第1話 魔王、やめまぁす!
「飽きたなー」
俺の名前はコーマ、光の魔族、独身、彼女なし。
この世界の魔族に転生して800年。
魔法がある世界に来てヒャッハーしていた俺は、なんやかんやで六大魔王の一角まで昇りつめてしまった。
「コーマ様、また闇の魔族共が攻めてきました!いかがしましょう!?」
「あー、適当にやっといてー」
「了解!!」
光の魔王に就任してから500年間、ずーっと闇の魔族と抗争が続いていた。
理由は知らない。
多分トップ争いがどうとか仲が悪いとか、そんな感じだろう。
火、水、風、土の四大魔王はみんなウチや闇に攻め込んで来ないし。
俺と闇の魔王がそれだけ強いって事なんじゃないかな。知らんけど。
それはさておき、無駄に強い魔族は戦略や戦術を使わない。ガチンコの殴り合いしかしないのだ。
就任当初は現世知識を生かして三段撃ちやら鶴翼の陣やらをさせていたが、そもそも言う事をあまり聞かない。
陣形が崩れて結局ガチンコ。そりゃ指示も適当になるってもんだ。
「コーマ様、現在死傷者500余名!!いつものをお願いします!!」
「へーい。治れー。」
戦場に向けて範囲回復魔法を発動する。
この魔法は対象を指定する事で光の魔族のみを回復する事も出来る優れものだ。
「あぁっ!!コーマ様!!闇の魔族まで回復してしまっています!!」
「へーい。治れー」
「魔王様!!」
この魔法は対象を指定する事で光の魔族のみを回復する事も出来る優れものだ!!
︙
「飽きたなー」
そして冒頭に戻る。
こんな生活を毎日500年間続けてきたわけだ。そりゃ、飽きる。
しかしそんな日々を終わらせる事が出来る一つの魔法を見つけた。
『転生魔法』
この魔法は、代償を支払う事で死んだ時に別の生命体に生まれ変わる事が出来る。
大切な物を失うとかなんとか。俺の場合は魔法かな?
せっかく異世界に転生したのに魔法を失うとか嫌すぎる。
結局、転生魔法は使えないままズルズルと変わらない毎日を過ごしていたのだが…
「だがしかぁし!!そんな日々は終わりを告げる!!
天才であるこの俺は、代償の回避方法を見つけたのだ!!」
「コーマ様、いつものを」
「へーい。治れー」
エルダードラゴンの瞳、海王クジラの片ヒレ、フェニックスの卵。
手に入れる事が困難とされるこの三つのアイテムを手に入れる事で代償を回避する事が出来る、らしい。
たった三日で揃えられるこのアイテムに果たしてそんな価値があるのかはわからんけどな。
「あ、コーマ様、いつものが」
「へーい。治れー」
「違いますコーマ様、勇者が来ましたよ」
「あー、そっち」
この光の魔王城に、たまに攻めてくる『勇者』という存在。
最弱のくせに数だけ多い『人族』という人類の一種のトップ戦力。
ま、人族ってのは元の世界でいう普通の人間だな。
で、こいつは聖剣とかいう武器をありがたがって使ってるんだけど、これはホントくそ弱い。
魔族特攻が付いているくせに対したダメージも与えられない、嫌がらせ専用装備。
どのくらい弱いかって?
魔族のガキンチョとタイマンで戦って、勝てるかどうかってくらい。
ただ面倒なのが『リスポーン』って能力を持っていて、勇者が死んでも聖剣で傷を付けたところから復活できる。
毎回復活する勇者を相手するのも面倒なので、聖剣を破壊してから殺してるんだけど、しばらくしたら聖剣が復活してまた勇者が来ちゃうんだよね。
聖剣を破壊できるのが俺だけだから、みんなにはいつも素通りさせてるんだけど。
「魔族め、聖剣の力に臆したか!」とか調子に乗ってみんなの機嫌が悪くなるから、本当は来てほしくない。
でもまぁ、今回は助かったよ。
魔王を辞める為の最後のピース。転生魔法、最後の鍵。
『聖剣』を持ってきてくれたわけなのだから。
◇
「クハハハハ!!勇者というのはその程度か!!」
「くっ…魔王め、正々堂々戦え!!」
勇者に向けてビームを撃ちながら空を飛ぶ俺と、聖剣をかかげ、俺の魔法を防ぐ勇者。
(※防ぎきれてないので回復してあげている)
勇者さんは必死の形相を浮かべているが、俺としても勇者が死なないよう調整に必死である。
うわーん、弱いよー!あ、ちょっと焦げた。治れー
転生魔法を発動する為には、聖剣によって死ぬ必要がある。
ただし、別に勇者に殺されなければならないという意味ではない。
聖剣を奪って自分の胸に刺せばいいのだ。
でもさ、なんかかっこ悪くない?
魔王が死んだらまず間違いなく絵本とかになるでしょ?
その時になんて書かれると思う?
「光の魔王コーマは、気が狂ったのか、胸を刺して死にました」だぞ?
罪の意識に耐えかねて自殺、とかになるかも知れないが、良いヤツだと思われるのも嫌だ。
魔族として生まれ、魔王として君臨したからには、絶対的な悪として死にたい。
だってその方がカッコイイじゃん!!
でも勇者弱すぎ。このままじゃカッコよく死ねない。
当然、普段俺にかけている自動回復魔法はオフにしてある。
これがオンになってると勝手に復活しちゃうからさ。
「クックック…少し手加減してやろう…」
ラチがあかないので、俺は空から地面に降りる。
前の勇者は空くらい飛んだよ?毎回弱くなってないか勇者。
「何を言う…魔力が切れただけだろう!!せやぁぁぁぁぁぁ!!」
空から降りて来た俺に対し、勇者が勝機を見出したのか、突進をしてくる。
魔力?自動回復分でマックスだよ。
でもさ、こうでもしないと攻撃できないじゃん、君。
十字切りされて「ぐあぁぁぁぁ!!!」って叫んで地面に落ちようと思ったのに、いつまで経っても無理じゃんね。
「片腹痛いわぁ!!」
「ぐ…うわぁぁぁぁ!!」
接近してくる勇者の横腹に軽くパンチ。
(ぱぁっ)
回復する事も忘れない。
死ぬなよ、絶対死ぬなよ!!
「くっ…まだ、負けるわけにはいかない…。」
ヨロヨロと立ち上がる勇者。勝利確定BGMでも流れ始めていそうだ。
でーでーででーでーででー♪
その身体を、薄ぼんやりとした光が包み始めた。
戦いはクライマックス!
これだ、これを待っていた!!
「貴様らに殺された人々の怒り…残された人々の悲しみ…、その想いを一身に背負い、私はここに立っている!!
目覚めろ聖剣!!
はあぁぁぁぁぁぁ!!!」
やったーかっこいい!!勇者の必殺技!なんとかカリバーだ!!
「な、なにっ!!」
(パリィン!)
まばゆい光に包まれた勇者の、全力を込めた突きが俺の身体を包んでいた防壁を破壊し、聖剣が深々と胸に突き刺さる。
(※防壁が破壊されたのは演出です。)
い、いっでえええええええええええ!!!
無意識に発動しそうになる自動回復魔法を、激痛で薄れゆく意識の中、必死に抑え込む。
回復してしまったら今までの努力が水の泡になってしまう。
失敗したら「いえーい、ドッキリでしたー。てへぺろ!」で済まそうかなー。
(ズルッ…)
そんなアホな事を考えていたら、俺の胸から聖剣が引き抜かれる。
「う…ぐっ…!」
崩れゆく俺、カッコよくない?ねーねー、カッコよくない?
「はぁ…はぁ…苦しいか?痛いか?それが貴様たちが人間にした行いだ!!」
やったっけ?多分やってないよ。そっちが勝手に攻めてきて返り討ちにあっただけじゃんね。
つーか、ほんと痛いの。カイシャクして。
普通こういうのって刺されたらすぐ死ぬんじゃないの?
弱いから?人族が弱すぎるから?それとも魔族が強すぎる?
調整ミスってんじゃねーの神様?
もっと人族強くしてくれよ。
「…貴様の首、もらいうける!」
カイシャクしてくれるの?ありがとー!
はい、せーのっ…っていでー!!死んでない!ねぇ、俺まだ死んでないよ!
「光の魔王は、勇者サルビアが討ち取った!!」
首を掲げて勝利を宣言するサルビアさん。
髪を引っ張られて痛くて泣きそう。もうちょっと優しくして。というかさ。
俺まだ死んでないよ!?ほら、細切れにして!
…ってやべ、意識が薄れてきた。死ねそう。
最後にカッコイイ顔しないとな…あー…
まぁいっか、変顔しよ…。
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