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閑話6:白い悪魔の洗礼 ―理性を溶かすマヨネーズ―

これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。

ついに、シオンとグリードのマヨネーズをめぐる共闘が始まります。

地下エラータウンの、とある廃棄物集積場。  

そこは今や、シオンとセラの「秘密のキッチン」と化していた。


「よし、セラ。卵黄と油の乳化プロセス、最終フェーズだ。

一秒間に八〇〇回転……いけるか?」

『……。私の演算能力を、高速攪拌ミキシングのトルク制御に流用するなど、設計者への冒涜も極まれりです。……ですが、不本意ながら、私の内部回路が「最適な粘度」を算出しました。加速します。感謝しなさい、バカマスター』


ナノマシンの振動子によって作られた超高速ミキサーが、唸りを上げる。  

ボウルの中では、地下の貴重な備蓄から掠め取った油と卵が、奇跡のような白い光沢を放ち始めていた。これこそが、理性を溶解させる究極の調味料――自家製マヨネーズだ。

だが、その芳醇な香りが最高潮に達した瞬間。

頭上のコンクリートが、轟音と共に爆ぜた。


「そこまでだ、シオン・グレイス!」


降り注ぐ瓦礫と埃の中から現れたのは、漆黒の軍服を翻したグリード・ゼノフィス。

その隣には、相変わらず冷めた瞳をしたネメシスが浮遊している。


「……またお前か! シスコン騎士! せっかくいいところだったんだぞ!」

「黙れ! 貴様が今、そのボウルの中で練り上げている『白い悪魔』……。それが、人類の理性を根底から汚染する精神兵器であることを、私は既に突き止めている!」


グリードは、腰のエーテル・ソードを抜く……かと思いきや、その手にはなぜか、一本の不自然に清潔な銀のスプーンが握られていた。


「ネメシス、解析しろ。……奴の作っているあの物質は、先日の『テリヤキ』以上の依存性を秘めているのではないか?」

『……。肯定します、マスター。スキャン完了。……お姉様セラが現在行っている乳化処理は、分子レベルで完璧です。一口でも摂取すれば、あなたの「妹の面影」を司る脳内領域に、修復不能な幸福パルスが流れ込むと予測されます。……つまり、最高に不味い(美味しい)状況です』


グリードはスプーンを構え、一歩前に踏み出した。


「シオン! 貴様のその『マヨネーズ』とやらの処方を、この私に開示せよ! それがどれほど非理性的な味であるか、私が直接……この舌で断罪してやる!」

「はぁ!? おかわりが欲しいならそう言えよ! ……いいぜ、そこまで言うなら教えてやる。マヨネーズの真髄はな、酸味のキレだ。地下苔から抽出したこの特製酢が、脂っこさを一瞬で昇華させるんだよ!」

「……酢だと? 脂質に酸味を合わせるなど、熱力学的に矛盾している! ネメシス、シミュレーションしろ!」

『……。実行。……マスター、シミュレーションの結果、その組み合わせは「全人類がひれ伏す味」と出ました。論理的ではありませんが、私の空腹回路(擬似)が共鳴しています』


気づけば、一触即発だったはずの二機の天使装甲(と、そのパイロットたち)は、ボウルを囲んで車座になっていた。


「……ふむ。確かに、このキレ……。そして後から追いかけてくる卵黄のコク。……理不尽だ。理不尽すぎるぞ、シオン・グレイス! なぜ、こんな……こんな不浄なものが、これほどまでに私の理性を……優しく包み込むのだ!」


グリードは、スプーンで掬ったマヨネーズを凝視しながら、声を震わせていた。


「だろ? それをな、この厚切りに焼いたジャガイモに乗せて、さらにさっきのテリヤキソースを少しかけて……」


シオンが差し出した「マヨ・テリ・ジャガ」を、グリードはもはや躊躇なく口に放り込んだ。  


「……っ!? ……。ネメシス。……。……今すぐ、塔の最優先事項を書き換えろ」

『……。了解しました。……「テリヤキにマヨネーズを合わせる行為」を、全惑星規模の聖典バイブルに登録しますか?』

「……そうだ。これは……もはや戦争などしている場合ではない。この黄金比率を維持するための、全人類的プラットフォームを構築せねばならん!」

「いいこと言うじゃねえか、騎士様! よし、次は『マヨネーズ肉じゃが』の試作に入るぞ。セラ、攪拌速度を三〇%上げろ!」

『……。ハァ。……理解不能です。……姉妹そろって、マスターの胃袋にハッキングされるなど。……不本意ですが、攪拌出力を上昇させます。……グリード、あなた、口の端にマヨネーズがついていますよ。非常に……滑稽で、……そして、羨ましいですね』


地下の暗闇で、二人の宿敵は、今や「マヨネーズの配合比率」という極めて非理性的な共通言語によって結ばれつつあった。  

塔の管理を揺るがすのは、高尚な理想ではなく、ただ一本の白いソース。  

惑星レグナスの夜は、テリヤキとマヨネーズの濃厚な香りに包まれて、更けていく。

ふふ、明日からは第二章につながるサイドストーリーが始まります。

そう、グリードとネメシスの「主従」の関係に、ちょっとした変化が……いや、小さくても無視できない変化が訪れます。


この先、空気は少しだけ変わります。ドキドキしてもいいんですよ。

……気になるなら、明日21:00に戻ってきてくださいね。


※ブックマーク推奨です。だって、続きを探す手間は少ない方がいいですから。

そして、お願いです。感想、マジでください。面白いかどうか、不安なんです。

私も、あなたの反応を楽しみにしていますから。セラより

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