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魔王、やめまぁす!  作者: ている
コーマとリリー
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第7話 天敵

熊、熊、鹿、猪、狼、よくわからん何か。

俺と兄貴がしばらく走ったところで、大量の動物がこちらに押し寄せてくる。

サイズは5m越えからネズミみたいな小さいのまで様々。

数は不明。カウントするのもめんどくさい。

森中の動物全部集めたんじゃないかなーってくらい居る。


「魔物も居るな…」


兄貴が呟く。魔物とやらがこの世界にいるらしい。

500年も魔王をやっていたのに全く知らなかった。


魔王という名の回復装置だからね、しょうがないね。


あれ、エルダーなんとかってもしかして魔獣?前に見たでっかい猪も?

海竜王…海王龍?あれ?クジラ?とか、フェニックスも?


「クジラ?竜?龍? 竜と龍って何か違うの?」

「何言ってんだお前?」


頭の上に大量のはてなマークを飛ばし始めた俺を兄貴はジト目。

けど、鞘を握る手を見ると、手汗をかいて震えていた。


緊張すべき場面なのに弟がアホになったらそりゃ焦るよな。

よーし、兄貴を安心させちゃうぞー!


とはいえ、やることは変わらない。


「全部ぶっ飛ばす、それだけだ。」

「どうするつもりだ?」


「こうする」


(ブゥン…ォォォオオォォォオオオオオオ!!!)


防御魔法を横にながーく引き延ばして展開。木をなぎ倒さないように、弾く対象を『動く物』に設定。弾く力を最大に設定。反動カットを最大に設定。


「ブルドーザーだ!!どけどけどけどけぇい!!!」


(ドガドガドガドガッ!!!)


「ぶもぉぉぉ!?」「ギャン!」「キュイイイイ!?」「ズゾゾゾッ!?」


障壁に当たった対象を全て吹き飛ばしていく。

すごく地味だが、攻防一体で強いんだこれが。


「くまー」


あ、棒立ちしてる熊漏らした。リリーが何とかしてくれるだろ。スルーしよ。


「ははっ、すげぇな魔法って。絶望的な状況が嘘みてぇだ。」


兄貴が動物やら魔物やらが吹き飛んでいく光景を見て、面白くなってきたのか笑っていた。


でしょう!?魔法すごいでしょう!?良いんですよ!もっと俺を褒めてくれても!


「でも地味だな…」

「ぬっ!」


それは確かにそう。防壁張って走ってるだけだし…。


だけど、魔法にガッカリされるのだけは許せない!

見せてやろう、我が力を!!


「かぁぁぁぁ……めぇぇぇぇ……はぁぁぁぁぁ……〇ぇぇぇぇ……」(キュイイン!)

「伏字入ったぞ」


あの有名アニメの波のポーズをして、手の中に魔力を溜める。

このポーズに、特に意味はない。


「波ぁぁぁぁぁぁ!!!」(ゴォウアァァァァァ!!!)


「う、うわぁぁぁぁぁ!?」


腕を突き出してかめ〇め波を撃つ。ただのビームだ。

俺のビームは木をなぎ倒し魔物を焼き殺し、猪を丸焼きにした。

めっちゃ美味しそう。晩飯まだなんだよね。


「どうだ兄貴、魔法すごいだろう!!」

「二度とやめろ!!」(ぺしーん!)


頭をペシーン。

リリーといい兄貴といい、俺の頭叩くのなんで?詰まってないし良い音するから?


「あったーまからっぽーのほーうがー♪つーめゆめこめーるー♪」(ドガガガッ!!)


納得いかない気分を歌で励ましながら、地味作業を再開。

そして、ゴール?まで来たんだけど。


「こ、こいつは…」

「あー」


なんちゃらトカゲがいた。

名前は知っていた気がするんだけど、忘れた。

さっきちょっと思い出したはずだけど、夢詰め込んだらどっか行っちゃった。


でも、最近よくちょっかいをかけてくる可愛いやつだ。リリーと同じくらいに。


せっかくだし、名前を付けてやろう!


「ま、待てコーマ、逃げるぞ、こいつは……、こいつは……エルダードラゴ――」


「森へ帰れ、『トカゲ次郎』!!!ロケットパーンチ!!!」(バシュン!)


腕を爆破し、ロケットパンチを発射。


当たってもダメージ無いって?クックック……今回のロケットパンチは一味違うのだよ!!


(コォォォォォ!!!)


腕を爆破した際に、光弾衛星を一つ仕込んである。

綺麗な夕焼けが何かアレした時のアレだ。


衛星は周りの魔素をどんどん吸収し、腕の後ろから放出。

勢いを増した腕はやがて光の速度を超えて…


「光に、なれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


(ドッゴォォォン!!!)


「ギャオオオオオオオオオオオ!!!?」


トカゲ次郎を空の彼方へ吹き飛ばした。キラーン!


まあ生きてるだろ、念のため回復魔法も使ってあげたし。


「森に帰れって……ここが森だってね、ププ……、ってあらら。」


頭がグワンと揺れて、ふらつく。


「コ、コーマ……腕が!」


そんな麦わらのゴム人間みたいなセリフを吐いて、兄貴が見ていたのは、俺の腕があった部分だった。

ドバドバと血が出ている。


「あー…」


回復するの忘れてた。いやあ、楽しくって。


「コーマ…コーマ!死ぬなぁぁぁぁぁ!!!」


兄貴…そんな泣くなよ…俺の服が汚れるだろ。

それよりワンピの新刊買ってきてくれー。


    ◇


「絶対許さん」

「ごめんて」


リリーみたいにわんわん泣いていた兄貴は、ケロッと復活した俺に激怒していた。

例によってビショビショになった俺の服に免じて許して欲しい。


「ほらー言ったじゃん、俺は死んでも死なないって…っ!?」


唐突に足に走った激痛。それも両足。治れー…らない!?


「…ぐ、ぐあああああ!!!」

「その手には乗らんぞ……ってコーマ!?」


足を押さえて痛がりゴロゴロと転がる俺を心配して、兄貴が駆け寄る。

やっぱり涙目。でも、今回は本当にヤバいので助けて欲しい。


「どうした、コーマ!?」

「肉……です」


「なに!?聞こえない!!」

「肉離れ、です」


「「……」」


兄貴は泣き顔から一変、呆れた顔に早変わり。

いやあ、上から見下されるのって、結構キますねえ…。えへ、えへへ…。


「治せないのか?」

「治せるんだけど、この手の痛みを治そうとすると激痛が走るから、自然に治そうかなって…はは、」


筋肉痛と同じ感じ。練度が足りないんだよね。光の魔王インドア様だったから。


「はぁ…コーマ、普段から運動しないからだぞ?」


兄貴は呆れ顔でため息まで追加。インドア様にハッピーセット追加です!

オマケはおんぶでお願いします!!


「…ったく、明日からは剣の相手をしてやるよ。」


ヤダ。


「親父にも言っとくから」


ヤダー!


「リリーちゃんにも、コーマが運動不足で死にかけたって言っとく」


ヤダァァァァァ!!!絶対やらされるやつじゃん、それぇぇぇぇ!!!


    ◇


二年後。コーマくん十二歳。元の世界だったら小学校六年生!

ボッコボッコの!ろっくねんせい!


「ぶえー…」


兄貴の訓練は全く容赦がなかった。つーか、ただのいじめだ。

引きこもりをボコボコにしたいだけに決まっている!


「ちょっとは手加減してくれー…」


ソーマは結構強い(※人族基準で)

どうやら昔は騎士を目指していたようで、本当なら村を出ていくはずだった。

そう、はずだった。


跡継ぎ候補の俺の頭がアレすぎて、残らざるを得なくなったようだ。


ごめん、兄貴。でも、まさかボコボコにするのってその恨み?

許さんぞ人間めぇ…八つ当たりで滅ぼしてくれよう!!


…あれ、でもちょっと待って?体格良くなった?もしかしてカッコよくない?

二年もボコボコにされた甲斐あったな!


ついでに近接戦闘用魔法でも開発してみようかな?

やってみかったのがあるんだよねー。


「コーマ、ちょっといい?」

「んー?」


声をした方を見ると、リリーがへばって横になっている俺を覗き込んでいた。


子供にとっての二年は大きい。

俺もだいぶ大きくなって男らしくなってきたし、リリーも一部以外は大きくなって女らしくなってきた。


長い髪をかきあげる仕草にちょっとドキッとする。

コーマくんのコーマくんも、大人になってから敏感になったから勘弁して欲しい。


「なんと、新魔法を開発しました!」


大の字でピョンとジャンプしてリリーは「やりました!」アピール。

短い袖から見える腋がエッチ。…って新魔法!?すげーじゃん!


「へー、それでどんな魔法?」


あれからリリーは自分でも魔法開発を始めた。

と言っても、俺が言ったことをヒントに自分で考えて作る感じだけど。


中でも傑作は『闇の隣人』

真っ黒な人形を作って、自律行動させる魔法だ。

制御が難しいらしく、まだ一体しか出せないが、家事手伝いのような難しいこともこなせるし、兄貴の訓練相手ができるくらい強い。


初めは怖がっていた村のみんなも、今では「クロちゃん」とか勝手に名前を付けて可愛がっている。


ちなみに俺はできない。自動で動かす事は出来るがあくまで設定値に基づいたプログラムによる演算結果であってAIみたいな勝手に判断するプログラムはちょっと苦手っていうか…ち、ちげーし!組めないわけじゃないんだからねっ!


お、お人形遊びとか、男はしないじゃん!?(偏見)


クロちゃんの件はさておき、リリーの新魔法はなんだろなー。


「それは秘密。使ってみてのお楽しみ」

「ほうほう、そりゃ楽しみだ。で、受ければいいのか?」


俺はリリーの魔法指導教官とともに、サンドバック係も兼ねていた。


安全(?)に受けられるのが俺だけだし。死んでも復活するからね。

よい子は真似しちゃ駄目だからね。


「それじゃ、いきまーす!」


(ボコ…ボコ…!シュルルル!)


「お、おおお……?」


リリーの足元から黒い闇が沸き出し、細い触手のような物が数本、ゆっくりと出てくる。


(シュルル…シュン!)


そしてノロノロと俺の身体を少しずつ上って首に巻きつき……消えた。


「えっ、何。失敗?」

「んふふ…」


リリーを見ると、満面の笑み。どうやら成功したらしい。

首元に怪我はないし、体調に変化はない。


うーん、わからん。


「どんな魔法?」


自分で解析したかったけど効果がない以上、全くわからん。


「コーマが私以外の女の子にうつつを抜かしたら、身体が爆発する呪い」

「なにそれ怖い!主にリリーが!」


ヤンデレかな?


ま、解呪すればいいだけだけど。浄化ー


「…って、この呪い…強い!全然解呪できない!」


込められた魔力、想い…怨念?が桁違いに多い!

くっそー!闇の魔王め、こんな秘策を持っていたのか!?


まあいっか、死ぬわけじゃないし。そもそもモテないからね。一生発動しないかも。


「発動基準は?『うつつを抜かす』の設定が曖昧すぎてよくわからん…。

それに爆発って…俺はともかく、相手に迷惑かけるのは良くないんじゃないか?」


「うーん…基準はわからないかな。ありったけを込めたから。

もしかしたら触れられただけで爆発するかもしれないし、エッチな事をしようとしたら爆発するかも。

まあ大丈夫じゃない?爆発するのはコーマだけだし、相手は怪我なんてしないよ。

トラウマになるくらいじゃないかな」


「ならセーフか…」


魔王基準ならセーフ。チーム人間(人族、獣人族、その他ぁ!)の基準は知らん。


「気になるー」


呪いの効果を試したい。

けど、他の女の子に抱きついたりすると、もし効果がなくても殺されてしまう。

リリーに。


良い相手居ないかなーと視線を動かすと、ある人物が目に入った。

あの人なら大丈夫だろ!!


「マーガレットさん、好きだぁぁぁぁ!!!」

「えっ?」


洗濯物を干していたリリーの母ことマーガレットさんに向かってダッシュし、全力で抱き着く。

チラッとリリーを見る。ジト目である。怒ってはいない、セーフ!


「あらあら、リリーに飽きちゃった?」

「…なっ!?」


何てことを言うんだこの人は!!

リリーを見る。あっ、ほっぺたがまんまるだ。

怒ってはいるけどただの嫉妬だろう、セーフ!セーフ!


「コーマ君のお家は、お母さんがいなかったから、寂しかったのよね…」



マーガレットさんは俺を優しく頭を撫でてくれた。ママー!

嬉しい。あと良い匂いがする。このまま寝そう。


「…(もみもみ)」


リリーを見る。自分の胸を揉んでいた。ママみを出そうとしているんだろう。

揉んでも大きくならないよ。そもそもマーガレットさんにだって無いじゃん。

ママみ=おっぱい、ではないよ?


「コーマ君?」


そんな失礼なことを考えていると、黒いオーラを感じた。

リリーからじゃない、俺が抱き着いている方からだ。


「ママぁ…(うるうる)」


上目づかいで精一杯ママに許しを請う。


「その言葉はコーマ君とリリーが結婚してから聞きますが…コーマさん、私の胸に何かご不満が?」


マーガレットさんの『胸』に対するセンサーは異常。


言葉に出さずとも、考えているだけで察知するレベル。


「うふふふふ…」


怖い怖い怖い怖い、笑顔だけど目が笑ってない!


「申し訳ありませんでした!!」(ゴオッ!)


即座に土下座。最近使えるようになった身体強化魔法を使用したから周囲に風が巻き起こった。パワーDOGEZA!しゃきーん!


「問答無用!」「あんぎゃー!?」


頭を掴まれ、アイアンクロー。魔王であってもママには勝てない。


「…(もみもみ)」


未だに胸を揉み続けるリリーを傍目に、呪いの発動条件、さっぱりわかんなかったな。まぁいいか、そのうちわかるだろ。と忘れる事にしたのだった。


それ以来、呪いは全く発動しなかった。なぜなら俺はさっぱりモテない。

周りの女性なんて、リリーかマーガレットさんしか居なかったのだから、わかるはずもなかったのだ。


そして俺は呪いの存在を忘れ、かけたリリー本人も忘れ、この謎は迷宮入り…にはならないのだが、それはまた別のお話。


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