31:攻撃の仕方が気になるけれど
一方の私はトニーと共に、離れの一室、ホールへと向かう。
このホールは小ホールという扱いだが、舞踏会が開催できるぐらい広い。一面が窓になっており、とても明るく、庭園がよく見えていた。
「セシル様、よろしくお願いします!」
そう言って敬礼するトニーは、濃いグレーの隊服姿で、私に素敵なミディアム丈の手袋を差し出した。色はロイヤルパープルで、模造宝石が使われており、とてもオシャレだ。私が受け取ろうとすると……。
「セシル様、その前に少し説明させていただいてもいいですか?」
「ええ、勿論よ」
するとトニーは「ありがとうございます」と恭しくお辞儀をした。
「ガントレットは通常、騎士が防具として身に着けるものです。それを女性用に、令嬢でも扱えるように改良したのがこちらです」
トニーが「どうぞ、お受け取りください」と差し出すので、受け取って驚くことになる。
「重いですよね」
「ええ、重いわ」
「これ、こう見えてこの手袋の裏地は鎖帷子と同等のものなのです。さらに甲の部分には薄く伸ばした鋼鉄も装着されているのです」
これにはもうビックリ!
「じゃあこの指輪見たいな飾りも武器……?」
「はい。これで拳を繰り出せば、相手に相当ダメージを与えられます。以前、セシル様はパンチを繰り出し、相手の鼻の骨を折りましたよね? でもこれを装備し、きちんと手を握り、攻撃すれば……歯も折れ、唇も切れ、鼻の骨も折れ、大惨事です。顎でしたら砕けるでしょうね」
そこでトニーはハッとした表情になり、慌てて訂正する。
「今、聞いたことは忘れてください。このセシル様にご用意したガントレットは、防御用ですから。剣で攻撃されたら、手の甲で防御……受け流す。突かれそうになったら両手で掴んで止める。そう言った防御のために活用いただくことになります」
そこまで説明すると「まずは見るのが早いと思います」と言ったトニーは、ホールで護衛のために待機していた護衛騎士に声をかける。
そして自分の腰のベルトで留めていたガントレットを両手につけたトニーは、護衛騎士に短剣で攻撃するように伝える。
二人は向き合うと……。
護衛騎士が短剣でまずは突きの攻撃を行うと、トニーはガントレットの甲を、まるで盾のようにして防ごうとする。そして繰り返される突きの攻撃を左手のガントレットで受け流すと、ガントレットを握りしめた右手で相手の腕に攻撃をしようとする。
護衛騎士はその攻撃の痛みを知っているのだろう。すかさず腕を引っ込め、トニーのガントレットの直撃を避ける。
続けて護衛騎士が短剣で斬りかかると、やはりトニーはガントレットを盾代わりし、そして受け流す。その後は突きの攻撃をされた時と同じ。受け流した後、ガントレットで相手の腕を攻撃しようとする。
最後に護衛騎士が短剣で刺そうと突進してくると……。すごい! トニーは丸腰なのに、ひるむことなく短剣を避けた。
「あ、避けちゃった!」とトニーが笑い、護衛騎士も「ガントレットを使わないと」と苦笑している。
そうか。訓練をしていると、ああやって避けることができるのね。すごい……。
「セシル様、失礼しました。もう一度」
そう言ったトニーは短剣を持って突進してくる護衛騎士を少しだけ避けつつ、その短剣を掴み、横に流そうとする。
「止めようとしても、相手が女性や子供でもないと、セシル様の腕力では止めきれません。ですので流してください。直線で飛び込んでくる相手は横からの動きに無防備ですから。ガントレットで剣を掴み、横に流します」
トニーを見ていると簡単にできそうに思えるが、間違いない。そんなに簡単にできるわけがない!
「だいたいの動きは分かりましたよね?」
「ええ、分かりやすかったわ。実演は……難易度が高そうだけど」
「それは当然です。よって練習が必要です」
そこで私は尋ねる。
「相手の腕にガントレットで攻撃すると、威力はどれぐらいあるの?」
「うまく打撃を与えることができれば、盾を持っていたら落とすと……」
そこでトニーはハッとして顔をひきつらせる。
「セシル様。あくまでガントレットでは防御をしてください。防御です! 攻撃しようとは考えないでください」
「はーい」
攻撃の動きが気になるが、クラウスからもきつく言われているのだろう。防御しか教えてもらえないようだ。
「ちなみに練習はこのドレスのままするのかしら?」
「当然です。セシル様は騎士ではないのですから。ドレス姿の時に、ありえないことですが、周囲にクラウス様も護衛騎士もいない状態で攻撃をされてしまった。その際、自分の身を守るために使うのが、このガントレットなのです。よってドレスで練習、これでOKです」
「なるほど。でも練習とはいえ、結構動くから、このドレスでは……」
するとトニーは楽しそうにクスクスと笑った。
「セシル様、まずはそのガントレット、つけてみませんか」
「ええ、分かったわ」
トニーに言われるまま、手袋にしか見えないガントレットを、まずは右手からつけようと、広げて見る。裏地は鎖帷子と言われたが、直接肌に触れないよう、薄い布が鎖帷子を包んでいるようだ。そのまま手を滑らせると……。
……!
想像より、お、重い!
ミルフィーユのように、布、鎖帷子、薄く伸ばした鋼鉄を重ねているのだ。見た目はミディアム丈の素敵な手袋にしか見えないが、これは立派な防具。身も守る構造なので重かった。
右手の手袋……ガントレットの装着が終わったので、左手にもつけようとするのだが……。
ガントレットを装備した右手が重たく感じ、動きが緩慢になる。それでも左手にも手袋にしか見えないガントレットを装備すると……。
「どうですか、セシル様?」
「重いわ。これでいつも通りに手を動かすのは無理ね」
「つまり、まずは腕の筋力を上げる必要がありますよね」
その通りだった。
さっき、トニーともう一人の護衛騎士が見せてくれたような練習、あれができるようになるのは……当分、先のことと思えた。





























































