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魔王、やめまぁす!  作者: ている
コーマとリリー
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第6話 増殖バグ?

第四回、第五回と大会を開催して、リリーの攻撃魔法のバリエーションは格段に増えた。

正直、リリーの才能は凄まじい。ほとんどの魔法を見るだけでコピーできる。

うらやましい!!


…ただ、問題が二つあった。


まず一つ目。四大属性も使えるかな?と試したら、使えたんだけど…なぜか全て闇属性になってしまう。

ダークフレイム、ダークウォーター、ダークウインド、ダークストーン……という具合で。

効果は一緒だから気にする必要はないんだけど、「見た目がおぞましい…」と、リリーは落ち込んでいた。

黒いだけじゃん、中二病っぽくて良くね?知らんけど


そして二つ目が……。


「ねぇコーマ、これ、治ってる?」

「んー?全然」


リリーの弱点。それは『回復魔法』だ。


闇魔法には、実は回復魔法がある。

ダークヒールというやつなのだが、見た目が怖いだけで効果は光魔法と同じものだ。

光が『ふぁー!』って感じなら闇は『ズゾゾゾ…』って感じ。うどん啜ってる?


「ロケットパーンチ!(だばだばー」


今回も見ただけで覚えるだろうと思い、ロケットパンチ(永久封印解放)をして、治してもらおうと思ったんだけど…


「お願い…お願い!ダークヒール!(ぷすん)駄目…どうして!嫌…コーマ!」

「はっΣ…今何時でぃ!」


「コーマ!わあぁぁぁぁん!!!」


気がついたら俺は気絶して、自動回復魔法によって復活していた。

腹には、時そばをスルーして、わんわん泣くリリー。

涙と鼻水で俺の服が冷たく濡れてる。ちべたい


「んじゃ、もっかい行くぞー。ロケットパーンーーー」

「駄目!」

「つ」


俺は再びロケットパンチをしようとしたが、必死の形相のリリーに止められた。


また泣かせるのもアレなので、わざと転んで膝をすりむくだけにした。

それも止められそうになったんだけど「じゃあ変顔しながら頭を飛ばすね」と言ったら、渋々了承してくれた。


結構面白いのに、俺の変顔ロケット。


「…ねぇ、コーマ。アレで練習したら、コーマも怪我しなくて済むんじゃないかな?」

「んー?」


妙案を思いついた!とばかりに、リリーが指さした先には、俺のロケットパンチが落ちていた。


回復した後に消えないのかって?甘いなーそんなファンタジーじゃあるまいし、これだから素人は(以下カット)


老害トークはカットされたので授業に戻りまーす。


「うーん…絶対ダメ」


確かに、既に傷ついた物体だし、俺も怪我をすることがない。

だけどな、リリー。


「増えるぞ」

「増える……って、何が?腕?」

「俺が」

「コーマが!?」


俺がまだ魔王だった時のことだ。


いつものように回復装置として仕事をしようとしたのだが、面倒すぎて戦場に向けて、対象指定をせずに回復した。

当然、戦場には千切れた腕やら足やらが落ちているわけだが、その一部がなぜか本人として復活してしまったのだ。


この事に気づいたのは、お忍びで城下町を散策していた時。

やけに双子が多いなー、いや多すぎだろ、どういう事だよと調査したら判明した。

本人たちは「兄弟が増えたみたいで嬉しい!」と喜んでいたみたいだが。

今では光の魔族には十つ子やら二十つ子がいるとか、いないとか…。


『コーマ様!人口がアホみたいに増えてます!闇も含めて!』

『知らんもーん。100人単位の戦争なんてショボくてつまらんとか思ってないもーん』

『アホはアンタだぁ!(ぺしーん』


側近にしばかれた俺の頭は空っぽで、非常に良い音がしたなぁ…。


って、そんなことはどうでもいい。ともかく、俺は嫌だ。唯一無二の光の魔王様なのだから。


「…わんっ!」


リリー!何拾ってきちゃってるの!?きちゃないよ!めっ!


「こら、リリー!そんなのポイッしなさい、ポイッ!」

「えー、でも…」


俺の腕を拾ってきたリリーに、腕を捨てさせる。


(ポイッ…ズズズ…)


黒い影に吸い込まれるように消滅する俺の腕。

…黒い影?


「リリー、それって…」

「あ、うん。コーマが言ってた『アイテムボックス』ってやつ?

くうかんまほう、はわからなかったんだけど影の中なら入るかなって」

「いいなー影使えるの、便利ー。」


便宜上、影魔法と呼んでいるこの魔法。


リリーから「闇オリジナルの魔法を作りたい」と相談を受けた時に、「影の中に入るとか?」と提案したことが始まりだ。


「試してみるね!」と嬉々として魔法を使ったリリーは、某テレビ番組のスーパ〇ひとし君如くボッシュートされていった。


「うわぁぁぁぁん!!もうやだぁぁぁぁぁ!!!」


号泣しながら影の中から戻ってきたリリーは、「もう二度と影には入らない」とのことだった。暗くて寒くて怖いらしい。


もったいないなーカッコイイのになーと思ったんだけど。隠密っぽくてカッコイイし。ニンジャ!ハラキリ!


今では物を入れるのに使っているようだ。アイテムボックスもロマンがあるよな!


「…って、俺の腕をアイテムボックスから出しなさい!」

「やだ。コーマが寝てる時はコーマ二号に相手してもらうから。

回復魔法頑張る目標もできたしー。」


24時間働かせる気ですか!?やだー!!

コーマ二号もそう思ってるよ、そうだろ二号!


「性格が同じだから、夜は二号も寝てるんじゃね?」


俺のぐうたらを舐めるな。二号も三号も全部夜は寝てるわ。

光属性だからね。知らんけど


「ねぇコーマ…、髪の毛ちょうだい?(うるうる」


「やだよ怖いよ、呪う気か。」


そんな上目遣いでお小遣いねだるみたいに求められても困る。

可愛い!って気持ちも即へにょん。ねだる物が『髪の毛』って怖すぎ。


「違うよぉ、コーマを増やすんだよ!」

「どっちみち怖いだろ…、あと、髪の毛じゃ増えないぞ?」

「そうなの?じゃあ要らない。」


リリーは俺の髪に興味を失ったようで、次は何を貰おうかなーと俺をジロジロ見ながら選定を始めた。


酷いなあ、髪で困ってる人もいるんだぞ!

それに髪は回復魔法で復活出来ないし、大事にしなきゃいけないんだぞ!


『髪では人は蘇生出来ない』


まあこれは本当のことで、髪やら爪やら、小さなものだと増えない。

理由は謎だが、血が通っている部分じゃないと無理なのかなあと推測している。

骨の欠片や燃えた後の灰だけでも無理。

バ火力で一瞬で灰にされたら俺もお陀仏しちゃうかも。


でも、骨や灰をある程度集めたら復活できるんだよね。謎だよね。

なんで知ってるかって?謎だよね。



「ねぇ、コーマ。」



リリーは再びおねだりモード。次はなんだ、何が欲しいんだ?


ちん(ピーッ)は駄目よ?800年以上DTを守ってる魔法使いの大事な器官なんだから!


「腕、ちょうだい?10本くらい。」

「えー…」


怖いよ!ロケットパンチでわんわん泣いてた可愛いリリーはどこ行ったんだよ!

妖怪ウデクレーは俺に手をワキワキさせながら接近…くる!


「くれたらコーマになんでもしてあげるから!」


何ぃぃぃぃ!?ん?今何でも…って駄目駄目!

流されてそのまま結婚する未来が見えたぜ!ふいー危ない!俺は冒険者王になるんだからな!


「…ヤダ!」


揺れる心を押さえつけてお山にポーイ。

見よ!この色仕掛けには揺るがない大岳のような心を!


「コーマのケチ!」


ケチじゃない!!大岳なの!


    ◇


俺達は人族。最弱の種族。

獣人族のリリーだって、少し力が強いくらいで魔族と比べたら五十歩百歩。


大きな力には簡単にすりつぶされてしまう。

前触れもなく、ただ当たり前のように、淡々と。


そんな当たり前の事すら、元々800年も魔族だった俺は気づいていなかったんだ。


    ︙


村に戻ると、何やら騒がしい。いつものんびりした村の空気が凍りついて、緊迫感が漂っている。

戦争でも始まるのか?というくらいの緊張感だ。みんな、武器を持っているし。


「コーマ、どこに行っていた!」

「親父?」


フル装備で歩いていた親父が、俺を見つけて声をかけてきた。

怒ってる?おしりぺんぺん?


…いや、心配してくれてるのか。


「リリーとデート。森には行ってないよ、危ないからね。な、リリー?」

「え?う、うん…」


全部嘘だけど。


てかリリー、頬を染めてジト目ってどんな器用な表情をしているんだ?

全部嘘だよ?全部うーそさっ♪


「それより、何かあったのか?」

「それがな……。」


親父が言うには、どうやら森の様子がおかしいらしい。


鳥や小動物が全くおらず、静かすぎる。

こういう時は、「良くない事」が起きるという言い伝えがあるらしいんだけど、村の人間が厳戒態勢を敷くくらいには、信憑性の高いことらしい。


良くない事…か。


「おいコーマ、なんでまだ逃げてないんだ?」

「……ん?」


何が起きるんだろうな、と考えていたら、兄貴ソーマにも見つかった。

兄貴は心配しているというより、怒っているみたいだ。

なんだろ?


「畑仕事すらまともにできないお前なんて、足手まといだ。さっさと隣村まで逃げろ。」

「……」


コーマくんショック!魔法を使えることを隠しているからって、そこまで言わなくても!

元魔王なんですよ!こっちには魔王プライドってものがあるんですよ!

なんとか言ってやってくださいよリリーさん!


「リリーさん?」


リリーは何かを探るように耳を動かし、音に集中していた。


「…ねぇ」


そして、しばらく何か考え込んだ後、俺の腕をグイッと引いて、耳打ちしてきた。


「え…」


その内容に驚愕。スタンピードが来ているらしい。俺らが森にいた時はあんなに静かだったのに。


全然気づかなかった。勘が鈍ったかな俺。

探知魔法の一つでも使っておけば良かったか。


けど、今はそんなことを考えている余裕はない。

もうすぐそこまで来ているらしいんだ。


俺は覚悟を決める。



「俺がやってやりますよぉ!!!」(ドンッ!)



小物臭のするセリフを叫び、全力の魔力波を放つ。

大気が揺れ、地面が揺らぎ、パンツがちょっとズレる。やーん!


「コ、コーマ!?」

「コーマ!?お前…」


父トーマと兄ソーマが、俺の放つ威圧感に腰を抜かして目を見開く。

さすがに魔法を知らなくても、ここまでやればわかるだろう。


「親父、兄貴、隠しててごめん。俺、魔法が使えるんだ」

「いや、隠してはいなかったが…」


「……」


そうだね、ごめんね。


俺がアタオ・カすぎて誰も信じてくれなかっただけだよね。

ごめんね、世界。アイムソーリーフォーエバー。


…よし、世界に謝ったし許してくれただろ!そろそろ行くか!


「リリー、俺はいっちょ行って原因を潰してくる。漏れて村まで来たヤツの処理を頼む」


「わかった。『闇の世界』」(ズズズ…)


リリーは『闇』を周囲に展開し始める。


曰く、闇の結界。敵の侵入を察知し、瞬時に殺害する、リリーの得意技だ。

他にも外からの攻撃を防ぐことも出来る、まさに攻防一体。魔力の消費が激しいのが唯一の欠点かな。この規模だと…もって一時間ってとこか?


「リリーちゃんまで魔法を…まさか、よく居なくなってたのって」

「そ、魔法の練習。俺一人で余裕だから、兄貴は隣の村に逃げてていいよ」


さっきのお返しとばかりに、兄貴にニヤリと笑みを向ける。

それがシャクに障ったのか、フンと鼻を鳴らして兄貴は俺の頭をガシガシとこすって


「なーに馬鹿言ってやがる。ヘタレが逃げないように俺も監視で行ってやるよ。

負けそうになったら助けてやるから感謝しろ!な、いいだろ親父?」


と言って、腰に掛けた剣の鞘を強く握った。


「ソ、ソーマ…」


親父は、兄貴も行く、と言い出したことに顔を青くしていた。


そりゃそうだ。母さんは俺が産まれて間もなく他界し、子供は俺と兄貴の二人きり。

二人の息子がこの機会に、両方死ぬかもしれないんだから。


よし、そんな親父に良い物を見せてあげようかな。


「大丈夫大丈夫、俺、死んでも死なないから。見てて、ロケットパー…」


「コーマ、行くなら早く行って。さすがに全部来たら私も防げないよ?」


「へーい…。おいっちにーおいっちにー!」


リリーさんにロケットキャンセルされたので、親父を必死で説得している兄貴を後目に、俺は準備運動を始める。


「さーんさーん、お前にサンが救えるか?」


今日は二回も森に行かないといけないから、明日は筋肉痛確定だろう。

少しでも軽くする為に必要なのだ。


「兄貴ー、もう行くよー?」

「死地に行くってのに軽いな…まあいいさ。もし無理だったら言えよ、おぶって逃げてやるから」


黙れ小僧!ぜひお願いします!


「終わったらへばってるだろうからおぶって欲しいかな。」

「はは、わかったよ。行くぞ!」


「あいよー」


俺と兄貴は森へ全力で駆け出す。


死ぬために行くんじゃない。誰一人、死なせない為に行くんだ。

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