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泥だらけの防衛戦―三千の掃除機とお片付けの時間―

これは、人類が「味覚」を手放した後の世界の物語です。

ゴゴゴゴゴゴゴ!!


地下の頭上から不穏な音が鳴り響いく。

シオンたちの喜びはそう長くは続かなかった。ターミナルの天井から、不気味な振動が伝わってくる。

パラパラと瓦礫が落ち、地下の静寂が、高周波の駆動音によって突然切り裂かれた。


『……。警告。……。マスター、地上からの直接介入を確認。……。グリードではありません。……。これは……「お袋」が直接操作する、広域殲滅ユニットです』


セラのホログラムが、真っ赤に染まった。

天井を突き破り、数千の「掃除機」のようなドローンが降下してくる。それらは、コロニーの人々を救うためではなく、この「不浄なエラー(集落)」を丸ごと消し去るために、強力な腐食性ガスを放出しようとしていた。


「……。お袋の野郎。……。……。せっかく美味いメシを食った後に、なんて空気の読めねえ真似を……」


シオンは腰を上げ、セラフィオンの待機する影へと歩き出した。

義手からは、今までで最も激しい、怒りに満ちた青い火花が散っていた。


「セラ。……。……。お片付けの時間だ。……。……この『レストラン・ロウアー』を、無断キャンセルさせるわけにはいかねえ」


『……。了解、マスター。……。……。今日のあなたの料理は、一〇〇点満点中、十二点でした。……。……。残りの八八点は、戦果で稼いでいただきますよ!』


白銀の天使が、再びその翼を広げた。

今度の戦いは、自分のためだけではない。

一口の「味」を知ってしまった、名もなき人々を守るための、泥だらけの防衛戦が幕を開ける。


地下ターミナルの静寂は、高周波の駆動音によって完全に圧殺された。  

天井に空いた数箇所の巨大な風穴。そこから、管理システム『お袋』が放った広域殲滅ユニット『イーター・クラス:スウォーマー』が、まるで黒い雪崩のように雪崩れ込んでくる。

その数、推定三千。

一機一機は小型だが、連動するニューラルネットワークによって、巨大な一つの意志――「排除」という名の冷徹な殺意を持って動いている。


『警告。マスター、全方位から敵接近。……現在のセラフィオンは、出力の九十二%をジャミング粒子「黄金の壁」の展開に回しています。装甲表面の電磁防壁(Iフィールド)は機能停止。武装の九割がロック状態です』


セラのホログラムが、ノイズ混じりに告げる。彼女の表情には、これまでにない焦燥の色が混じっていた。コクピットの全天周囲モニターには、赤く点滅する無数の敵影が映し出されている。


「わかってるよ!武器が使えねえなら、この『鉄の拳』で叩き潰すだけだ!」


シオンは義手を握りしめ、セラフィオンの巨躯を前に進めた。  

背後には、震えながら身を寄せ合うエラータウンの人々。リナは意識を失いかけているニナとタクを必死に抱きしめ、祈るような目でシオンの背中を見つめている。


「……リナ! 下がるなよ! 俺が……俺が、この壁を絶対に割らせねえ!」


シュバッ!!

先頭の一団が、超振動カッターを展開して突っ込んできた。

セラフィオンは機動性が大幅に低下している。重い。まるで泥の中を動いているようだ。だが、シオンはその「重さ」を逆に利用した。


ドォォォォン!!


回避を捨て、セラフィオンの巨大な肩で敵の一団を押し潰す。火花が散り、金属の砕ける嫌な音が響く。しかし、一機を潰す間に、三機のカッターがセラフィオンの白銀の装甲を切り裂いた。


「ぐっ……! 感覚が……直接来やがる!」

『マスター、ダメージを共有しないでください! ……。感情のフィードバックが強すぎます。……あなたの「痛い」という電気信号が、私のジャミング計算を乱している!』

「無理言うな!こっちは生身なんだよ!……おおおおおらぁぁぁ!」


シオンはセラフィオンの腕を強引に振り回し、群がるドローンを物理的に叩き落としていく。

それは、天使の戦いではなかった。

路地裏の喧嘩のような、あるいは飢えた獣が獲物を守るような、無様で、泥臭く、しかし凄まじい執念に満ちた「抵抗」だった。

しかし、物量は残酷だ。

セラフィオンの装甲には、無数の傷が刻まれ、内部回路がショートして青い火花が吹き出す。一方、天井からは未だに黒い群れが途切れることなく降り注いでいた。


「……ダメ、……シオン……」

「お兄ちゃん、がんばれ!負けちゃダメだ!」


タクが力強く、病み上がりの声をあげる。

タクにとっては、シオンは命を救ってくれた兄がわりとなっていた。

膝をつくリナ、ニナが弱々しく声を上げた。

彼女たちの目には、ボロボロになりながら自分たちを守り続ける白銀の機体が見えている。


その時、ニナの体内のナノ・シードが、かつてない反応を示した。

それは『拒絶』ではなく『共鳴』。

シオンが作ったバーガーを食べ、生きる意志を取り戻した彼女の細胞が、セラフィオンから散布される黄金の粒子と「同調」し始めたのだ。


『……!? マスター、待ってください! ……。ニナという個体から、未知の送信パルスを確認。……。彼女のナノ・シードが、私のジャミング信号を増幅しています!』

「なんだって……!? ニナが!?」


シオンの戦いは、新たな奇跡を生み出そうとしていた。

次回、続きます。

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