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魔王、やめまぁす!  作者: ている
コーマとリリー
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第5話 ぺったん

「んじゃ、そろそろ帰るかー」

「うん」


リリーは今日だけで10刻みの制御ができるようになった。

初日だし「50が出来れば上出来だなー」くらいに考えてたんだけど、リリーには魔法制御の才能があるみたいだ。


次は5刻みか1刻みもできるようになるだろ。

そこまでいったら、少しは魔法を覚えてもらってもいいな。


まずは防御魔法、次にダークボールみたいに簡単な攻撃魔法。

その次は身体強化か…いや、闇の魔王が何か凄いの使ってなかったっけ。


うーん…忘れた。おっぱい大きかった事しか覚えてない。

じゃあなんで闇の魔王の強さを知ってるんだ、って?


激つよの側近くんがいつもボッコボコにされてたから。

俺は遠くからビーム撃ってるだけだったね、だって痛いのヤだもん。


ま、一応、何度か話した事はあるんだけどさ。


初戦の時、急に背後に現れた闇の魔王の「ばるんっ!」が印象的すぎてさ、何を話したか全く覚えてないんだよね。

言葉が全部ばるんっ!に聞こえてさ。仕方ないよコーマくんDTだからさ!


『光の魔王コーマ!今日こそは(ばるんっ!ばるんっ!ばるんっ!)』

『フッハッハ、闇の魔王バルン(仮称)よ…もっかい言って?』


みたいな感じ。



「ん?」


ばるんっ!の事を考えていたら、左腕が妙に重いことに気づいた。

リリー(のーばるんっ!)が左腕に抱きついていた、まるで恋人みたいに。


「リリー…、近くない?」

「え、そう?」


ばるんっ!は無いけど良い匂いがするなー


「……」


って近い近い!顔が近い!!

DTに一体何を期待しているの!?


朝の添い寝もそうだったけど、なんか距離感近くないかい君ィ!?


そんなに…そんなに抱きついたら!胸が!当たって!…ない。スンッ

だってリリーは、『のーばるんっ』なんだから。


「なんか失礼なこと考えてない?」

「のーばるんっ!」


(ぺしーん!)


リリーに頭を叩かれてしまった。鋭いツッコミ。俺の脳みそ入ってないから、良い音がするね。


「大人になったら大きくなるもん…」


のーばるんっ!を煽られたリリーは頬っぺたを膨らませて、俺を非難するように睨んだ。


「そうだね…」


しかし、非難すべき相手は俺ではないはずだ。

世の中には遺伝というが存在する。


たしかにリリーはまだ10歳。成長の余地はあるだろう。


「プロテインだね…」


俺は彼女の母、マーガレットさんの事を思い出す。


マーガレットさんは、村で『絶壁』の異名を持つナイチチ勢筆頭。

そして祖母も曾祖母も絶壁だったそうだ。


リリーが巨乳になる確率は極めて低い。


闇の魔王は、ばるんっ!だったけど…そもそもアレが本当におっぱいだったのかはDTの俺にはわからない。

コーマくんのコーマくんは反応してたけど、アップデートをしなかった事による不具合かもしれない。初期設定すらされてないからね、仕方ないね。


そも、女性だったかすら不明だ。いつもローブを深く被ってて、顔も見えないしさ。


ばるんっ!があったから勝手に女だって思ってたけど、もしかしたら胸に肉まんとかを入れていたのかもしれないし。おやつ用にね。


まぁ、本当にばるんっ!が胸だったとしたら巨乳…いや、爆乳だ。

残念ながら転生の代償に失ってしまったのかもしれないけどね。


「コーマはやっぱり、胸が大きい人の方が好み…?」

「うーん…」


リリーは考え込んでしまった俺を心配そうに上目遣いで見てきた。可愛い!


胸の好みかー。…考えたこともなかったな。だってDTだし


デカチチは包容力という点で捨てがたいし、ナイチチは無いことを気にしているような素振りが刺さる。

普通チチも似合っているかが重要で、その人のちょうどいいサイズというのがある。

ばるんっ!も良いけど、つるぺったんも良いよね!


結論、こういうことだ!


「山も平原もどちらも自然。美しい事には変わらない(きらーん」

「もう、真面目に答えてよ!」


(ぺしーん!)


まーた頭を叩かれてしまった。


結構、真面目に答えたんだけどなぁ…。


    ◇


「というわけで!第三回、リリーに魔法を教えよう大会~!」


「もう…って、え?もう魔法を使ってもいいの?」


前回、前々回に続き、おちゃらけて始めようとする俺に、怒ろうとしたリリー。

けれど、今回は魔法を教わる事が出来る事に気づいて、目を見開いて驚いていた。


第二回?ンなもんスキップスキップ~。修行パートはサクサク進めないとね!


昨日で1刻みどころか0.5刻みをクリアしたリリーにこれ以上、魔法制御を教える意味はない。

あとはひたすら毎日自主練をしてもらおう。


「というわけで、まずは防御魔法を覚えてもらう」

「攻撃魔法じゃなくて?」


ま、普通はそう思うよね。

話に聞く魔法使いの噂じゃ、攻撃主体で誰も防御魔法なんて使わないみたいだしさ。


でもさ、それは魔力が弱くて大事にならない奴らの話だ。


「あぁ、そうだ。魔法を扱うには大なり小なり危険が伴う。しかし防御魔法なら失敗しても割れるだけで危なくない。攻撃魔法を失敗して、暴発した時の防御もできる。まさに一石二鳥なんだよ」


リリーは違う。暴発したら家が吹っ飛ぶくらいの出力をもう持ってるからね。


「なるほど…」


まぁ、扱うのはそれなりに難しいんだけどね。


ただそれは、いきなり大きな防壁を張ろうとするからであって、小さなものなら今のリリーでも問題がない。


けど、実はこの特訓方法、一つ問題がある。それは…


「ふ、ぬぅおおおおお…!!」


(ギ、ギギギ…)


「コ、コーマ!?」


俺が闇魔法を苦手としていることだ。


ダークボールみたいな簡単な魔法であれば、なんとか再現できる。

しかしダークシールドは中級魔法、正直キッツイ。


お手本を見せるだけでも、メンタルがゴリゴリ削れるのだ。


光魔法なら言わずもがな、四大属性の火、水、風、土なら上級魔法まで使えるし、なんなら合成魔法の氷や雷も使える。


けど、闇だけは本当に苦手。


「はぁ…はぁ…こ、こんな感じだ…!」


手のひら大の防壁をどうにかひねり出す。


維持するだけでもしんどい。

褒めてほしい。コーマくんえらい!


「うーん…」


今にも分解しそうなそれを、リリーはじっくりと観察し…


「コーマの防御魔法ってこんな感じじゃなかった気がする」

「あ…あぁっ!!」


(パリーン)


努力も空しく、俺の闇防壁は砕け散ってしまった。


うーん、と考え込むリリー。恨めしそうにリリーを見る俺。

そして数瞬の後、俺に向き返って、


「光魔法の方を見せてよ」


と言った。これにはコーマくん、呆れを通り越してマウント全開。


はい来ましたー無知乙!やっぱ闇の魔王は脳筋だな!だから代償行為を失敗して、ばるんっ!を失ったんだ!ぷすすー


「光魔法と闇魔法は構成も何もかも違うんだよ。それに俺は詠唱してないけど、本来は詠唱が必要な高度な魔法で…」


「いいから早く!」


えー…コーマくんのうんちく、聞きたくない?

800年間魔法ばっかり研究し続けた大御所のお言葉だよ?もしかして俺、老害?

ショック!


「へいへい…、『守れ』」


(ブォン)


「ふむふむ…」


リリーは再び俺の防壁をじーっと観察し始める。


わかりますかこの違い?(メガネクイッ)

わかりませんよねそこまで教えていませんもんね?(メガネクイッ)


「わかった!」

「わかるんかーい!!」


メガネパリーン!俺はちゃぶ台をひっくり返す動きでオーバーリアクション!


いや、まだ慌てる時間じゃない。

メガネをかけた首肉たっぷたぷの人もそう言っている気がする。

あれ、別の人だったっけ。


まぁ、わかったような気分の時が一番危ない。

油断大敵だ。


「いいか、よく聞け。まずは魔法陣を描く。これは魔法を構築する際に安定させたり、逆にブーストをかけたりするための、いわば補助輪だ。そして詠唱。これは属性、威力、範囲、形状、などなど…ま、簡単に言うと『どうしたいか』を決めるために必要な…」


「『ダークシールド』…(ブォン)ほら、できたよ!」


「聞いて!」


    ◇


「もー、コーマ、機嫌直して!」


「…ぷー!」


俺は体育座りで頬を膨らませていじけていた。


昨日頑張って3秒もかけて詠唱と魔法陣を思い出したってのに全て水の泡だ。

危ないって言ってるのに勝手にやるし、もう教えてやんない。ふーんだ。


「ごめんね…(きゅーん…)」


そんな捨てられた子犬みたいな顔しても許してあげないんだからっ!

お風呂に入れて腹いっぱいご飯を食べさせて一緒に寝ようとしか思ってないんだからねっ!


「…ま、今回は結果オーライだし許すけど、次からは気を付けてくれよ。お前に怪我なんてさせたらって思うと…さ」


結局許す俺。うーん、甘い。キャラメルソースマシマシのパフェより甘い。

食べたことないけど。


リリーには甘くなっちゃうんだよな、可愛いから。

でも可愛いからこそ、こういうことはキチンと言っておかないといけない。


怪我させたらマーガレットさんにお尻ぺんぺんされるからな。俺が。


「う、うん…ありがと」


でもまぁ最悪、治せばいいか。と、いかにぺんぺん回避をするかを考えていると、リリーの頬が赤く染まり、耳がぺたん尻尾が…ピーン?

初めて見るフォーム。どういう特性があるのそれ。


コーマくんがぺんぺん回避できる能力はあるかな?


「よーし、それじゃ、防壁を即座に展開する訓練をするか!」

「おー!」


それから、日が暮れるまで特訓特訓。


「あーいーうーえーおーかーきーくーけー『光弾』」

「…はっ!(バシン!)」


まずは光弾を見てから防ぐ訓練から始めた。

元々リリーは反射神経が良いからすぐにできた。

タイミングもバッチリ。


「『光弾衛星・十連』」


なので衛星のように光弾を飛ばし、その光弾からビームが出るファ○ンネル仕様にした。

この光弾衛星は、オートで攻撃させる事も任意で攻撃させる事も可能で…え?説明いらない?はーい


「…こっち!(バシン!)」


背後からも撃ってくるから第六感が試される…んだけど、これもあっさり防いだ。

成長が早すぎる。うちの子、天才かぁ?


「フォッフォッフォ…お主に教えることはもう何もない…」


腰を曲げて、その辺に落ちてた枝を杖に見立てて完璧な老師ロール!フォースの力を感じるのじゃ…。


「コーマ、明日は何するの?(ぎゅっ)」


俺の老師ロールを華麗にスルーし、いつものように左腕にパイルダーオン。

うん、今日も無いな。何がとは言わないけど。


「そうだなぁ…今日俺が使った魔法…とか?あ、でももしかして使えたりする?」

「弾は簡単だからできそうだけど…、弾からビームが出るやつ?あれがちょっと難しいかも」


防御魔法の時といい、観察眼と応用力がパないのかな?

やっぱうちの子天才!

でもさっき衛星の説明はした…んだっけ?キャンセルされちゃったんだっけ。

ま、どっちでもいいや。


「あぁ、アレか。弾に空気中の魔素を吸収する術式を組み込んで、放出させてるんだ。ほっぺたを空気で膨らませて、押すと…ブーッ!!みたいな感じだな」

「あはは、いつもながら例えが汚い。ちょっとやってみてもいい?」


「おっけー。誤爆したら俺が防ぐから思いっきりやってみ」

「うん」


(ブォン)


リリーは空に手を掲げて、まずはダークボールを作る。

うんうん唸りながら試行錯誤し…


「できた!って…あれ?」


(ブブブブブブブブ)


「…Wow」


完成したダークボール=サテライト(命名:俺)はどんどん魔素を吸収して膨らんでいく。

さすがにマズイ!と思ったのか、リリーの顔は真っ青だ。


こっちにビームが飛んでくる可能性は低い。でもフラグって回収されるもんだよね、とリリーの前に立つ。


(ブブブブブブブブ…ブーッ!!!)


そして…、ちょうど三メートルくらいのデカさになったところで衛星は弾けた。

フラグ通り極太ビームが俺たちを襲う!!


「コ、コーマごめん、失敗しちゃった!!」

「『守れ』」


(バシャァァァァァ!!!)


即座に防壁を円錐状に展開して、極太ビームを全て受け流す。


「す、すごい…」

「いや、すごいのはリリーの方だろ。普通一発でこんなのできないって」


「ち、違うの…、なんていうか、私のは真似してるだけで、コーマは発想力とか、それをすぐできる度胸とか…」

「あはは、そんなの無いって」


俺にあるのは元の世界の知識と、思いついたら試さずにいられない無謀さ。

そして800年間休まず進めた研究、その結果。

足が速いわけじゃない。ただ歩き続けてきたから、前に居るだけだ。


リリーの才能に嫉妬もしてるし、いつ追いつかれるかわからないとビクビクしてる。

そんな、ただの臆病者だ。


痛いのは嫌だし、面倒になったらすぐ逃げる。

ヘタレで駄目な俺だけど。


けれど、それでも、逃げたくない時まで逃げたくはないから。


「いつも努力してるだけだよ」


光線を撃ち切って消滅した衛星の先には、空に広がる綺麗な夕焼けが見えた。

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