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チート怪異な八尺様♂は異世界で愛を知るようです【三話目】



「なるほど!!王族はクソですわァ~~ッ!!」


「でも王家にもまともな方は居るのよ。」


私の叔父である国王様や賢妃と名高い第二側妃のエルダ様と第一王子のアドニス様とか。特にアドニス様は顔をあわせる度に胃を擦りながら謝罪してくださるし。ゲオルク様のやらかしを知る度に吐血していらっしゃるわ。


「ちなみに第一王子のアドニス様はエルダ様が。第二王子のゲオルク様を第三側妃のフローダ様が御産みになられたの。叔父様と王妃様の間には子が出来なかったから。側妃を二人叔父様はめとられたんだけど。」


ゲオルク様の母君であるフローダ様は王妃様の妹ということもあって。王妃様はゲオルク様を贔屓なさってるの。


「表向き王妃様はアドニス様とゲオルク様に分け隔てなく接しているというけれど。王妃様の意を汲む方々のせいでアドニス様は王宮でなにかとご苦労をなされてるみたい。」


「ああ、あの幸薄そうな御方ですわね。私もお会いしたことがございますわ。確かまさに戦乙女なビューティ・ゴリラ。もとい美しさは健全な筋肉に宿ると御公言をなさっているという辺境伯の御息女に惚れてるとか。」


「グリムヒルト様のことね。女性初の騎士団長になられた。ジグルフにいさまの友人でもあるんだけど。」


にいさま曰く素晴らしき脳筋。王妃になったら政敵をその鍛え上げた筋肉だけで撥ね付けて屈服させるだろう強靭さをお持ちで。


「アドニス様はそんなグリムヒルト様にベタ惚れだそうな。」


「私、マッスルに惹かれる気持ちはよくわかりますわ···!」


前世も今世も筋肉が付きにくい体質ですが。出来ることなら私もマッスルボディになりたかった!


「そして婚約者にベタ惚れですのねアドニス様は。爪の垢を煎じて愚物に飲ませて差し上げたいですわ~~!」


マリアは四阿に備え付けられたテーブルに突っ伏して。詰んでますわと死んだ目をする。マリアのストーカー。その筆頭はアンナの婚約者であるゲオルク。


第二王子という身分を利用してマリアに付きまとうだけでなく己の恋人であると宣う。現在、マリアの恋人を自称する人間はゲオルクを含めて六人居る。いずれも生徒会の役員であり名門貴族の子弟だ。


聖女という肩書きと神の加護があるので辛うじて最悪の事態になってはいないが。マリアが普通の貴族。いや庶民であったならばとうに既成事実を作られ。いずれかに囲われている。マリアの言葉を借りるなら十八禁ENDまっしぐら。


アインホルン家の間諜が調べたところ六人が六人とも監禁部屋を用意していたという。ついでにアブノーマルな道具もわんさか。

美しいその髪を掻き乱しながらどうすれば良いのですわ~~!?と嘆くマリアに私に考えがあるわとアンナは口を開いた。


「聖女マリア。私、アンナ・フォン・アインホルンと共に此の世界を救う旅に出ませんか──?」


「へ?」


水面下で準備を進めて三年後。十八才になり。学院を卒業した日。ゲオルクの卒業と第一王子アドニスと騎士団長グリムヒルトの婚約成立を祝って王宮で催された華やかなパーティでアンナはゲオルクに婚約破棄を突きつけられることになったのだが。


頭が痛いとアンナはパーティに招待され。致し方無く出席し。ゲオルクに引っ張り出されたマリアの必死の訴えに分かっていると頷く。マリアは八尺が見えているし。


親友であるアンナを裏切るようなことはしない。そして胃を押さえて吐血したアドニスを見る限り。婚約破棄はゲオルクの独断専行という訳だ。


そちらがそのつもりであるならば。此方も予定を前倒しにするだけのこと。足下を見る。アンナの意を汲み。八尺が姿を現した。


「アドニス様。発言の許可を得たく存じます。」


「うん。構わない。発言を許可する。そしてこうなってしまったからには僕たちはもう弟を庇わない。庇えない。如何なる事態になろうともそれは弟の身から出た錆だ。」


アンナがマリアに寄り添うと罵声を浴びせようとしたゲオルクと取り巻き五人に八尺がざわりと髪を動かし。黙ってアンナの話を聞いていろと四肢を拘束する。


アンナは魔王が生誕したという話は皆様御存知ですねとパーティに列席した人々に問う。


マリアはアンナにしがみつきながら。あの日、四阿で語られた話を思い出していた。此の世界には魔物と呼ばれる生き物が居る。

知性を持ち。異能を操る魔物は人を襲う。


マリアも聖女として魔物に襲撃された村や街に赴き。救護活動に従事したから魔物の脅威をよく理解していた。近年魔物が増加していることも。アンナは語る。百年周期で魔物を統べる王。魔王が此の世界に現れる。


時期的に見て。新たな魔王が現れたとみて間違いない。故に討伐隊が組まれることになったと。この討伐隊に立候補しないかとアンナはマリアに提案した。


討伐隊に任ぜられたならばマリアはゲオルクたちから離れられる大義名分が出来る。聖女という肩書きを持つマリアならば間違いなく討伐隊の一人に選ばれる。アンナもそう語った上で共に討伐隊に入ると告げた。


ゲオルクは婚約破棄を企んでいて。更にゲオルクはマリアを独占しているように見えるアンナが余程憎かったのか。配下に襲撃させ。傷物にすることでアンナ自ら修道院に行くよう仕向けるという計画を練っていたと。


絶句するマリアにアンナは身の安全の為にもこの国を離れる必要があるのと苦笑した。


八尺様が負けるとは一切考えてはいないけど。ゲオルク様に対する愛想が尽きたし顔をあわせるのも嫌になったのよとアンナは肩を竦め。

マリアの手を取って私と一緒に逃げましょうと微笑んだ。


「なぜ、なぜだ。僕のマリア!!魔王討伐だなんて命を捨てに行くようなこと!!花のように儚い君では無理だ!ああ、そうか。ソイツに。アンナに強制されたのか!!許せん···!!どこまで僕たちの恋路を阻めば気が済むんだ魔女め!!」


八尺に拘束されているゲオルクが忌々しげにアンナを睨む。アンナが嘆息し。八尺が冷笑しながらより髪で締め上げるなかマリアは見せつけるようにアンナと手を握る。

聖女の肩書きに相応しいたおやかな微笑みを湛え。親友を苛む男にカウンターを放つ。


「私は私自身の意志で討伐隊に加わると決めましたの。強制された覚えはありませんわ。そして第二王子様。これ以上私の義姉を愚弄することは看過出来ません。私、マリア・フォン・アインホルンは正式に第二王子及びその徒党に対し抗議を致しますわ!」


「は、マリアがなぜアインホルン姓を名乗っているんだ。君は孤児の筈だろう···!?」


ゲオルクはそこで漸くマリアとアンナが随所に対になった意匠が施されたドレスを纏っていることに気が付いた。

白と黒。花と葉。太陽と月を象った美しい刺繍が彩るドレスは寄り添うことで完成するようになっていた。


お揃いのドレスを身に纏いアンナとマリアは華やかに。清楚に微笑みあいながら。私たちは姉妹の契りを交わしましたのと互いに握り締める手に力を込めて笑ってみせた。


「私、ずっと妹が欲しいと思っていました。そして親友であるマリアが妹ならばこれ以上に幸せなことはないだろうと。」


「私も常々思っていましたのよ。親友のアンナが姉になってくれたならばこれに勝る幸せはないと。」


ええ、だから私たちは姉妹になりましたとアンナはマリアと顔を見合わせて微笑んだあと。

もうマリアはアインホルン家の養女。私の義妹です。ならば姉である私が義妹のマリアを守るのは当然のこと。


そう語りアドニスに目配せするとアインホルン家当主からもマリア・フォン・アインホルンに弟たちがしてきた様々な犯罪行為に対して正式な抗議書が来ているとゲオルクの罪状を明らかにし。修道院にて慈善活動に従事するよう伝える。


そしてアンナは高らかに告げた。強い意志を湛えた。その黒曜石のような瞳を光らせながら──。


「我が妹マリアに対する非道。婚約者たる私に対する不逞の数々。例え誰が許そうとも私が許さないわ。私、アンナ・フォン・アインホルンは本日を以って第二王子ゲオルクとの婚約を破棄致します!!修道院に行くのはゲオルク。貴方よ!!」


ざわめき。どよめく人々にわざわざ集まって貰ったけれど。そういう訳だから。パーティはこれでお開きとしようアドニスは配下に合図し。帰宅を促された人々の誘導を任せる。


アンナは八尺に声を掛け。ゲオルクの拘束を解かせ。私たちも帰りましょうかとマリアに微笑む。


マリアは聖女らしいたおやかな笑みから一転年相応の無邪気な笑みに変えて。アンナ義姉様の啖呵。痺れましたわ~~!!と小さく声をはしゃがせる。


「ふふ。可愛い義妹を守る為ですもの。これぐらいは言わないとね。愛想はとうに尽きているけれど。これを機にゲオルクが心を入れ換えてくれることを切に祈ってる。」


「アンナ義姉様はお優しいわ。でも、あの愚物たちはアンナ義姉様の想いをとことん踏みにじるつもりでいるみたいですわ!」


拘束を解かれたゲオルクたちがアドニスの配下から剣を奪い。アンナに殺意をたぎらせて。斬りかかる。だが八尺は動かなかった。ゲオルクの取り巻きが五人掛かりで魔術を使って拘束したからだろうか。


いいや。八尺はこの程度の拘束は簡単に振りほどける。自分が動く必要はないと八尺は判断したのだ。アンナも表情ひとつ変えずゲオルクの蛮行をただ眺めた。


何故ならアンナの影からもうひとつ。異形の形をした存在がアンナとマリアを守るように飛び出したからだ。アンナは語る。


「──八尺様は私にとってのワイルドカード。大事な切り札よ。でも切り札が一枚だけだなんて誰が決めたのかしら?奥の手は幾つも作っておくものだわ。姦姦蛇螺、加減しつつ叩き潰して!!」


『ああ ああ。 あ 。あ 。あ あ 。ああ ああ。あ 。 あ 。あああ あ。あ 。あ ああ 。 あ。あ あ 。 ああ。 あ。 あ──!!』


「食べるのはダメ。毒気がありすぎてきっとお腹を壊してしまうから。姦姦蛇螺。私はあなたが痛い思いをするのはいやなの。だから絶対に食べたりしないでね・・・?」


『ああ ああ。 あ 。あ 。 あ 。 。あ 。 あ。 あ 。 。 あ 。 。あ あ。 あ あ 。あああ あ。あ ああ 。』


「うん。いいこね姦姦蛇螺。あとで沢山抱き締めてあげるから。はー、うちの子たちっていい子ばかり···!!賢くて可愛くて。すごく健気!!」


「アンナ義姉様ぐらいだと思いましてよ。やべぇ怪異を手懐けたり可愛いと言えるのは···。というかアンナ義姉様。私は姦姦蛇螺まで居るなんて聞いてないですわ!」


「うふふ。こんなこともあろうかと召喚しておいたのです。強くて賢くて可愛いだなんて。最高過ぎるわよね···!!」


『あ 。あ あ。 。あああ。あ 。あ あ。あ 。ああ あ 。 あ。あああ。ああ あ 。 あ!』


姦姦蛇螺によって発狂寸前にまで追い込まれ。戦意喪失し。バタバタと倒れていくゲオルクと取り巻きたちにマリアは小指の爪の先っちょ程度の憐れみを抱いたけれども。


アンナ義姉様がこんなにはしゃがれてる姿は滅多に見れませんわ。尊い姿を網膜に焼き付けましょうと。ゲオルクたちを意識の外に締め出してアンナをまじまじと見詰めた。


翌日、国境にて。馬車から降りて背伸びをするマリアの姿があった。その傍らにはアンナと八尺がある。というのも討伐隊はアンナとマリアだけなのだ。


マリアの魅了体質を考慮するに少数精鋭が良いだろうとマリアの魅了体質が効かない人間を選出しようとしたが殆どの人間がマリアの魅了に当てられてしまうと分かり。


唯一、魅了に掛からないアンナだけが討伐隊に選ばれる形となったけれども。八尺と姦姦蛇螺という過剰戦力があるので。アンナもマリアもそこまで不安はない。


いやマリアはアンナに超過保護な八尺と姦姦蛇螺がアンナになにかあれば暴走しそうという不安はあるけれども。


地図を片手に自分を呼ぶアンナにマリアは顔を綻ばせ。今日もアンナの頭上に浮かぶ文字から目を逸らすのだ。


【アンナ・フォン・アインホルン/女性/十八歳/魔王/Lv50】


聖女マリアだけが知っている。魔王が誰よりも優しくて美しいひとであることを。

だからこれは逃避行なのだ。誰にも秘密を知られないように聖女マリアは義姉の手を握り八尺と顔を見合わせて。私と貴方の宝物を一緒に守っていきましょうねと笑った。


 

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― 新着の感想 ―
エピソード3までしっかりと読ませていただきました! 今まで見た作品の中でも、かなり心に残る作品でした。 意外性のある作品タイトルが目に入って読み始めたのですが、 秀逸なキャラクターの感情表現、キャラク…
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