第2話 転生しました!
コーマくん、なんと人族に転生しました!弱い!
転生特典?で魔力は強いままだったけど、身体が弱すぎてほとんど魔法が使えない!
え?減ってないよね?弱すぎて最大魔力量すらよくわからん!
オーマイゴッド!!
最後の瞬間に神様に「人族弱い!なんとかして!」と文句を言ったせいかもしれない。
じゃあお前がなんとかしろよ、と。
そんにゃあ…そりゃないよ神様…。
時期的には俺が死んでから100年後くらい?の魔王だった時と同じ世界。
元の世界に戻って魔法でチート生活するつもりだったのにー。ケチ!
まぁ、文句を言っても仕方がない。
テンプレ通りに、身体が悲鳴を上げるまで魔力を使い、眠る。
これをやると最大魔力量も上がるし、使える量も増えるし、制御能力も上がる。
良い事づくめ!テンプレ最高!でもめんどい!飽きたなー
「あぶー」
でもま、500年も変わらない日々を送り続ける人生よりは何百倍もマシだ。
そんな日々を続けて10年が経ったーーー
◇
(チュンチュン…)
「コーマ、朝だよ!」
「うーん、あと10年…。」
「もう…起きて!」
「へーい…。」
俺が転生した場所は、なんちゃら王国の中の、大きな森が近くにある小さな村だった。
狩りで生計を立てており、貧乏なんだけど食には困らない、って感じだ。
のんびりした環境で魔法の研究を続ける…つもりだったんだけど「狩り」がメインの村であるだけに、弓やら剣やらが出来ないと馬鹿にされる。
「俺、魔法使えるよ!」と皆に言っても、頭がおかしくなったと思われるだけ。
魔法は、貴族かごく一部の平民しか使えないんだってさ。
魔族だったらガキでも使えるってのに…。
というわけで、弓も剣もまともに使えない俺は、みんなから「頭のおかしい無駄飯食らいの役立たず」だと思われている。
けれど、そんな俺でも見捨てない優しい幼馴染が居る。
「それが、このリリーってわけさ!(キラッ」
「頭大丈夫?(へにょーん」
歯をキラーン!!と見せてキメポーズをしたんだけど、リリーには不評だったらしい。
耳が垂れて尻尾がヘニョーンとなっている。
耳?尻尾?疑問に思ったそこの貴方!勘の良いヤツは好きだよ!
そう!何を隠そうリリーは黒狼族という獣人族の一種なのだ!
この世界には獣人という種族が居る!初めて知った!他?知らんよそんなん。
耳と尻尾が可愛い!ただそれだけで生きていける!居るだけで癒される最高の種族なのだ!
「なのだ…なのだ…(エコー)」
「それで、今日もコーマは魔法の研究?」
俺のエコー芸を華麗にスルーしたリリーは、頭をコテンと傾けて、俺に予定を聞いてきた。ほら可愛い。
今日の予定?そんなのもちろん決まってる。
「おう!そろそろ回復魔法が全力で使えそうなんだよねー。
死んだら言えよ、生き返らせてあげるから」
「あ、あはは…じゃあその時はお願いしようかな(へにょーん」
絶対に信じてないなその顔は!尻尾もヘニョンじゃないか!ぷんぷん!
「死んだら言えないよ!」くらい言い返して欲しいもんだ!
「じゃあね、コーマ。ちょっとは運動した方がいいよ?」
「ヤダー」
「もう…そんなんじゃ将来困るんだからね!」
そう捨て台詞を吐いてリリーは居なくなった。
困るのはお前だろ?
こんな小さな村じゃ結婚相手なんて、そう多くない。自動的に俺になっちゃうのだ。
旦那がいつまでも無駄飯食らいじゃ困るもんね。
けど、俺はこの小さな村に居続けるつもりなどない。
あの自動回復装置生活を捨て、自由を求めて転生したんだ!
だから俺は…
「冒険者王に、俺はなる!」
◇
「コーマ、リリーちゃん見なかったか?」
ニート生活を続けていたある日、今の父であるトーマからリリーが居なくなったことを聞いた。
「んー?そういや、今日の朝は見なかったな。」
いつもなら朝に俺を起こして、狩りに行くか、畑の手伝いに行ってるはずだ。
おかげで俺は今日は昼まで寝られた。
ラッキー!なんでだろ?生理?って思ってんだけど…その理由が判明した。
「居なくなったらしい…」
「へぇ…、え?」
たくさん寝られてラッキー!とか思っていた朝の自分を殴ってやりたい。
俺自身、別にリリーに恋愛感情を抱いてるわけじゃない。
でも、大切な妹くらいには思ってるんだ。
「親父、居なくなったのはいつ頃だ?」
「朝から誰も見てないらしい…もしかしたら夜中にはもう居なくなっていたかも…」
「わかった」
俺は着崩していた服を整え、鞄を持ち、その中に携帯用の食料を入れる。
ほら、もしかしたらリリーが森で迷子になってお腹を空かせて泣いてるかもしんないだろ?
「お、おいコーマ、まさか探しに行く気か?」
「もちろんそうだけど」
「弓も剣も使えないのにどうやって!?」
「そりゃ魔…」
魔法がある、と言おうとしたが辞めた。どうせ馬鹿だと思われるだけだ。
「村の中だけならいいだろ?」
「…わかった、絶対に森には行くなよ」
「あいよー」
︙
(フォン)
家を出て即、探知魔法を使う。
半径20m。リリーを探すならこれで十分(つーかこれが限界)
やっぱり村には居ないか…。
「『消えろ』」
(ブン)
誰にも見えない場所に移動し、透明化魔法を使う。
光の屈折を利用した、視覚に作用する魔法だ。
嗅覚の鋭いリリーにはバレるだろうが、そのリリーはここには居ない。
誰にもバレる心配がないのだ。
「じゃ、行くか」
俺は父親の警告を無視して、森に足を向けた。
︙
「『守れ』」
防御魔法を展開して森の中を歩く。
「ギャオオオオオ!!!グェッ!?」
良いエサだと思われたのか熊やら猪やらエルダーなんちゃらドラゴンやらが俺に近づいてくるが、全部、防御魔法はじき返す。
あれ、エルダーなんちゃらはなんか前世で見た気がするなぁ…。
まぁいいや、忘れた。
それより足がヤバい。長年の運動不足が祟ってる。
俺の探知魔法はあまり性能が良くない。
小さな村くらいならちょっとウロウロすれば良いんだけど、この大きな森は傾斜もあるし俺にはハードすぎる。
魔王だった頃もインドア派だったし、現最弱種族の職業ニートな人族、雑魚ーマくんには辛すぎるのだ。
「空飛びてー…」
飛行魔法はまだ使えていない。多分、制御能力の鍛え方が不十分なのだ。
アレは魔法の中でも超高度な部類だからね。
けど、甘えたことなんて言ってられない。
リリーが死んでいたら、手遅れになる。
回復魔法の蘇生における制限時間は30分。
この魔法は受ける側の記憶を元に身体を再生するからだ。
身体に記憶が残る時間がおよそ30分。これが蘇生のタイムリミット。
自分自身であれば何百年経とうが完璧に蘇生できる「裏技」があるんだけど、他人だとそうはいかない。
リリーが死亡していたとしても、30分以内なら完璧に蘇生できる。
逆を言えば、30分を超えると…蘇生失敗。
運が良ければ何かしらの不具合や後遺症が残るけど、成功する。
けど何が起きるかわからんし、植物状態になって「あー…うー…」と唸ってるリリーなんて見たくない。
居なくなったのは早くて夜中。もう、何時間経ってる。
「死んでんじゃねぇぞ…!」
最悪の展開が想像されて、自然と足が速くなった。
︙
「んあー…」
随分と深く森の中に入った。足が痛い。治れー、あれ、治んない。
筋肉疲労は治んないのかな?インドアだったし運動しなかったから初めて知ったわ。
さすがにもう俺が村に居ない事は気づかれただろう。
「リリー、どこまで行ったんだよ…一回戻るか?」
俺まで戻らないとなると、親父やマーガレットさんが森に入って二次災害になりかねない。
そう考え、一度戻ろうとした時ーーー
(ドンッ!)
「ーーーっ!?」
探知魔法なしでもわかる規模の魔力波が放出された。
俺はこの魔力を感じた事がある。それも、前世で。
「こっちか…?」
細心の注意を払いつつ、感じた魔力の方向に進む。
そこで、小池の前で膝を抱えて、俯いて座っている黒髪の少女を見つけた。
「リリー…」
「コーマ、どうしてここに…」
リリーは顔を上げ、俺の顔を見た。泣いてたんだろうか、目が赤い。
「そりゃ、お前を迎えに来たに決まってるだろ…」
「……」
俺の答えを聞いたリリーはまた、俯いてしまった。
「「……」」
しばらく続いた沈黙。
「うっ…ひっく…」
沈黙の後、彼女の瞳からはポロポロと涙が零れ落ちた。
「なんで…泣いてんだ?」
俺はリリーに落ち込んでいる理由を聞いた。
少しだけ心当たりはある。あるが…。
ここから感じた魔力は、魔王の時に感じた魔力より明らかに弱くなっているが、間違いなく『アイツ』だ。
そして、ここに居るのはリリーだけ。
導き出される結論は、一つ。
「私…闇の魔王だった…みたいなの…」
絞り出された答えは、俺の考えを確定させた。
リリーは俺と同じ、『魔王』の転生体だったのだ。
「だから…、だからね…、もうコーマとは…一緒に居られないの…!」
リリーは俺の質問に、泣きじゃくりながら答えた。
「…そっか」
で?だから何?
俺の質問は『何故落ち込んでいるか』だ!
もし本当にアイツなら、泣くわけがない!
いやそんな闇の魔王に詳しいわけじゃないんだけどさ。
けど、あんなに強い闇の魔王が記憶が戻ったくらいで泣くわけがない。
そして、最大の疑問がある。
彼女が『転生』したとしたら、聖剣によって死んだはずだ。
自殺した?んなわけねー
じゃあ勇者に殺された?それ以外ありえない。
だけど…だけどさ…!!
俺は身体を震わせて怒りをこらえる………うーん、無理!
「お前があんなクソザコナメクジに負けるわけがないだろうが!!!」
シリアスムードをぶっ壊す俺の絶叫が、森の奥に響いた。