第8話 鏡餅のやつは毎年買います
それから、更に三年の時間が経過。
俺はついに十五歳になった。この世界では成人したと見なされる年齢だ。
この歳になると世間一般では学校に入ったり、結婚したり、冒険者になったり、冒険者になったり、冒険者になったりするわけだ。
この三年、特に何かあったかというとそうでもない。
訓練と称していつも通りボコボコにされて、ボコボコにされて、ボッコボコにされただけ。
近接戦闘用魔法?
うん、出来たよー。使う機会が無いけどね!
あとはリリーの抱き枕が徐々に増えて、今では毎日一緒に寝てたり、兄貴ソーマと嫁さんの間に娘が産まれたり…あれ。
何もなかったわけじゃなかったや。
覚えてないだけだ。てへへ。いつか話せる日がくればいいな。覚えていればね!
◇
迎えた今日は俺とリリーの成人祝いの日。
世間一般では、この日に親と今後の振る舞いについて話したり、祝いの品が渡されたりする。
俺はこの日の為に綿密なプランを立てていた。それはこうだ。
1. 「お前など要らん!」と言われて家を追い出される
2. 王都に行って、冒険者になる
3. 冒険者王になる
どうだ!完璧!何の抜かりもない!
俺は腕を組んでフフフ…と魔王スマイルを浮かべている。
リリーはそんな俺を見て、「またくだらない事を考えているなぁ」とジト目。
いつもと変わらない…そんな日々ももう終わりだ!
「お前とリリーちゃんには、王都魔法学院の入試を受けてもらう」
もう…終わりだ!!デデドン!
「「え…?」」
親父からの唐突な提案に、俺とリリーは目を見合わせて驚いた。
俺は冒険者になるつもりだし、リリーは…こう…何かするだろ!
「ま、待ってくれ親父…、俺は…」
「わかってる。でもこれは『王命』なんだ」
「はぁ!?」
話を聞くに、今年成人する魔法の才能がある者は全て受験を受けなければならないらしい。
なんだそりゃ!そんなに王が偉いってのか!こっちは魔王ぞ!?元だけど!
まぁ、親父や村のみんなには迷惑はかけられないし、受けるだけ受けるかー…
「…ちなみに落ちた場合は?」
「その場合はお咎め無しだ…ま、お前の場合、学科で落ちそうだがな」
「学科もあんの!?」
ヤダー。受験勉強嫌い。好きな勉強なら勝手にやるんだけどな。魔法学とかさ。
学科は五教科で、言語、数学、歴史、魔法学、魔物学。あとは魔法の実技試験があるらしい。
実技は参考点らしく、合計点数が同じ場合は学科の点数が高い方が優先されるんだとか…
むしろ学科メインやんけ!魔法学院なんだったら実技優先しろや!
魔法学と言語は前世チート、数学は元の世界チートでなんとかなるだろうけど、歴史と魔物学が怪しいなぁ…俺、ヒッキーで世間知らずだし。
ま、教科書も何もないし落ちるだろ!やったね!
「そしてこれが、成人祝いの教科書だ」(ドカッ)
「なんでやねん!」
大量の本をドカッと置く。結構分厚い。読みたくなーい。
本をパラパラとめくり、中を読む。
うーん、しっかり読める。チートは健在。読めちゃったかぁ…。
読めなかったら、文字読めませーん、落ちまーすって言えたのになぁ。
…あっ、そうだ!
「リリー”も”文字読めないだろ」
「え?」
同じようにページをめくっていたリリーを見る。
頼む!読めないでくれ!
『同年代の彼女が文字を読めない→俺も読めない→勉強できない→冒険者!』の構図だ!
「読める…みたい…」
「なんでやねん!」
チートか!?闇の魔王チートでもあるのか!?ずるい!!
俺は自分のチートの事を棚に上げて怒り狂う。許せん!
しょうがない…こうなったら。
「俺、文字読めません!!」
「コーマは文字読めるよ」
幼馴染からの唐突な裏切りぃ!ちくしょー!
…どうやらリリーは忘れていなかったらしい。森に捨てられていた魔導書を「これ、間違ってるから読まない方が良いぞ」って燃やした事を。
あ、これ、忘れてたエピソードの一つね。
とっくの昔に読めてたよ文字。今思い出した。
「お、親父も文字読めないだろ…?」
「そうだな」
「だ、だったら教師は誰がやるんだよ…!」
本が読めても教える人間が居なければ勉強は出来ない…!
最後まで…最後まであがいてやる!
「そんなこともあろうかと!!」
「マーガレットさん!?」
「お母さん?」
どこかに隠れていたのか、マーガレットさんが飛び出す。歳の割におちゃめ…じゃなくて。
「マーガレットさんが、教えるって事…?」
「えぇ、実は昔、教師をやっていてね…リリーのパパにはその時あったんだけど…」
「あ、そういうのいいんで」
どうでもいい惚気が始まりそうだったので華麗にキャンセル。
苦痛以外の何物でもない。
外堀全部埋められちまったなぁ…負けず嫌いな性格だし、手を抜くのも嫌なんだよなぁ…。
「一応やるよ。まぁ、結果は期待しないで」
「じゃあ、三日後に実力確認も兼ねて、テストします!」
「えー…」
なんでやねん!もうええわ!ありがとうございましたー。
◇
1日目は魔物学。2日目は歴史の本を読む。
魔物学は、図鑑を見るみたいで結構楽しかった。
そして今は歴史。別の意味で面白い。
「光属性に魔王は居ない、ねぇ…」
光属性は神に与えられた魔族を討ち滅ぼす力らしく、聖剣も光属性とか。
俺がバッキバッキ聖剣を折れたのは光属性の魔王だったから?ま、違うか。
どうでもいいか、あんな雑魚装備の事なんてさ。考えるだけ無駄ー。
光の魔族が居るんだからどっかでバレるだろーと思ったんだけど、それ関連の記述は全く出てこない。
隠ぺいされてるのか、それとも大人しくしてるのか。
単に田舎すぎて誰も存在に気づいていないのか…ってうるせぇ!どこが田舎じゃっ!
うちにだってなぁ…大きな山と芋と…あと芋があるんだぞ!芋しかねぇや。
あと綺麗な川とか。田舎ですね、はい。
それはさておき、闇は魔族を象徴する属性で、嫌われているらしい。
リリーはどうすんのかな、ダークフレイムとかで誤魔化すのかな。
「コーマ、順調?」
「まぁまぁかなー」
草原に寝転んで本を読んでいる俺の隣にリリーが座ってきた。
「「……」」
そのまま二人で沈黙。リリーは何か物思いにふけってる。
何か辛い事でもあったのかもしれない。
こういう時は年上(2ヵ月だけ)の俺が優しく聞き出さないとな!
「LINEやってる?」
「…へ?」
聞くものを間違えて全力で滑った俺を、まんまるお目々でガン見した。
来るぞ…来るぞ!ジト目が!来いやぁ!
「ねぇ…コーマ…」
はい!…あれ、来なーい。ヘニョンモードだ。
「闇魔法って…魔族の魔法なの…?」
「え?知らん。だったらどうなんだって感じだし」
「…知らないの?魔王だったんでしょ?」
「引きこもってたし。リリーみたいな獣人も初めて見たし、人族も勇者しか見たことない。つーか、俺も闇魔法使えるじゃん」
ちょっとだけな!うん(ピー!)漏れそうなくらい力入れないと出ないけどな!
「はい、証明終了。まさか、そんな簡単な事もわからなかったんですかねぇ、闇の魔王様?(ニチャア…)」
「……」
いくら頭と目が良くても使う才能が無いと駄目なんですよぉ!?
だから魔王の時は脳筋だったんじゃないですかぁ!?
ほらほらほらぁっ何か言い返してみろよぉっ!
「テスト大丈夫ですかー?俺より点数低かったら馬鹿にされちゃいますよ?闇の魔王は光の魔王の以下ーーーほわぁ!?」
足元の反力が唐突に消滅!これは!ボッシュート!!
落ち込むリリーを煽り倒していた俺は、影に吸い込まれた。
煽りポーズそのままで。今の芸術点高くなかった?ねぇ!
︙
「コーマ、いつまで居るのー?」
「んー、もうちょっと」
俺は影の中で光弾を電灯代わりに出して、歴史の教科書を読んでいた。
リリーは怖くて嫌だって言ってたけど、案外快適かもしれない。
ひんやりしてて、勉強で火照った頭が良い感じに冷える。
ジュースと布団を持ち込みたい。足がちょっと寒いね。
「……」
あと、俺の隣に誰かの腕が何本か転がってるけど見ないようにしよう。
誰の腕だろ?そこそこ鍛えられてる素敵な腕!惚れちゃうね!
「よし、終わりー。リリー、出してくれー」
「わかったー」
本をパタンとたたみ、影から出る準備をする。ここはもちろん変なポーズだ。
「『出ろー』…プッ」
「ウイーッ!コマネッチ!」(にゅっ)
顎をしゃくり上げながらコマネチポーズで影からニュルッと出てくる俺を見て、
リリーはツボった。
「あっはっは!」とお腹を抱えて笑って、ちょっと涙目。機嫌は直ったようだな。
「ほら、笑ってないで帰るぞ」
「う、うん…ちょっと待ってお腹痛い…あははっ!」
ツボのストライクゾーンのど真ん中に当たったのか、リリーの笑いはなかなか収まらない。
うーん。可愛い。影魔法でお持ち帰りしたい。使えんけど。
笑いが収まるのを待って帰路につく。
「…ん?」
もう少しで家に着くってところで、リリーが立ち止まった。
「どうした?」
こういう時は年上の俺が以下略。
「もし…、もしね…、世界中の人が私を嫌いになったら…、どうする?」
「うーん…」
なぞかけかな?さっきの問題の意趣返しか…ヒント!ヒントが欲しい!
「世界中の人に、俺は含まれるのか?」
「……」
ノーヒント。目をぱちくりするだけ。きびしー!!
うーん、そうだなぁ。
もし俺がリリーを嫌いになったとしよう。俺のおやつを勝手に食べられたとか、多分そんな理由だ。嫌いになって、喧嘩して、仲直りして。
結局、最後は一緒に。
「世界を滅ぼす、かなぁ。リリーと一緒にさ」
最強と名高い光の魔王と闇の魔王のタッグ。
四大魔王だって滅ぼせるだろう。きっとな。
「そっか…」
リリーは少し俯いて、歩き出す。
尻尾がゆらゆらと揺れて、夕焼けに光る毛並みが幻想的だ。
彼女は振り向いて、笑って、また前を向いて歩き出す。
「…えっ」
正解は!?
◇
3日目。今日は魔法の研究だ。勉強?飽きた。
今開発している魔法は『鑑定魔法』っぽい何かだ。攻撃力とかのステータスが見れるわけじゃないよ。でも詳細は秘密。
知覚を強化して目には見えない情報を取得する…んだけど、これが結構難しい。
「むむむ…」
「むむむ、じゃないよコーマ…勉強は?」
「むーん!飽きた!」
三日坊主ならぬ二日坊主!だけど魔法なら何百年でも出来るぜ!
「むむむ…」
「な、なに?」
勉強に集中しているリリーをガン見してたら、さすがにバレちった。
ちょっと顔が赤い。知恵熱かな?休憩挟んだ方が良いんじゃない?
「今、ちょっと魔法の開発中。『見る』魔法なんだよ」
「そ、そうなんだ…」
顔を背けて再び本に集中するリリー…いや、集中出来てない。
俺の眼力は見逃さない!尻尾がゆらゆらしてる。むむむっ!
うーん服が邪魔で見づらい。
「イマイチだな…。なぁ、リリー、ちょっとお願いがあるんだけど」
「えっ、何、コーマ」
「ちょっと服脱いでくれ」
バシーン!いってー!
頬に鋭い痛み。リリーにビンタされた。なんで?変な事言ったっけ?
「その、ム、ムードとかあるでしょ!?」
顔を真っ赤にして怒るリリー。ムード?魔法に研究に何の関係が?
「いや、服があると見えづらくってさ…ちょっと実験に付き合ってくれないかなって」
「服があると見えづらい…って、まさか、この前言ってた『透視』の魔法!?
スケベ!エッチ!コーマ!」
コーマ!は悪口じゃないだろ!
俺の名前が悪口になるんだったら、名前呼ばれる度にずっと悪口言われてる事になっちゃうだろ!
コーマ、頭おかしくない?って…これただの悪口っ!
「ちがっ、わ、なくも…ない?むしろ透視よりよく見えるっていうか…」
「もおおおおお…、『ダークグレイブ』!!!」(ゴォオン…)
「わー、新技」
闇の棺桶に閉じ込められる俺。永久封印。
そして、800年の時が——(ギギギギ…)
「あっ、そういう…」
ちょっとずつ小さくなっていく棺桶。
捕まえた対象を押しつぶす、拷問目的の魔法だな。
このままじゃ、潰れてマッシュコーマになっちゃう。
その前にリリーを説得しないと…!
「リリー、聞いてくれ。この魔法はエッチな目的で作ったわけじゃない」
「エッチな使い方は出来ないってこと?」
「いや、そういう使い方も出来る」
(ギギギギ…!)
棺桶が小さくなる速度が早まる…!
ひ、ひえー!!
「やっぱり、エッチな魔法じゃん!」
「ち、違う!これにはちゃんとした目的がある!俺たちはもうすぐ魔法学園に行くだろ?」
「女の子がいっぱい居るね。見放題だね」
「その手があったか」
(ギギギギ…!!)棺桶のボルテージがあがっていく…こうげきりょくがあがった!
「た、頼むお願いだ…服を脱げとか言わないから、リリーを見るのだけは許してくれ!」
「おっぱい見るつもりなんでしょ!」
「お前におっぱいなんてねぇだろ!!!」
(プチン)マッシュコーマの出来上がり~めしあがれ♪