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弱肉強食の荒野で、パティを奪え。

※第二章です。

世界は救えました。でも――腹が減りました。

「どういうことだ?食料生産プラントが停止しただって!?」


シオンがセラに問いかける。


「……マスター。……前方に、不法投棄された鉄屑……失礼、グリード・ゼノフィス氏の機体を補足。……。……ネメシスの信号も受信しています。『マヨネーズの備蓄が切れて、主人がポエムを叫びながら暴れている』との事です」


「はぁ?どういう意味だよ」


オメガのハッチが開き、ボロボロの軍服を着たグリードが飛び出してきた。


「シオン・グレイス! 聴け!

『乾いた風が、私の喉を切り裂く。……黄金のソースを求め、彷徨える魂は……今、マヨの荒野を……』」


「うるせえよポエム野郎! お前も腹減ってんだろ! 槍を置け、くわを持て!今日からここが、俺たちの戦場だ!それより、食料生産プラントが停止しただって?内部工作ってどういうこだ?」


ポエムを叫ぶグリードに変わって、新妻のネメシスが答える。


「主人の早とちりですよ。シオン。おマザーレグナスの食料生産プラントの一基が一部故障したのです。テロだというのは、まだデマの段階にすぎません。ですが、食料備蓄があと一ヶ月だというのは、紛れもない事実です。主人の動揺の原因は、マヨネーズのストック切れです」


「まぎらしいことを言うじゃねえよ!!お前も穴掘れ!穴を!」


シオンの叫びに、セラは溜息をつきながらも、その瞳に微かな期待を灯した。


「……。仕方ありません。……マスター。私の演算能力の八〇%を、土壌のPH値解析と、最適な種まきポイントの算出に割り振ります。……その代わり、収穫の暁には、パティ三枚重ねの「特盛」を要求します」

「ああ、約束だ。……行くぜ、セラフィオン! 地上最大のバーガーショップ、開店準備だ!」


本物の太陽の下、少年と天使の、泥臭くも香ばしい「開拓の日々」が幕を開けた。


「見てくださいマスター。あの黒い鉄屑が、私の計算した『最適播種はしゅルート』を無残に踏みにじっています。……あぁ、三〇〇年前の農家が見たら、あまりの非効率さに腰を抜かして即死するでしょうね」


セラの冷ややかな声が、通信回線を通じてシオンの鼓膜を叩く。

視線の先では、漆黒の天使装甲〈オメガ〉が、巨大なエーテル・ソードの出力設定を『耕作モード』という名の極低出力に変更し、不器用極まりない動作で大地を抉っていた。


「おいグリード! 穴が深すぎるって言ってんだろ! 地球の裏側まで掘る気か!」

「黙れシオン・グレイス!

『深きマヨネーズが、硬きだいちを貫く。……穿たれた傷跡こそが、……黄金の芽吹きを待つ聖域……』」

『……。要約します。……主人は、力加減が分かりません』


漆黒の機体の肩に乗ったネメシスが、黒髪を風になびかせながら無表情に切り捨てた。彼女の手には、シオンが渡した『自家製マヨネーズの試供品ボトル』が、まるで聖杯のように掲げられている。


「むぅ!ネメシス! 貴様まで私を愚弄するか! この私は、お前のために……この荒野をマヨネーズの海に変えんと……!」

『却下します。土壌の塩分濃度が限界を超えます。それより、三時の方向。……マスター、ポエムを詠んでいる場合ではありません。「不浄な客」がお出ましです』


ネメシスの警告と同時に、シオンの乗るセラフィオンのセンサーが赤く点滅した。

地平線の彼方、陽炎の向こう側から、歪な形をした巨影が立ち上がる。


それはかつて家畜だった牛が、三〇〇年の汚染と「お袋」の排出した廃棄データを取り込んで変異した怪物――通称『ジャンク・ビースト』だ。


「……ありゃあ、牛か? 背中に配管が生えてるぞ」

「解析完了。汚染変異種:グレート・サーロイン。……マスター、朗報です。あのアナログな肉塊には、良質なタンパク質と脂肪分が高密度で凝縮されています。つまり、歩く「最高級パティ(原材料)」です』


セラの声に、シオンの瞳に火が灯った。


「パティ……。よし、セラ! 土地改良の次は、仕入れの時間だ!」

「了解。……戦闘モード移行。……ただしマスター、肉を焼きすぎては意味がありません。……レアからミディアムレアの範囲で鎮圧してください」

「無理言うな! 行くぜ、セラフィオン!」


白銀の天使が、大地を蹴って加速する。

背後では、グリードが「私にも肉を分けろ!」と叫びながら、

ポエムを口ずさみつつオメガを突撃させていた。


「『血に濡れた大地に、……滴る脂の調べ……。……今宵の晩餐は、……鉄と肉の、二重奏……!』」


「マスター、今のポエムは四〇点です。せめて、ライム(韻)とスパイスを利かせなさい」


爆音と、金属の擦れる音。そして、かすかに漂い始めた「肉の焼ける匂い」。

荒野の真ん中で、人類史上最も騒がしい狩猟が始まった。


「目標、前方一五〇メートル。グレート・サーロイン、突進してきます」


セラの声が、以前のようなスピーカー越しではなく、

コクピット内に実体化した彼女の唇から直接響く。

 

ズゥゥゥン!と大地が鳴った。


現れたのは、もはや生物の形を留めていない巨獣だった。

背中からは煙突のような排気管が突き出し、全身を覆う筋肉は、「お袋」の廃棄した重油を飲んで変質したのか、鈍い黒光りを放っている。

 

「マスター、呆けている暇はありません。あの肉塊の突進速度は時速八〇キロ。まともに受ければ、セラフィオンの装甲が凹む前に、中のあなたの脳味噌がシェイクされてマヨネーズになります」

「縁起でもねえこと言うな!……セラフィオン、最大出力!『肉』を逃がすんじゃねえぞ!これが、俺たちの“狩り”だ。勝てなきゃ、畑も、街も、明日もない」

 

シオンが足に力を入れを踏み込むと、白銀の天使もまた大地を蹴った。

セラフィオンの両手から、超高熱のプラズマ・カッターが伸びる。

だが、それは敵を切り刻むためではない——料理するためだ。

 

「セラ、加熱ポイントを計算しろ!断面を焼いて旨味を閉じ込めるんだ!」

「了解……。失敗した場合、本日の開拓計画は中止。……エラータウンの配給残量は、さらに減少します。……左前脚、付け根の関節を狙ってください。一〇〇〇度で〇・五秒。……今です!」

 

シオンの踏み込みと同時に、セラフィオンが閃光となった。

すれ違いざま、鮮やかな一閃。

グレート・サーロインの巨体が傾き、同時に切断面がプラズマの熱で瞬時にキャラメル色に焼き固められる。野性味溢れる脂の香りが、戦場にブワッと広がった。

 

「『おお…見よ、この残酷なる芳香!…命が炎に焼かれ、…黄金の糧へと転生する!』」

 

背後から、ポエムを絶叫しながら〈オメガ〉が飛び出してきた。

グリードは騎士の槍を豪快に振り回し、モンスターの突進を受け止める。

 

「シオン!トドメは譲るが、一番良い部位はネメシスのために確保せよ!この私は、彼女 に最高のマヨネーズ・ディナーを捧げる義務があるのだ!」


「マスター、義務ではなく「欲望」と正確に記述してください。……スキャン完了。……シオン、後頭部の排気バルブが弱点です。そこを叩けば、内部加熱により完璧な『蒸し焼き』状態になります」


と、ネメシスは、いつも通り冷静だ。


「お前ら、本当食うことに関しては容赦ねえな!」

 

シオンはセラフィオンを跳躍させた。

空中で反転し、機体の全質量を右拳に集中させる。


「お袋のゼリーとはおさらばだ!……これが、地上のテリヤキ・パンチだぁぁぁ!」

 

ドォォォォォン!

 

完璧な一撃が巨獣の急所を貫いた。

断末魔の代わりに、プシューッ!と香ばしい蒸気が吹き上がり、巨大な「パティの素」が荒野に沈んだ。

だが、その目は逆襲の怒りに染まっていた。


さらに、遠くの地平線に、同じ影がいくつも立ち上がっていた。


そして、その匂いは「飢えた者」を引き寄せる。

——その頃、エラータウンの倉庫前では、空腹と不安に耐えかねた住民たちの視線が、重く閉ざされた扉へと注がれていた。

ここから第二章は、

「戦うために生きる」物語から、

「生きるために戦う」物語へと変わります。


守るものがある戦いは、きっと今までよりも厄介で、面倒で、そして少しだけ美味しいはずです。

次回も、テリヤキとポエムと修羅場をお楽しみください。

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