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ボクの使命

ボクは今すごく大事な話をされている。


――これはね、君にしか出来ないことなんだよ。

――そう、言うならば君の使命だ。

――君がこれから出会う子が、

―― 一人で泣く夜が無くなるまで、

――大切な誰かが出来るまで、

――君がちゃんと守ってあげてね。


 話終わると、おヒゲ長くてまっしろで、大きなお腹に優しい目をした人はボクの鼻をちょんと触りながらウインクした。


 そうして、ボクは君のところへやって来た。


 考えていたよりも君は小さかった。

 ボクの方が大きいくらいだった。

 だから君がボクで潰されないように、いつもドキドキしていた。


 君はどんどん大きくなって、その度にボクは色々なところが大変なことになった。

 耳や腕、足はよだれでベトベトになるし、

 鼻はかじられて、

 目はほじくり出された。


 それでも君のママはボクを捨てることはしなかった。

 お昼寝するとき、夜寝る時、ボクがいないと君が泣くから。

 ボクを抱きしめていないとよく寝てくれないから。


 洗濯機でぐるぐる回され、口どころか全身から泡が出て、ぐいぐい押されて体や顔の形が変わっても、鼻が無くなっても、つけ直され片目がちょっと飛び出しても、君はずっとボクを見ると笑顔になった。


 だからボクは幸せだった。

 泣いているぐしゃぐしゃの顔と手でギュッとされて、ボクにいっぱい涙と鼻水がついてもそれが勲章のように思えた。

 ボクを求めてくれる君の近くにいられることが。

 成長する君を見ていられることが、ボクの幸せだった。


 だんだんと、君はボクと遊ばなくなった。

 夜もボクを抱きしめていなくても眠れることが増えた。


 綺麗にリボンをつけられて、窓際に座らされ、そこから動かない日々が続いた。


 日に焼けてボクの一部が違う色になっても、ときどきホコリを払ってくれる以外は手を触れなくなった。


 そして、ある時、ボクは箱に入れられた。


 真っ暗な中で考えた。


 ああ、

 君はもう一人で泣かないんだ。

 泣くときはボクじゃない誰かが君を抱きしめてくれるんだ。


 良かった。


 涙は出ないはずなのに、

 ポツンとなにかがこぼれ落ちた気がした。


 そうしてボクは眠りについた。

 君との幸せな日々を思い出しながら。




**



――ああ、良かった、ここだった


 急に眩しい光が差し込む。


――探したよ


 そうしてボクは君に十数年ぶりに抱きしめられた。


 新しい君の家の棚の上がボクの新しい居場所になった。


 君そっくりの小さな子がボクを触りたがったけど、君は絶対に触らせなかった。


――あの子は私のだからダメよ。あなたには貴方のお友達が来るからね



 キラキラとした夜にその人は現れた。

 手に小さな子へのプレゼントを持って。


 ボクに言ったことと同じことを言い聞かせてる。

 大きなお腹がぽよんと動き、優しい目がボクを見る。


「おや、君は立派に使命を果たしたんだね」



 ボクはもう一度泣いた気がした。





 メリークリスマス


ブックサンタ企画で書きました。良いクリスマスとなりますように!

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