団栗とかけっこ
リスはやさしかった。
そのやさしさは虫も殺せないほどのものだった。
「リスさんこんにちは」
そうあいさつしてきたのは小人。
彼はリスの親友だった。
「ああ、こんにちは。小人さん」
リスは彼が来るのを楽しみにしていた。
いつも小人はおみやげにどんぐりを持ってきてくれた。
今日も彼はどんぐりをおみやげにリスの家にやってきた。家は木の穴の中にあった。中には前に小人が持ってきた図鑑が置いてあった。
「今日こそは負けないぞ」
小人はリスとかけっこをしにきた。
これまで百勝百三十一敗。九十勝までは互角だったのだが、リスはだんだん成長していき、今ではもう小人は勝てなくなってしまっていた。
「ふふん、このぼくの足のはやさに勝てるかな?」
サングラスをかけ、片腕で大量のどんぐりを抱え、もっきゅもっきゅ、ともう片方の手でどんぐりを食べながらリスは言った。あ、いまどんぐり虫が落ちた。
いっきに成長したリスは得意になっていた。ある種の傲慢さすら顔ににじませ、小人はちょっとだけ不快感を感じていた。
しかし、かけっこの時以外は前のリスさんと同じだったので、二人はなかよしのままだった。
「じゃあいくよ。よーい、ドン!」
ドン!
勢いよく駆け出したリスは車に跳ね飛ばされた。
「リッ、リス―ッ!」
小人は駆け出した。ああ、だめだ。この様子ではリスはもう助かりそうにない……。
「こ、小人……」
かすれそうな声でリスは小人に呼びかける。
「な……なんだ、リス?」
「どんぐり……どんぐり食べたい……」
「そんなの生きてたら僕がいくらでも食べさせてやる! だから死ぬな!」
「約束だよ……うぅ、ど……どんぐり、もっと……食べたかった……ガクッ……」
「リッ、リスーッ!」
こうしてリスは亡くなった。口の中に大量のどんぐりを含んだまま。