生存率十八%の氷の地獄へ
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本日の更新以降は、毎週火・木・土の更新ペースに移行します。
詳しくは、活動報告に記載しますので、ご確認ください。
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セラの赤いノイズが完全に消えた後も、
広場の空気はまだ凍りついたままだった。
「そして、なんだよ?」
「この感覚は……深紅の妹。……イプシロンと、……タナトス。先ほどの侵入信号と一致しています」
「なんだと、カイザーの野郎が生きていたのか……」
かつて戦った記憶がシオンの脳裏に甦る。カイザーの目的は、あの時の復讐だけではあるまい。お袋の再起動が狙いだろう。しかし、どうやって――。
「侵入痕は消えません。私の中に“鍵”が残っています」
セラが報告する。
「今回の遠征成功確率、三十二%」
シオンは気にしない。
「意外とあるな」
「ただし――マスターの生存率は十八%……。
それでも、いくのでしょう?」
セラの声が、微かに震えた。
「『……聴こえる。……雪の降らないこの街に、……凍てつく審判の足音が……。』……シオン、黄金の種を求めるなら、貴様は氷の地獄へ足を踏み入れることになる」
いつの間にか現れたグリードが、〈オメガ〉のハッチに寄りかかり、手帳に新たな詩を刻んでいた。その隣には、マヨネーズのボトルを静かに磨くネメシスの姿がある。
「地獄だろうがなんだろうが、関係ねえ。……テリヤキのバンズ(麦)が俺たちを待ってるんだ」
シオンはリナの頭をポンと叩くと、白銀の天使装甲、セラフィオンを見上げた。
「行くぞ、セラ。……『お袋』の遺産を、俺たちの調理場に変えてやる!」
「了解。マスターの脳内が『麦』でいっぱいの今、何を言っても無駄ですね。全システムチェック。……目標、シードボルト。私たちの『最高の一皿』のために、……氷の処刑人を焼き尽くしに行きましょう」
白銀と漆黒の二機の天使装甲が、凍てつく北方へと推進力を解き放つ。
それは、失われた「未来の種子」を奪還するための、聖戦の始まりだった。
凍結した地――旧極地セクターへの遠征を翌朝に控えた夜。
かつてのレグナス中央広場は、焚き火の明かりと、どこか落ち着かない、けれど希望に満ちた熱気に包まれていた。
シオンは、セラと共に整備を終えたばかりのセラフィオンの足元に座り、夜風に当たっていた。
隣には、セラが、膝を抱えて座っている。彼女は先ほどから、自らの指先をじっと見つめていた。
「どうした、セラ。まだ指が動かしにくいか?」
「……いいえ。関節の駆動トルクも、ナノマシンの再構成密度も正常です。ただ、少しだけ、演算処理にノイズが混じっています」
「ノイズ?」
「『期待』という名のバグです。マスター、私はAIです。成功確率の低い遠征に対しては、本来なら警報を鳴らすべき立場です。……それなのに、私の『身体』は、あなたが持ち帰ると言ったあの『麦』の感触を、勝手にシミュレートしてしまっています」
セラは不機嫌そうに顔を背けたが、その耳の端がわずかに赤いのをシオンは見逃さなかった。
「はは、いいバグじゃねえか。楽しみにしてろよ。本物の麦で焼いたバンズは、きっとお前の想像を超えてるからな」
そこへ、騒がしい足音が近づいてきた。
エラータウンからやってきたジャックやミア、そして大勢の住人たちだ。
「シオン! これ、持っていけよ!」
泣き虫料理人のジャックが、ボロボロの布に包まれた特製の保存食をシオンに差し出した。開けてみると、それはカチカチに乾燥した何かの塊だった。
「……これ、なんだ? 石か?」
「失礼なこと言うな!俺が三日三晩泣きながら乾燥させた、特製の『泣き味噌』だ! お湯に溶かせば、どんな凍てつく北方でも力が湧いてくる。……死ぬんじゃねえぞ、シオン。お前の焼くテリヤキのライバルは、この俺なんだからな!」
「ジャック……。ああ、ありがたく使わせてもらうよ」
アンニュイなミアも、だるそうにしながら一振りのナイフを差し出した。
「これ……父さんが昔、地上のガラクタから拾って研いだやつ。……肉を切るのに、使いなよ。あんまり変な魔物に噛みつかれないようにね」
スラムで「お袋」の目を盗んで生きてきたエラータウンの人々にとって、シオンは希望そのものだった。彼らは口々に、乱暴ながらも温かい激励の言葉を投げかけていく。
そんな中、一人の小さな少女がシオンの前にトコトコと歩み寄った。
リナの妹――ニナだ。彼女は背中に隠していた手をそっと前に出した。
「……シオンおにいちゃん。これ、あげる」
彼女の手のひらにあったのは、一輪の小さな、しかし鮮やかな黄色い花だった。
この日のために、エラータウンの地下深く、わずかに光が差し込む廃園で見つけて、大切に育てていたものだろう。
「……花か。こんな綺麗なもん、どこに……」
「図鑑で見たの。地上には、お花がいっぱいあるって。……だから、お守り。おにいちゃんが、寂しくないように」
シオンは思わず、言葉を詰まらせた。
三〇〇年もの間、偽空に閉ざされてきた人類。そんな世界で、この少女がどれほどの想いでこの「色」を守ってきたか。
シオンは膝をつき、ニナと同じ目線になると、その小さな花を優しく受け取った。
「ありがとう、ニナ。……約束するよ。北の果てには、この花よりもっとたくさん、もっと色んな種類の種が眠ってるんだ」
シオンは、ニナの小さな頭の上に手を載せた。
「それを全部持って帰ってくる。そうしたら、レグナス中を、お前の好きな花でい~っぱいにしてやるからな」
「ほんと……?」
「ああ。シオンおにいちゃんは、嘘はつかない。……テリヤキの味に誓ってな」
ニナはパッと顔を輝かせ、シオンの首に抱きついた。
シオンは思わず、妹のアリシアの面影をニナに重ねる。
その光景を、セラは黙って見つめていた。彼女の瞳の中では、ニナから贈られた花の波長データが、特別な領域に永久保存されていった。
シオンは花を握りしめ、ふと空を見上げた。
「……でも、思ったより早く、試練は来そうだな」
北の凍土で待つのは、氷の処刑人だけではないらしい――。
同時刻、北の隠蔽基地にて。
『姉機確認。演算パターン一致率九十二%。……ああ、間違いない』
黒い少女タナトスの唇が、ゆっくりと歪む。
モニターに映るのは――
ニナから花を受け取るシオンの姿。
『優先目標:セラフィオン回収』
一瞬の沈黙。
そして。
『副目標変更。――花を保持する個体を最優先で排除』
コンソールに赤い文字が灯る。
シオンの生体波形がロックされる。
『処理開始まで、残り二十四時間』
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
本日より、本作は新タイトル
『一億度のプラズマでテリヤキを焼け!
~最終兵器少女AIと味わう終末クッキングバトル~』
として再始動しました。
これに合わせて、活動報告にてヒロイン・セラ及びネメシス等
『秘匿設定資料(身長・スリーサイズ・型式番号等)』を公開しました。
セラの意外な正体や、「BVT」に隠された意味とは……?
ぜひ、下の【活動報告】からチェックしてみてください!




