第一話 人生が変わった瞬間
チリン……チリン……
深い森の奥底で、鈴が鳴る音がする。
「根の国、深くに」
歌うは年若い男。男の目の前には深い穴があった。
「我が霊力、喰らって蘇り給え」
瞬間
森全体が何かが呼び覚まされたように深く鳴動した。しかしそれも一瞬のことですぐに鳴動は静まった。
「我が大願、叶えて貰うぞ…」
男の顔が笑うように歪んだ。
「―――さん。お姉さん!」
「ん?あ、悪い!寝てた」
「随分とぐっすり寝てたみたいですね。着きましたよ。2500円です」
「はい、ありがとうな」
「じゃあ失礼します」
私の名前は、市原咲夜。15歳。昔から祖母の家で暮らしてきた。
「此処が月見町か…」
私の祖母と祖父が生まれた地。祖母は此処にある神社の巫女だったらしい。二人は駆け落ちして、遠い前住んでいた町まで逃げ出したらしい。祖母ながら豪胆な人だと思う。
「もうアパートに荷物は送り込んでるしな~」
そんな祖母がつい一ヶ月前、亡くなった。老衰だったらしい。幸せそうな寝顔だったから向こうで祖父と会っていたらいいなと思う。
「まずは神社に行かなきゃな…」
私は、祖母の遺言に従ってこちらに引っ越してきた。
「な、なんだこの階段」
地図を見ながら、昔教えてもらった神社の近くへと着いた。しかし
「お祖母ちゃんこんなの上り下りしてたのか!?」
目も眩むようなくねった階段があった。
「も、もう無理。だけど着いたー!」
永遠に続きそうな階段を上りきったその先に、祖母の勤めていた月見神社があった。神社自体は、小さいがとても美しい所だと思った。
「先ずは御参りっと」
よく祖母から言われていた。神様はいるんだよ、と。しかし私はあまり信じていなかった。私は見えないと信じない主義だから。だけと御参りはする。それが祖母と二人の昔からの習慣。もう一人になってしまったが。
「よし、終わった。ん?」
御参りを済ませ、ふと辺りを見回してみると、神社の近くの池で空を見ていた男がいた。草色の和服に黒色の羽織をしている。ふと、こちらに気付いたのか男は後ろを振り向いた。
「サエの孫か。何故ここに」
振り返った男は、とても綺麗だった。整った顔立ちに短めに整えられた髪。一瞬目が黄金に光ったように見えた。
「あれ?お祖母ちゃんの事ですよね。何故知っているんですか?」
祖母は駆け落ちしたっきり町とは連絡を取っていないらしい。しかし、目の前にいる男はかなり若い。せいぜい二十代ちょっとだ。
「まあいい。いずれ分かる。また此処に来い」
言いたいだけ言うと男は幻覚の様に掻き消えてしまった。
「え?あ、き、消えた……」
あの世にいるかも知れない祖母よ。私、神様信じてもいいような気がちょっとしました。
この小説はブログの方で掲載しているものをまとめたものです。
とりあえず第一話。実は私日本神話大好きです。むしろ神話全般大好き。