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団栗の王国

 転移した小人は驚いていた。

 異世界はドングリス・キングダムによって様変わりしていた。

 リスのどんぐりへの執念は凄まじく、研究のために異世界は近代化されていた。


「ファンタジーなのに……車が……走ってる……」


 ファンタジー世界に車が走るという違和感は凄まじかった。

 小人の前に車が止まり、運転手席から一匹の熊が現れる。


「ああ、異世界人の方ですね。どうぞこちらへ」

「えっ? えっ?」


 そうして運ばれた先はどんぐり宮殿と呼ばれる、巨大などんぐりを模した宮殿であった。


「おお、小人ではないか!」


 そう言ったのは支配者然として玉座に腰掛けるリス。

 現在、彼はシャルル・ド・ングリスと名乗っていた。

 ちなみに王になるまでの名前はドン・グリスだった。

 当然、小人は困惑している。


「お、お前……まさか、リス……なのか……?」


 かつての可愛らしさは見る影もなく、筋骨隆々、泰然自若、凄まじい威圧感の巨大なリスが王冠と深紅のマントを身に付け、そこに鎮座していた。

 リスはその極太眉毛を片方だけくいっ、と上げて言った。


「ああ、私がリスだ」


 声も野太かった。


「信じられない。何か、証拠はないのか?」


 小人にはとても信じられなかった。

 しかしそれも仕方のないことだ。

 魂は目に見えない。

 姿形が変わってしまえば、どうやって同一人物だと判断すればいいのか。記憶か?

 しかし、記憶とは曖昧なものだ。

 では証明するものは一つもないというのか?


「証拠か。ならばこれを見よ!」


 リスは一枚のカードを見せた。


「こっ、これは! 異世界転移の時に必要とされる神様特製パスポート! なるほど、これなら神の保証があるというわけだ。……ふむふむ、なるほど。ありがとう、これで完全に君がリスだと証明された」


 小人はカードを返した。彼は神を信じていた。(いささ)か滑稽だとは思うが、彼はその信仰心のおかげでリスと再会することができたのだ。もしかすると、信じる者は救われるのかもしれない(?)


「久しぶりだな、小人」

「ああ、やっと会えた。会いたかったよ、リス」


 二人(?)は目に涙を溜めて抱き合った。筋骨隆々の巨漢であるリスに抱きしめられて、小人はちょっと苦しそうだった。でもまあ喜んでるみたいだしいっか。


「それにしても変わったね、リス」

「いろいろあったんだ。見てくれ、この森の王国を。美しいだろう? まるでどうぶつの森の村を千時間かけて整えたみたいだろう?」


 森にはアポロン的な秩序を象徴するかのように均整のとれた静謐な美しさがあった。


「すごいや」


 小人はよく分からなかったのでとりあえず褒めといた。


「そうそう、リス、君の好きだったどんぐりをお土産に持ってきたよ。ほら、昔、遊びに行くときにはいつも持ってきてただろう?」


 ニコニコしながらどんぐりを出す小人。これで約束は果たせた!

 対するリスはカッ開いた目を血走らせ、歯を剥き出しにした口からは涎をダラダラ垂らしていた。


「はぁ、はぁ……ジュルッ……! おっと、失礼。こちらにはどんぐりがないものでね。つい懐かしくなって……」

「は、はあ……そっか……」

「そっ、それで、ジュルッ、そのどんぐりをジュルルッ、私に……ゴクッ、ク……くれるとい……い、イタダキマスッ!」


 ムシャクシャ、バクバク、バキバキ、ゴリ、ゴックン!


「ごちそうさまでした」

「……喜んでくれてなによりだよ」


 リスのツヤツヤとした満足げな顔を見て小人は苦笑いした。


「ふぅ、いや失敬。久しぶりのどんぐりだったからね。少々がっついてしまったようだ。お恥ずかしい。満足して少し落ち着いたよ。ところで、どんぐりはもうないのかな……?」

「ああ、それならここに……」


 シュババババババババッ!


「いやあ、こんなに、悪いねえ。はっはっは」


 気がつくと、リスの片腕に大量のどんぐりの山が抱かれていた。もっしゃもっしゃ、ともう片方の手でどんぐりを食べながらリスは言う。


「それで……どうだね、久しぶりにかけっこでもするというのは?」

「ああ、いいね。やろう!」


 こうして二人はかけっこをすることになった。

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