閑話4:シスコン騎士、胃袋で敗北
**【重要なお知らせ】**
本日、1話~14話あたりシオンの設定に手を加えました。亡くなった妹の存在を設定。シオンの管理社会への反逆の理由をより明確化しました。順次、他エピソードにも手を加えていく予定です。(この小説の元ネタが分かるキャラ名ですが、1文字変えてるから分かる人いるかな?)
〈グリード視点〉
巨大人類監視制御塔、通称「お袋」。
その上層階に位置する〈オメガ〉専用ドック。
無機質な白に包まれたその空間は、惑星レグナスにおいて最も「理性」が純粋培養された聖域である。私はそこで、愛機である黒き天使装甲の機体チェックを行っていた。
「……マスター。心拍数が平常時より三%上昇しています。また『妹という名の非合理的概念』について演算を行っていますね? 救えません」
静寂を切り裂いたのは、私の脳内に直接響く、氷細工のように冷ややかな少女の声だった。ホログラムとして可視化したネメシスが、空中で不遜にも足を組み、私を見下ろしている。
「黙れ、ネメシス。私はただ、次なる戦闘に向けた精神のチューニングを行っているに過ぎん。……それより、私のマントに皺が寄っていないか確認しろ。騎士の身嗜みは、理性の象徴だ」
「皺はありません。ですが、あなたの精神構造には致命的な『歪み』があります。……先ほどから、データフォルダ『亡き妹との夕食記録』の三一四番目を、執拗にバックグラウンドで再生しているのはなぜですか?」
「……っ!」
私は反射的に、手元のコンソールを激しく叩いた。
指摘は図星だった。そこに記録されていたのは、三〇〇年前、管理社会が始まる前の、汚らしくも温かい家庭の風景。泥のついた野菜を笑いながら食べる、今は亡き最愛の妹の姿。
「……あれは、敵であるシオン・グレイスの心理を理解するための分析材料だ。あのような下俗な感情こそが、人類を滅ぼしかけた毒。それを理解せねば、奴を真に沈めることはできん」
「左様ですか。では、なぜその分析の最中に、私のリボンの結び方を『妹君が好んだ二重蝶結び』に変更するようプログラムを書き換えたのですか? 説明を求めます。論理的に、一〇文字以内で」
「………………。それは……不可抗力だ」
「一〇文字を超えました。
マスター、あなたは騎士を自称するにはあまりにも『重症』です」
ネメシスは溜息をつくようなエフェクトと共に、私の肩にふわりと降り立った。実体はないはずなのに、その冷たいプレッシャーが私の理性をじわじわと侵食していく。
数時間後。私は漆黒の天使装甲〈オメガ〉を駆り、地下エラータウンの入り口へと降臨していた。眼下に広がるのは、鉄錆と油の匂いが立ち込めるゴミ溜めのような街。そしてそこには、私の理性を根底から逆撫でする「エラー」がいた。
「おいグリード! また来たのかよ、このシスコン騎士様が!」
白銀の機体、セラフィオンから響くのは、聞くに堪えない下品な怒声。シオン・グレイスだ。
奴は戦闘中であるにもかかわらず、コクピットの中で何やら紙に包まれた不潔な物体を頬張っている。
「……シオン・グレイス。貴様、戦場を何だと思っている。その手に持っている『脂質の塊』は何だ」
「これか? これはエラータウン特製の『テリヤキ・ネズミバーガー』だ! セラの完璧な温度管理のおかげで、肉汁がナイアガラなんだよ! 食うか?」
「……断る。胃が拒絶している」
私は絶望した。
この男が、「お袋」が選んだ「感情の記録者」だというのか。
人類の未来を左右する重大な役目を負いながら、奴が考えているのは常に、
「次は何を食うか」という低俗な欲求のみ。
それに引き換え、私はどうだ。妹を救えなかった過去を、完璧な理性という名の鎧で封じ込め、この星の秩序のために、感情という名の内臓を削り続けているというのに。
「ネメシス、
全武装解放。あのような『バグ』は、このレグナスの空に必要ない。消去する」
『了解しました。……ですがマスター、シオンの行動ログを解析した結果、私の姉であるセラが「美味しい」という未知の信号を発信しています。……不快です。私も、あの茶色い物体に対する解析(試食)を行いたいと、回路が訴えています』
「貴様まで何を言っている! 落ち着け、ネメシス!」
「マスターこそ、シオンが楽しそうに笑うたびに、羨望という名のバグが脈打っていますよ。……さあ、その『シスコンの誇り』を剣に乗せて、不器用な反抗期を終わらせなさい」
私は、黒きエーテル・ソードを抜き放った。
視界が怒りと、そして言葉にできない「寂しさ」で赤く染まる。
私の正義は、世界の平和を守ることだ。だが、胸の奥で疼くこの痛みは何だ。
シオンが笑い、セラが呆れ、ネメシスが毒を吐く。
その歪な「生」の輝きが、私の守ってきた完璧な白亜の世界を、無惨に、そして美しく壊していくのを、私は止められずにいた。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
グリードの理性と、シオンの下品な食欲…対照的な二人のやり取り、楽しんでもらえましたか?
さて、今回からは少し肩の力を抜いて、ちょっと笑えるニヤニヤ回が続きます。
読み返すとさらにニヤリとできるので、ぜひブクマしてお待ちください。
いつも読んでくれるあなたのおかげで、物語も少しずつ動き出しています。




