46:推しを推し過ぎて
「皇妃と対峙した時のセシル嬢の演技は……真に迫るものでした。特にエドワード殿下について語る時のセシル嬢は……『斜め四十五度で視線を落とし、微笑んだ時のエドワード様の顔が最高に美しい』……など、やけに細かかったですよね」
それにはもう、ギクリとするしかない。
推し活の成果を語るかの如く、あの時は知りうる限りのエドワード様の素晴らしさを、語ってしまった気がする。
「……セシル嬢は婚約者がいました。でもその婚約者については政略結婚であり、気持ちはなかったのですよね。もしやその間、セシル嬢はエドワード殿下のことを……」
「ち、違うんです、違うんですよ、クラウス様。なんというか、若い令嬢は素敵な騎士に憧れたり、王子様との素晴らしい世界を夢見たりするものなのです。そのため、王都ではそう言ったロマンス小説が人気でした」
もう背中から汗が噴き出している気がする!
「私も年頃の時、そのような小説を読み、現実世界にいるエドワード王太子様を応援していたというか……。! そうですよ、王太子様こそ、ナスターシャ姫という素敵な婚約者がいたのですから。お似合いの二人を応援していただけです。エドワード王太子様と恋愛をしたいとか、そんなことありませんから。絶対に」
「……必死に否定されるのですね」
クラウスが、アイシルバーのサラサラの前髪の下の瞳を伏せ、寂しそうな表情になってしまう。これは……今の説明では全然納得してもらえていない!
「本当に、エドワード王太子様のことは、ファンとして見ていただけです。かっこいい王子様を応援していただけ。恋愛したいなんて思っていません!」
クラウスはなんともアンニュイな表情になってしまい、私はもどかしてくたまらなくなっていた。「大好きなのは、クラウス様だけです!」と抱きつきたいのに!
こんな目立つバルコニーにいて、クラウスに抱きつくわけにはいかない。
本当にアイス皇国の「未婚の男女の不用意な接触は禁止」という法律!
これ、どうにかならないのですか!?
そう思いながら、でもどうにもならないので、懸命に言葉を重ねる。
「私が恋愛したいと思い、恋に落ちたのはクラウス様だけです! ウッド王国でクラウス様と過ごした一週間。私にとってはまさに薔薇色の日々。勿論、今もそうですが。本当に、好きになってしまったのです、クラウス様のことを。心から……大好きなんです……」
「セシル嬢……」
ようやくクラウスが顔を挙げてくれた。
しかもその顔はとびっきりの笑顔になっている。
クラウスが笑顔だと、私も自然と笑顔になれた。
その表情は私を抱きしめたい――そんな気持ちで溢れている。
でも、それができないから……。
もう、なんていじらしいの!
私の手をクラウスはぎゅっと握りしめる。
本当はそれすらも禁じられているのだけど。
バルコニーの手すりの影で、手をつないでいることはバレないから!
「ホールに戻りましょうか」
「はい」
私のことをエスコートすると、笑顔のクラウスが優雅に歩き出した。
◇
ホールに戻ると、婚約者のマリアを連れたライト第四皇子が、逆にホールから出て行くところだった。まだ二人とも年齢が若いので、今日はもう部屋に戻って休むのだと言う。
「クラウスお兄様、セシルお義姉様、今日は……本当にありがとうございました」
ライトは黒い瞳をキラキラ輝かせ、礼儀正しく頭を下げた。
「ずっと気になっていて、ボクでは辿り着けなかった真実を暴いてくれたお二人には、心から感謝しています。何より怪我がなくてよかったです」
大人顔負けの優雅さでライトは私の手をとり、甲へとキスをした。
「辛い現実と向き合うことになってしまい、申し訳なく思います。……どうぞ前向きに」
私の言葉に微笑んだライトは、私とクラウスに会釈すると、婚約者であるマリアをエスコートして歩き出す。マリアは今日も派手なリボンをつけ、少し弾けた感じだ。皇妃が適当に選んだ婚約者かもしれないが、こうやって二人の姿を見ていると……。なんだかとてもお似合いだった。
「クラウス兄様、セシル様、今日はお見事でした。断然、自分はお二人を支持します。これからもよろしくお願いします」
ホワイトブロンド長い髪を後ろに束ね、紺碧の瞳を細めるガヴリールは、普通にしていればハンサムな男子という感じなのだけど……。保身のためには何をするか分からないので、適度な距離をキープしたい。
クラウスも、未婚の男女の不用意な接触は禁止なのに、自然と私の肩を抱き寄せ、自分の背後に私を庇うようにしていた。
そこへやって来たのはキリル殿下だ。





























































