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恐怖のオフ会

「とうとう出やがった」


 散々「返事をしろ」と送っておきながら言うのもなんだが、返信がきたことにいくらかビビっている。


 こいつは世界中の人間を騙した恐るべき男。メキシコあたりのガチでヤバいマフィアか何かじゃないのか。そうなると、俺は消されるかもしれない。変な被害妄想ばかりがすくすくと育っていく。


 メッセージを開く。


「今、話せますか?」


 それだけが書いてあった。


 ――話せる、というのは?


 意味は分かっているのに、いざそれを考えると震えた。このまま色々と漏らしそうなところだが、泣き言を言っている場合でもない。


 死ぬほど怖いが「大丈夫だ」と、割と強気な返信を送った。


 ほどなくして、スマホが震える。


 画面には「非通知」の文字。非通知だと着信そのものが出来ないようにしておけば良かった。


「もしもし」


 感情を殺して電話に出る。深夜の自室。かすかなノイズだけがしばらく聞こえる。


 無言がしばらく続く。耐え切れずに「煉獄のスケキヨか?」と訊く。


「そう。今はどんな気分かな?」


 ボイスチェンジャーで変えられた声。万引きで捕まった奴みたいな声がやたら不気味に響いた。


 どんな気分って、気分もクソもねえよ。さっきまでは絶望を通り越して感情が無くなった感があったし、今はお前の声のせいでウンコを漏らしそうなほど怖い思いをしているよ、と言いたいけど言わない。というか言えない。


「……なんで俺を選んだんだ?」


 どうにかひり出した言葉がそれだった。


 こいつに訊きたいことは原稿用紙換算で100枚以上ある。だが、なんとか出てきた言葉はそれだった。


「記者会見の動画は見たかな?」


 煉獄のスケキヨは質問に答えずに訊いてくる。お前は質問出来る立場ではない。言外にそう言っているようだった。


「ああ、見たよ。やってくれたな」

「そうか」


 スケキヨはくっくと笑いだした。


「何がおかしい」

「いや、君の慌てふためく顔を想像したら少しおかしくなってね」

「俺は笑えねーよ」


 思わず出る本音。


 さっきまで死にそうになっていたのに、こいつへの怒りがムクムクと沸いてきた。やはり怒っている状態は無気力よりも少しだけマシな状態らしい。


「考えてみて下さい。私たちの発したしょうもないデマが世界をここまで混乱に叩き落としたんです。調べてみればすぐに分かるのに。世界中にこれだけバカがたくさんいるって思うとなんだか笑えてきませんか?」

「アホ! 笑えてたまるか。人が死んでいるんだぞ!」


 現にこの炎上が原因で自殺者が続々と出てきている。作戦に加わっていた俺ですら一瞬「死にたい」と思った。


 煉獄のスケキヨは無機質な声のまま続ける。


「私のことが憎いですか?」

「ああ、一発ぐらいブン殴ってやらないと気が済まない」

「そうですか」


 数秒間の沈黙の後、煉獄のスケキヨが思いついたかのように言う。


「それじゃあ、実際に会ってみましょうか」

「は?」


 突然の申し出に俺はフリーズする。


「会うって……」


 自分でも死にそうなか細い声になったのが分かる。テレビの不良を悪く言ったら画面の中から「なんだテメー」とキレられた気分だった。


「ええ、だからその、オフ会というやつですね」


 煉獄のスケキヨが無機質な声で言う。


「いや、会ってどうすんだよ」

「今回の作戦ではあなたにもずいぶんと貢献してもらいましたからね。その労をねぎらってあげるのもいいかなと思いまして」


 労をねぎらうって、会った瞬間に銃で撃たれて「おやすみ」って言われるパターンじゃないよな? とは思っても訊けない。


「それじゃあどこで会いましょうか?」


 俺の混乱を知ってか知らずか、煉獄のスケキヨは勝手に話を進める。今は深夜の2時だ。まさかカフェで会うつもりでもあるまい。聞いていて嫌な予感しかしない。


「そうですね、あなたの学校なんてどうですか?」


 俺の心臓が跳ねる。


 高校はたしかに徒歩圏内で、今からでもすぐに行ける。でも、問題はそんなことじゃない。


 鮫島やら真田を断罪したあたりから分かってはいたが、この男はやはり俺の通う高校やその他プライバシーに類する情報を徹底的に調べ上げている。


 言い換えれば「お前に逃げ場はない」と言われているようなものだ。これからどこかへ逃亡したとしても、この男なら地獄の果てまで追いかけて来そうだった。


 オフ会――タチの悪い冗談にしか考えられない。どう考えても罠にしか感じられないが、このまま人生が終わるのを待ちながら部屋で悶々としているよりはまだマシな気がした。


「いいだろう。そこで会おう」

「楽しみですね。いつ来れますか」

「なんなら今からでもいいぞ」

「そうですか。それでは現地で待っています」


 それだけ言って煉獄のスケキヨは通話を切った。他にも腐るほど訊きたいことはあったが、それは会ってから話すしかないだろう。


 会話から察するに、あいつは学校からこの非通知電話をかけていたのだろうか。待っていると言ったということはそういう意味だろう。


 これからオフ会というやつか。気が重いな。こんな気分でオフ会に行く奴なんかいるんだろうか?


 深夜の学校。真夏の怪談みたいな舞台へこれから足を運ぶ。殺されそうな感じしかしないが、それでも行かないとこの状況はどうも動かない。


 煉獄のスケキヨ、実際にはどんな顔をしているのだろうか?


 本家の助清が脳裏に浮かぶ。白い仮面をつけた不気味な男。そんな奴と深夜の学校で出会ったら、それだけでウンコを漏らす揺るぎない自信がある。


 いやしかし、マジでふざけている場合ではない。これからシンジケート(?)の総帥と怖すぎるオフ会になる。


 普通に殺される可能性も十分ある。だが、このまま座して待っていたところで、家ごと爆破されて殺される可能性だって否定出来ない。なにせあんな混乱を世界に引き起こす奴なのだ。学校にお抱えのスナイパーがライフルを構えて待ち伏せしていても何ら不思議ではない。被害妄想ばかりがどんどん肥大していく。


 とりあえずトイレに行く。恐怖のあまり、現地でウンコを漏らすかもしれない。殺されるにしてもウンコを漏らしながら死体が発見されるのは嫌だ。それはどうしても避けたい。


 トイレを済ませると、足音と気配を消して家を出る。両親は寝ているとはいえ、運悪く起きてしまうと色々と厄介だ。


 音を立てずに玄関を出ると、何十秒もかけて家の鍵を閉めた。それでもいくらか音は鳴るが、起きるほどには至らないだろう。


 夜道を歩いて学校へと向かう。深夜のせいもあってか、誰もいない。学校も当然のこと無人だろう。巡回がいるにしても深夜の2時過ぎに学校の見回りをしているとは考えがたい。


 家を出てから気付いたが、武器を持って来るのを忘れた。しまった。うっかりにもほどがある。金属バットぐらい持って来れば良かった。そんなものは家にないけど。


 仕方がないので丸腰のまま行くことにした。これが原因で死んだら間抜け過ぎる。だが、今さら引き返すことなど出来ない。


「冗談じゃねえぞ」


 誰にともなく呟いた言葉は、深夜の闇に溶けていった。

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