団栗と転生
『リス……リス……私の声が聞こえていますか……?』
う、ううん……。誰の声だろう?
『リスよ、あなたは死にました』
えっ、そんなぶっきらぼうに言うことですか。もうちょっと言い方ってものがあるでしょう。
『リスよ、あなたには別の世界に生まれ変わってもらいます』
ちょっと待って。展開が早すぎます。あなたは何者なのですか? ぼくはどうしてここにいるのですか? それくらい、教えてくれてもいいじゃないですか。
『私はこの小説の作者です。あなたはかけっこをしてるときに車に跳ねられ死にました。そして私は、魂だけになったあなたを生まれ変わらせるためにここに呼びました』
なんてメタな。
ちなみにぼくはどうして死ななければいけなかったのですか?
『それはあなた自身が招いたことです。
あなたは虫も殺せない優しいリスでした。
そうして、草食動物として生きていたあなたは正しく草食動物として成長しました。視野は広くなり、逃げ足も速くなりました。
しかし、あなたが食べていたどんぐりにはどんぐり虫が入っていました。
その時、あなたは無意識に気付いてしまったのです。
――自分が草食動物ではなく、雑食動物だということに!
それに気づいた瞬間、あなたの草食動物としての特徴――視野が広く、逃げ足が速いというもの――は消えてしまいました。
以前のあなたなら、視野の広さのおかげで車が来るのに気がついたはずです。また、逃げ足の速さから反応が遅れても回避は可能だったはずです。
ですが、それができなかった。それこそが草食動物としての特徴が失われた証拠です。
また、それはあなたの性格的にも矛盾する出来事でした。
生物が性格と矛盾する行動をしたら、世界はそこに混沌を見ます。その混沌のエネルギーはやがて膨れ上がり、世界を飲み込んでしまう恐ろしいものです。
そこで、世界は混沌のエネルギーを生み出す生物を殺し、魂を追い出します。
それが原因であなたの周りに異常が生じてしまったのです。
だって、森に車が来るなんて滅多にないでしょう?』
たしかに……?
『そうして、世界の異物となったあなたは弾かれてしまった。
あなたのいた世界はもはやあなたの魂すら拒んでいます。
それで、別の世界に飛ばさなければいけなくなったのです』
なるほど。よくわかりました。
別にぼくはかまいませんよ。
ぼくの楽しみはどんぐりとかけっこくらいですから、きっとあっちの世界でも楽しくやれますよ。
もちろん、あっちの世界にもどんぐりはあるんですよね?
『ありません』
えっ……。
『ありません』
えっ……ヤダ。
『さあ、そろそろ頁数が足りなくなってきましたので、新たな世界へレッツゴー!』
ヤダーッ!
……。