます。

本日の更新以降は、毎週火・木・土の更新ペースに移行します。

詳しくは、活動報告に記載しますので、ご確認ください。

なお、続きが気になる方は便利なブックマーク機能をご利用ください。

セラの赤いノイズが完全に消えた後も、

広場の空気はまだ凍りついたままだった。


「そして、なんだよ?」


「この感覚は……深紅の妹。……イプシロンと、……タナトス。先ほどの侵入信号と一致しています」


「なんだと、カイザーの野郎が生きていたのか……」


かつて戦った記憶がシオンの脳裏に甦る。カイザーの目的は、あの時の復讐だけではあるまい。お袋の再起動が狙いだろう。しかし、どうやって――。


「侵入痕は消えません。私の中に“鍵”が残っています」


セラが報告する。


「今回の遠征成功確率、三十二%」


シオンは気にしない。


「意外とあるな」


「ただし――マスターの生存率は十八%……。

それでも、いくのでしょう?」

 

セラの声が、微かに震えた。

 

「『……聴こえる。……雪の降らないこの街に、……凍てつく審判の足音が……。』……シオン、黄金の種を求めるなら、貴様は氷の地獄へ足を踏み入れることになる」

 

いつの間にか現れたグリードが、〈オメガ〉のハッチに寄りかかり、手帳に新たなポエムを刻んでいた。その隣には、マヨネーズのボトルを静かに磨くネメシスの姿がある。

 

「地獄だろうがなんだろうが、関係ねえ。……テリヤキのバンズ(麦)が俺たちを待ってるんだ」

 

シオンはリナの頭をポンと叩くと、白銀の天使装甲、セラフィオンを見上げた。

 

「行くぞ、セラ。……『お袋』の遺産を、俺たちの調理場に変えてやる!」

 

「了解。マスターの脳内が『麦』でいっぱいの今、何を言っても無駄ですね。全システムチェック。……目標、シードボルト。私たちの『最高の一皿』のために、……氷の処刑人を焼き尽くしに行きましょう」

 

白銀と漆黒の二機の天使装甲が、凍てつく北方へと推進力を解き放つ。

それは、失われた「未来の種子」を奪還するための、聖戦の始まりだった。


凍結した地――旧極地セクターへの遠征を翌朝に控えた夜。

かつてのレグナス中央広場は、焚き火の明かりと、どこか落ち着かない、けれど希望に満ちた熱気に包まれていた。


シオンは、セラと共に整備を終えたばかりのセラフィオンの足元に座り、夜風に当たっていた。

隣には、セラが、膝を抱えて座っている。彼女は先ほどから、自らの指先をじっと見つめていた。


「どうした、セラ。まだ指が動かしにくいか?」

「……いいえ。関節の駆動トルクも、ナノマシンの再構成密度も正常です。ただ、少しだけ、演算処理にノイズが混じっています」


「ノイズ?」

「『期待』という名のバグです。マスター、私はAIです。成功確率の低い遠征に対しては、本来なら警報を鳴らすべき立場です。……それなのに、私の『身体』は、あなたが持ち帰ると言ったあの『麦』の感触を、勝手にシミュレートしてしまっています」


セラは不機嫌そうに顔を背けたが、その耳の端がわずかに赤いのをシオンは見逃さなかった。


「はは、いいバグじゃねえか。楽しみにしてろよ。本物の麦で焼いたバンズは、きっとお前の想像を超えてるからな」


そこへ、騒がしい足音が近づいてきた。

エラータウンからやってきたジャックやミア、そして大勢の住人たちだ。


「シオン! これ、持っていけよ!」


泣き虫料理人のジャックが、ボロボロの布に包まれた特製の保存食をシオンに差し出した。開けてみると、それはカチカチに乾燥した何かの塊だった。


「……これ、なんだ? 石か?」


「失礼なこと言うな!俺が三日三晩泣きながら乾燥させた、特製の『泣き味噌』だ! お湯に溶かせば、どんな凍てつく北方でも力が湧いてくる。……死ぬんじゃねえぞ、シオン。お前の焼くテリヤキのライバルは、この俺なんだからな!」


「ジャック……。ああ、ありがたく使わせてもらうよ」


アンニュイなミアも、だるそうにしながら一振りのナイフを差し出した。


「これ……父さんが昔、地上のガラクタから拾って研いだやつ。……肉を切るのに、使いなよ。あんまり変な魔物に噛みつかれないようにね」


スラムで「お袋」の目を盗んで生きてきたエラータウンの人々にとって、シオンは希望そのものだった。彼らは口々に、乱暴ながらも温かい激励の言葉を投げかけていく。


そんな中、一人の小さな少女がシオンの前にトコトコと歩み寄った。

リナの妹――ニナだ。彼女は背中に隠していた手をそっと前に出した。


「……シオンおにいちゃん。これ、あげる」


彼女の手のひらにあったのは、一輪の小さな、しかし鮮やかな黄色い花だった。

この日のために、エラータウンの地下深く、わずかに光が差し込む廃園で見つけて、大切に育てていたものだろう。


「……花か。こんな綺麗なもん、どこに……」

「図鑑で見たの。地上には、お花がいっぱいあるって。……だから、お守り。おにいちゃんが、寂しくないように」


シオンは思わず、言葉を詰まらせた。


三〇〇年もの間、偽空にせそらに閉ざされてきた人類。そんな世界で、この少女がどれほどの想いでこの「色」を守ってきたか。

シオンは膝をつき、ニナと同じ目線になると、その小さな花を優しく受け取った。


「ありがとう、ニナ。……約束するよ。北の果てには、この花よりもっとたくさん、もっと色んな種類の種が眠ってるんだ」


シオンは、ニナの小さな頭の上に手を載せた。


「それを全部持って帰ってくる。そうしたら、レグナス中を、お前の好きな花でい~っぱいにしてやるからな」

「ほんと……?」

「ああ。シオンおにいちゃんは、嘘はつかない。……テリヤキの味に誓ってな」


ニナはパッと顔を輝かせ、シオンの首に抱きついた。

シオンは思わず、妹のアリシアの面影をニナに重ねる。


その光景を、セラは黙って見つめていた。彼女の瞳の中では、ニナから贈られた花の波長データが、特別な領域に永久保存されていった。


シオンは花を握りしめ、ふと空を見上げた。


「……でも、思ったより早く、試練は来そうだな」


北の凍土で待つのは、氷の処刑人だけではないらしい――。


同時刻、北の隠蔽基地にて。


『姉機確認。演算パターン一致率九十二%。……ああ、間違いない』


黒い少女タナトスの唇が、ゆっくりと歪む。


モニターに映るのは――

ニナから花を受け取るシオンの姿。


『優先目標:セラフィオン回収』


一瞬の沈黙。


そして。


『副目標変更。――花を保持する個体を最優先で排除』


コンソールに赤い文字が灯る。


シオンの生体波形がロックされる。


『処理開始まで、残り二十四時間』

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

本日より、本作は新タイトル

『一億度のプラズマでテリヤキを焼け!

~最終兵器少女AIと味わう終末クッキングバトル~』

として再始動しました。


これに合わせて、活動報告にてヒロイン・セラ及びネメシス等

『秘匿設定資料(身長・スリーサイズ・型式番号等)』を公開しました。

セラの意外な正体や、「BVT」に隠された意味とは……?

ぜひ、下の【活動報告】からチェックしてみてください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ