第3話 闇の魔王も転生したみたいです
『お前が…ザコ…ナメクジ…』
俺の絶叫が森の奥でエコーした。
やまびこにまでディスられててコーマくんキレそう。
「へ…?」
さっきまで泣いていた闇の魔王は一転、キョトン顔になった。
綺麗な金色の瞳がまんまるお月様だ。正直めっちゃ可愛い。
しかぁし!俺はそんな色仕掛けには屈しない!なぜならぁ!
俺とお前は!アレとアレ!宿敵ってヤツだからだぁ!!
指をビシッと差し、宣戦布告を告げる!
「ここであったが百年目!闇の魔王!いざ尋常に…勝負!!」
「コーマ…頭大丈夫?」
あ、あれ?まんまるお月様は半月(ジト目)になってしまった。
…前世のアイツと雰囲気が全然違うぞ。
むしろいつものリリーだ。
闇の魔王じゃないの?勘違い?
「え、えぇっと…ま、いいや。隣座るね。でさ、なんで自分が闇の魔王だと思ったんだ?」
「…それは」
また俯いてしまったリリーの隣に座って、事情を聞く事にした。
どうやら夢で闇の魔王だった頃の記憶を思い出したとの事だ。
闇の魔王は物語で恐ろしい悪の存在として語り継がれている存在、らしい。
俺は知らん。興味ないもん。
…あれ、光の魔王は?渾身の変顔は語り継がれてないの?
「まぁ、それだけじゃリリーが闇の魔王かどうかわかんないじゃん」
「それは…、でも、そうだったって確信があるの…」
「そっか…」
まぁ、俺は全く信じてない。リリーの勘違い。思春期によくある病気だろう。
だってアイツがクソザコナメクジに負けるわけがないから。
もし死んだとしたら勇者に殺されたわけじゃない。
アイツも多分、人生に疲れて聖剣で自殺したんだろう。変顔しながら。
「でもさ、闇の魔王だからって落ち込まなくても良いよ。なぜなら…クックック…」
全力でキメポーズを決めながら、天に向かって叫ぶ。
何を隠そう、この俺、コーマくん!実は秘密があったんです!
それはーーーー!!!
「俺も、光の魔王だったんだよ!!」
決まった…。リリーさんの反応はいかに!?
「コーマ、頭…大丈夫じゃなかったね。」
えーっ!!なんでやねん!
この流れならカミングアウトしても信じてもらえるはずだろ!
頭デフォルトWARNING!!な俺の言う事は信じられないっていうのか!!
「じゃ、じゃあ証拠を見せてやろう…」
俺は右腕をまっすぐに伸ばし、左腕を添えて…
「ロケットパーンチ!」
(バシュン!)
「コ、コーマ!?」
腕を魔法で爆破して、右腕を小池に向かって飛ばす。
(バシャバシャー)
ちぎれたところからおびただしい量の血が吹き出す。あっ、ちょっとクラッとする。
「でも、大丈夫!『治れー』」
(にゅるん)
回復魔法で瞬時に腕が生えてくる。どや!
「…ひぃ…(へちょーん」
リリーの顔を見ると、顔面蒼白&ドン引きという器用な顔をしていた。
尻尾なんてヘニョーンを通り越してヘチョーンだ。
あれ?ウケなかったかー…残念!
「一発芸としてはイマイチだったね…」
「あ、当たり前だよ!!」
(ぺしん!)
激怒したリリーに頭を叩かれたので、ロケットパンチは永久封印しようと心に誓ったのだった。
◇
「リリー、歩けるか?とりあえず村に戻ろう」
「…うん」
リリーと手を繋ぎ、村に向かって歩き出す。
絶対怒られるだろうなーとか、明日は絶対筋肉痛だなー、回復魔法ってどうやったら効くようになるかなーとか考えていると、さっきまで俯いていたリリーが顔を上げて、俺に訊ねてきた。
「ねぇコーマ…魔法使えるって本当だったんだね」
「ん?あぁ、そりゃ前世は光の魔王だったからな。
今は人族に生まれちゃって弱っちいけど、昔は強かったんだぜ?知らない?光の魔王コーマ」
「聞いたこと…ないかな」
「そっかぁ…」
俺の渾身の演出と変顔は何だったんだろうな。
結構頑張ったんだけどな、あれ。リリーじゃないのに涙がこぼれそう…。ポロリ
こっちのポロリは要らんなー、エッチな方がいいな、とアホな事を考えていたら、リリーは俺の前に向かって走り、振り向く。
「ねぇコーマ、私に魔法を教えて欲しいの」
「ん?良いけどなんで?」
「それは…」
リリーが村から出た理由。
それはどうやら夢を見た後、制御できない程の魔力波を放ってしまったそうだ。
我慢しながら家から飛び出て、なんとか家は守ったそうだけど、このまま村に居るとヤバい!と思って森に逃げたらしい。
なんか、おしっこ我慢してトイレに駆けこんだみたいだな。ププッ
言ったら怒られるから絶対言わないけど。
「絶対変な事考えてる…」
リリー、勘の良いガキは嫌いだよ。でもジト目は可愛いよ。
「考えてないよ、おしっこ我慢してたみたいだな、なんてさー」
「もう!」
やっぱり頭をパシーンとやられる俺。
馬鹿になったらどうするの?もう馬鹿だから大丈夫だと思われてる?
「闇の魔王の力でコーマなんてコテンパンにしちゃうんだからね!」
お?やる?ロケットパンチでやっちゃうよ?
「クックック…自分の力を制御出来ない魔王などクソザコナメクジ以下…ごめん言い過ぎた」
「クソザコナメクジさんってそんなに弱いんだ…」
いや、人族の中の最高戦力だし、強いんじゃない?知らんけど
魔王…というか魔族が強すぎるだけだと思う。
「参考までに言っとくなら、俺はもうナメクジさんより強いし、リリーもあの魔力を使いこなせたら強くなれるな」
多分ね。
「そりゃあんな強い力を使えるようになったら…」
「あんなもん、アイツに比べたらすかしっ屁みたいなもんだぞ!」
プスー!あぁくっさ!って感じだよ。
「例えが汚い…」
良い例えが思いつかなかったんだよー。ごめんね。
でも、闇の魔王がすかしっ屁してると想像するとちょっと面白いかもしれない。
アイツが尻から…プスー!
「ププッ」
「もう…また変な想像してる…でも」
「ん?」
リリーは腕を後ろで組んで身体を傾け…そして笑った。
「コーマは、私を怖がらないんだね」
彼女は、ようやく笑顔を見せてくれたんだ。
「…当たり前だろ、光の魔王が闇の魔王を怖がるわけがない」
その笑顔が眩しかったのか、それとも背後の大きな月と彼女の瞳にある二つの月が眩しかったのか。
少しだけ、目を逸らしてしまった。
「帰ろうぜ、腹減ったし」
俺はリリーと手を繋ぎ、村へ向かう。
道中、彼女の姿を思い出し、そして振り払う。
一生の不覚。油断してしまった。
美しく輝く三つの月。
その幻想的な姿に、見とれてしまったのだから。