30:天変地異の前触れ?
翌朝。
いつも通り、クラウスの優美な笑顔を見ながら、目覚めの紅茶をいただき、着替えをした。アイスシルバーのステッチが、襟、袖、裾を飾るラズベリー色のドレスだ。スカートの三段ティアードが、実に可愛らしい。
私のドレスをミルキーな色合いにしたようなスーツ姿のクラウスは、昨日と同じように私をエスコートし、皇宮のダイニングルームへと向かう。
ちなみに二人で、お揃いのアイスシルバーの毛皮のローブを着ている。
今日の朝食の席は、ひとまず大人しくしていることにした。
一方のクラウスは……。
ガヴリールと目を合わさず、会話の中で、どうしても彼の方へ目を向ける必要性があるとなった時。“氷の貴公子”が相応しい、実に冷たい表情と視線をガヴリールの方へ向けている。
まさに取り付く島もない冷え冷えした表情に、私が凍り付いてしまいそうだった。昨晩の甘々クラウスとは別人過ぎて、もう震撼!
でもクラウスはどれだけ怒っていても、ガヴリールには文句は言わないでいてくれたので、そこは胸をなでおろすことになる。
その朝食の席では、私達の結婚式の話題がちょろりと出たり、8日後の舞踏会についての話が出たり、それぞれが参加した公務の話がされたりと、適度に全員が会話に加われるもので終わる……と思ったまさにその時。
「クラウス様、セシル様。どうも昨日、ガヴリールが粗相をしたようで、申し訳ありませんでしたわね」
皇妃が謝罪の言葉を口にしたので、その場にいた全員が、ガヴリール自身でさえ、震撼している。
もしやこれは天変地異の前触れなのだろうか?
それぐらい衝撃を受けているのに、さらなら震撼発言がもたらされる。
「セシル様、お詫びで明日、わたくしとここにいる皇族の女性陣と、お茶会はいかがかしら?」
すでにシュガークラフトでのお茶会が予定されているのに、その前にお茶会!? これは想定外で答えの準備がない。でも断るのは、得策ではないと分かっている。何より明日のお茶の時間に、予定はないのだから。
皇妃の意図を探りたいと思ったが、昨日のガヴリールの水かけの件がある。相手が皇妃であるならば、水をかけるでは済まない可能性もあった。クラウスも同じように考え、お断りする言葉を発するかもしれない。
そこで私は「クラウス、大丈夫よ」の思いで彼の方を見ると、クラウスが私を見たのは、まさに同時! これって以心伝心ね。やはり私とクラウスは、既に運命共同体と感動しそうになるが、今はそんなことしている場合ではない。
クラウスの浅紫色の瞳をじっと見て頷くと……。
クラウスは心配そうにしながらも「分かりました」の合図でグラスの水を飲む。つまり発言を自分からしないということで、私が口を開く。
「皇妃エリザベータ様、昨日の件は、些細なことです。お気を紛らわす必要はございませんわ。何より既に済んだことですので、お気になさらないでください。ただ、お茶会のお誘いは、謹んでお受けいたします」
皇妃は当然というように悠然と微笑み、朝食は終了となる。
朝食が終了となると同時に、皇妃の突然のお詫びの一言、お茶会の件について、すぐにでもクラウスと話したかった。だがしかし。離れの建物に入るまで、気を抜けない。皇宮にいる間は、この件についてクラウスとは話せなかった。
仕方ないので渡り廊下をクラウスにエスコートしてもらい歩く間は、今日の午後にやってくる宝石商のことを話した。つまりは結婚指輪について、話しながら歩く。
でもクラウスも私も、皇妃の件を話したかった。よって離れに着いた瞬間、即皇妃の件を話すことになる。今日、クラウスは午前中、公務があった。あまり話す時間もなかったので、即、皇妃について話すことになったわけだ。
「間違いなく、裏があると思います。……可能性としては、何か頼み事をされるのかもしれません。皇妃は、シュガークラフトの一件に味をしめたのでしょう。セシル嬢を通せば、ウッド王国にある欲しい物が、手に入りやすいと考えたのではないでしょうか」
「なるほど……。その可能性が高そうですね。いろいろ持参しているので、それで対応できる物が欲しいということであればいいのですが……。でも、無理難題であれば断りますので、大丈夫です」
これは本当に。無理な物は無理だから。そして私が今回「ノー」と答えても、皇妃はそれで激怒するとは思えなかった。だって皇妃の欲望は、底なしだと思うから。欲しい物は沢山あるはず。一度の「ノー」でキレるのではなく、別の物が欲しいときっと言い出すに違いない。
「皇妃のお茶会、さすがにガヴリールのように水をかけることはないと思います。公になった時、批難されるような嫌がらせは、しないタイプなので。どちらかというと、周囲に嫌がらせをしているとバレないような、陰湿な嫌がらせをするのが皇妃ですから……」
そこでクラウスは深いため息をもらす。
「わたしが同席できず、セシル嬢一人を行かせるのは……とても心苦しいです」
クラウスは本当に優しい。
こんなに心配してくれるなんて。
それに同席できないのは、クラウスのせいではないのに。
「皇妃は、皇族の女性でのお茶会と言っていましたから。そこでクラウス様だけが『わたしも同席します』なんて言えるわけがありません。クラウス様は心配だと思います。でもここは私を信じてください」
「セシル嬢……!」
クラウスの瞳がうるうると輝いている。こんな瞳を向けられると、もう抱きしめたくなってしまう。久々に「この顔のクリアファイルが欲しいです!」と思ってしまった。
「そろそろクラウス様はお時間ですよね。私も午前中は、トニーにしっかりガントレットを習いますから」
励ますつもりで言ったのに。クラウスは、うるうる顔から一転、今度は心配でたまらないという顔になってしまう。「くれぐれも怪我をしないようにしてくださいね」と切なそうに囁き、そして私の左手に最大限の寵愛を授け、ジョセフを連れ、宮殿へと向かった。





























































